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「売値は世の中が決める」 戦略コンサルタントが新人時代に学んだ利益創出の絶対原則

山本大平(戦略コンサルタント)

THE21オンライン「トヨタの会議は30分」

『トヨタの会議は30分』(PHP文庫)の著者である山本大平氏は、「売値は世の中が決める」というトヨタの教えにこそ、企業の生き残りの本質があると指摘する。MBAの教科書が教えない、真の利益創出のメカニズムを解剖する。

※本稿は、累計10万部超のベストセラー『トヨタの会議は30分』(PHP文庫)の内容をもとに、著者が新たに執筆したものです。

 

秀才たちが陥る「利益の方程式」の罠

私が戦略コンサルタントとして数多くの企業の経営陣と対峙し、業績不振の組織にメスを入れる中で、停滞している企業には、極めて残酷な共通点があることに気づかされます。

それは、業績が悪化し利益が圧迫された途端、会議室で「どうやって売値を上げるか(値上げするか)」という安易な議論に終始してしまうことです。

すべてのビジネスにおいて、【利益=売上−原価】という大原則の方程式が成り立ちます。さらに分解すれば、【売上=売値×販売数】です。つまり、手っ取り早く利益を出したければ「①売値を上げる」か「②販売数を増やす」か「③原価を下げる」しかない。

これはMBA(経営学修士)の授業や一般的なビジネススクールで真っ先に教えられる、いわば経営学における「絶対的な正解」です。秀才が集まる大企業ほど、この数式をこねくり回し、「競合も値上げしているから」「原材料費が高騰しているから」と、自社の都合(原因論)だけで価格転嫁に踏み切ります。

しかし、この「机上の空論」に寄りかかっている限り、その企業は決して持続的な強者にはなれません。事実、世界最強のモノづくり企業と評されているトヨタの内部では、こうした表面的なMBA的思考は、入社直後の段階で徹底的に退けられました。

「トヨタの会議は30分」

『トヨタの会議は30分』(PHP文庫)/山本大平 著/935円(税込み)

 

「あなたは何もわかっていない!」と怒鳴られた日

私自身、トヨタに入社した当時の新人研修で、この「常識の破壊」を、身をもって経験しました。今でもトラウマになっていますが、入社2年目の泊まり込み研修でのことです。数十人の同期が見守る中、社内講師から突然こう質問されました。

「では山本さん、利益はどうすればつくり出せますか?」

私は当時の「優秀な若手」が答えるべきセオリー通りに、「売上を伸ばすか、原価を下げるかのどちらかです」と即答しました。講師はうなずき、さらに畳み掛けてきます。

「では、売上はどうすれば伸びますか?」

私は自信満々に答えました。

「売値を上げるか、販売数を増やすかのどちらかです」

その瞬間です。講師はものすごい剣幕で私をにらみつけ、「本気で言っていますか?あなたは何もわかっていない!」と、大勢の同期の前で厳しく叱責したのです。研修室の空気は一瞬にして凍りつきました。

誤解のないように言っておきますが、トヨタの人間は決して感情的に人を罵倒したり、人格を否定したりするようなことはしません。その叱責は、若手社員が「経営の本質」を見誤り、自社都合のロジックに溺れようとしていることに対する断罪だったのです。真剣勝負のビジネスの場において、私の薄っぺらい回答は、それほどまでに的を外していました。

一般的な日本企業であれば、私の回答は論理的には正解と言われたでしょう。しかし、トヨタの基準では「致命的な思考停止」とみなされます。

呆然とする私に、講師は静かに、しかし冷徹な事実を言い放ちました。

「売値は世の中、つまり市場が決めるのです。私たちが勝手に決めるのではありません。だから、利益を出すための答えは『販売数を増やす』か『原価を下げる』、この2つしかありません」

 

戦略コンサルタントが目撃してきた「死のシナリオ」

「そんなのは巨大企業だから言える綺麗事だ。商売なのだから、自社の裁量で値上げをして利益を確保して何が悪い」

若かりし頃の私は猛烈に反発しましたし、下請け企業の方や、日々の資金繰りに苦しむ経営者の方も、同じように言いたくなるのではないでしょうか。

しかし、私が戦略コンサルタントとして、これまで数々の企業の盛衰を最前線で見てきた今の経験から言えば、「自社の都合で売値をコントロールできる」と錯覚した企業は、長い時間軸の中で必ず同じ「死のシナリオ」を辿ります。

まず彼らは、自社のコスト事情から逆算して「このくらいの利益が欲しいから」と、市場の期待値を無視した「殿様価格」を設定します。

しかし、市場は残酷です。必ず後発の競合が「同等の品質でより安いもの」をぶつけてくるため、顧客は容赦なくそちらへ流出し、売上は激減します。

すると、次に何が起こるか。焦った経営陣は、今度は利益率を維持したまま無理に価格を下げるため、素材のダウングレードや手抜きといった「品質を犠牲にした安易なコストカット」に走るのです。

