
『トヨタの会議は30分』(PHP文庫)の著者である山本大平氏は、AI時代に必要なスキルとして、「メンバー同士がゴリゴリやりあいながらも、最速で結論を出すためのコミュニケーション力」を挙げる。そのコミュニケーション力を獲得するヒントとなる「口2耳8」とは何か。トヨタに伝わるコミュニケーションの神髄を語ってもらった。(取材・文:編集部)
――前回、『トヨタの会議は30分』の話もまじえながら、AI時代に価値が上がることについて伺いました。まさか「人間同士の泥臭いコミュニケーション」とは驚きました。
【山本】前回もお伝えしましたが、AI時代に価値が上がるのは「生身の人間」「人間臭さ」だと、私は確信しています。
新しいもの、いいものを生み出す現場には、おたがいの感情やこだわりがあり、利害の対立があり、ロジックだけでは割り切れないものがあります。結局、現場の泥臭い問題は、AIが出す「きれいな正解」だけでは解けないんです。
AI時代に生き残るのは、答えを持っている人ではありません。「自分の頭で問いを掘り続けられる人」です。
手を抜かずに自分の頭で考えて続けられる人だけが、AIを道具として使いこなし、最後の「判断」という責任を自分で背負えます。思考を外注した瞬間に、仕事の主導権もまた、他者に外注されることになりますから。

『トヨタの会議は30分』(PHP文庫)/山本大平 著/935円(税込み)
――とは言っても、AIによってスリム化されるコミュニケーションもありますよね?
【山本】そうですね。AIやオンライン会議の登場によって、コミュニケーションは「密なコミュニケーション」と「薄いコミュニケーション」に二極化すると考えています。
たとえば、営業パーソンが、まだまったく知り合っていない段階の人に「ご挨拶だけさせてください!」と飛び込み営業することや、年賀状やお歳暮・お中元、年末年始の挨拶といった儀礼的なやりとりは、確実に減っていくでしょうね。
その一方で、AIやオンライン会議ではできない「人間対人間」の深くて骨太な直球のやりとりは確実に残ります。むしろ、これからは「人間同士の泥臭いコミュニケーション」がより重要になっていくはずです。
だからこそ、AI時代には、「本当の」コミュニケーション力が、とても大切になってきます。ただし、雑談力やヨイショ力、段取り力といった、かつての日本の企業で評価されてきたものではありません。
これから必要になるのは、おたがいの意見が対立したときに、いかにスムーズに合意形成するかというスキルです。言い換えると、メンバー同士がゴリゴリやりあいながらも、最速で結論を出すためのコミュニケーション力です。
――メンバー同士がぶつかりあいながら、結論まで最速で出すのが、本当のコミュニケーション力ですか。
【山本】はい。この本当のコミュニケーション力を身につけていくうえで大いに参考になるのが、トヨタに伝わる「口2耳8」という考え方です。
これは「口=自分が話すこと2割」「耳=相手の話を聞くこと8割」という意味で、会議でのコミュニケーションの黄金比をあらわしています。
私がトヨタに勤めていたときのある役員の方が好んで使っていた言葉で、なんともトヨタらしい言葉だと感じています。
たとえば、会議や打ち合わせで、まったく発言しなければ「口0」です。当然、その会議におけるアウトプットも0。トヨタでは、そんなふうに会議で何も発言しない人は「空気さん」と呼ばれていました。
一方で、会議の場で「口8」や「口10」、つまり、誰か一人がしゃべってばかりでは、対話が一方的になってしまいます。それは、もう会議ではなく「独演会」です。そんなことをしていると、トヨタでは「もういい、やめろ!」と止められるか、「参加する価値はない」と判断されて途中退席されてしまいます。
――たしかに「空気さん」「独演会開催者」、どちらもいますね......。
【山本】そのどちらにもならないように、自分の意見はしっかり発言して議論に参加しながら、同時並行で、相手の意見を聞いたり確認したりもする。その最適なコミュニケーション黄金比が「口2耳8」というわけです。
この黄金比を守ると、おたがいの意見をバシバシぶつけつつ、でも誰か一人の独演会になるようなことは絶対にありません。メンバー同士が、話しすぎず、黙りすぎないコミュニケーションができるので、自然と深い議論ができます。
トヨタの会議が30分で終わるのも、ほかのどの企業よりも最速・骨太のコミュニケーションが実現できるのも、この「口2耳8」が徹底されていたことが肝だったと、今あらためて強く思います。
――なるほど。でも、10人、20人と参加者の多い会議もありますよね。その場合、「口2耳8」は難しいのでは?
【山本】そうですね。参加人数が多い会議では、物理的に時間が足りなくなって、参加者の何人かが「口0」の「空気さん」になったり、誰か一人だけがしゃべりたおして「口10」の「独演会」になったりする可能性がグンと高くなります。
実は、さきほどの「口2耳8」のコミュニケーションの黄金比は、会議の適正人数を割り出すための数式にもなっているんです。
たとえば