しかし、現代の顧客のシビアな目はごまかせません。一時的に売上が戻っても、SNSなどでの悪評やリピート率の低下により、ブランドへの信頼(顧客生涯価値)は完全に崩壊し、市場から退場させられます。

つまり、長い時間軸で見れば、市場は必ず「品質と価格の最適解」へと収束していくのです。企業が自社の都合で売値を決められるというのは、競合が不在の瞬間にだけ許される「危険な幻覚」に過ぎません。

トヨタは「売値は世の中が決める」という絶対的な力学を直視し、原価を下げるという血の滲むような企業努力(原価改善)によって、自らの手で利益を「創造」し続けている、と考えると、あのとき、研修講師に叱責されたことに納得します。

「あのときの私は確かに間違っていた」。経営者になった今だからこそ、「売値は世の中が決める」という真意が痛いほどわかります。

 

現代の企業が垂れ流す、最も凶悪な「原価」の正体

「売値は世の中が決める」

この絶対的な市場の審判の前に立たされたとき、企業が生き残るための道はただ一つ、「原価を下げる」ことしかありません。

しかし、ここで多くの企業が致命的な勘違いを犯します。「原価を下げる=下請けを叩く、安い素材に切り替える」という発想です。これは前述した「死のシナリオ」への直行便に他なりません。

では、市場価格という「動かせない天井」の下で利益を出すために、私たちが血眼になって削り落とすべき真の原価とは何でしょうか。

その一つに「社員の時間」があります。

業績が低迷する企業ほど、「社員の時間は固定費(すでに払っている給料)だからタダ同然」という恐ろしい錯覚に陥っています。「どうにかして値上げできないか」と結論の出ない会議を何時間も繰り返し、誰の責任にもならないように過剰な根回しや言い訳のための資料作りに奔走する。

ハッキリ言います。意思決定を伴わない時間は、会社の利益をドブに捨てているのと同じです。

10人が集まる1時間の定例会議で何も決まらなければ、それは「10時間分の労働コスト」という赤字を垂れ流したことになります。「とりあえず集まって議論しよう」という生ぬるい怠慢は、市場が突きつけてくる厳しい生存競争の中で、自らの首を真綿で絞める自傷行為なのです。

「1秒のムダを憎めない組織に、1円の利益を生み出す資格はない」。怠慢なホワイトカラーが生産性を蝕んでいるとも言い換えられます。独立して自社を創業した今、ときに大手のクライアントの会議に出ると「守られたホワイトカラーって、ええよな」と思ってしまう自分もいて複雑です。

 

利益とは「乗せる」ものではなく、執念で「削り出す」もの

「うちの商品は素晴らしいのだから、高く売れて当然だ」
「原材料が高騰しているのだから、顧客にも負担してもらおう」

厳しい言い方をしますが、これらはすべて「自社の都合」を市場に押し付けているだけの、経営陣の甘えです。「値上げ」は、自らの努力不足を棚に上げた、経営の思考停止を隠すための一時的な痛み止め(麻薬)でしかありません。顧客はあなたの会社の台所事情など一切気にしないのです。

企業が唯一、自らの意志で100%コントロールできるのは、コントロール不可能な市場の価格ではなく、自社の内側にある「原価(時間)」だけです。

利益とは、自らが希望して価格の上に甘んじて「乗せる」ものではありません。市場が突きつける絶対的な価格から、他人の時間を奪うような内なるムダを徹底的に排除し、執念で「削り出した結果として残るもの」なのです。

会議室で「どうやって高く売るか」という机上の空論をこねくり回している暇があるなら、まずは目の前の会議の時間を半分に削り、最短で決断を下すことに全集中すべきではないでしょうか。

そこから削り出された1分1秒の時間の蓄積こそが、どんな不況にもビクともしない、あなたの会社の明日を創る「真の利益」へと変わるのですから。

また、「どうすれば利益が上がるか?」と、役割上、よくクライアントから訊かれますが、魔法の杖を求める前に、まずは「1秒のムダを憎めない組織に、1円の利益を生み出す資格はない」と知ってほしいとも思うのです。

プロフィール

山本大平(やまもと・だいへい)

戦略コンサルタント

京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、トヨタ自動車に入社し新型車開発に従事。その後、TBSテレビ、アクセンチュアを経て2018年に戦略コンサルティング会社F6 Designを設立。データサイエンスとトヨタ流マネジメントを融合した手法を確立し、企業の経営改革を支援している。

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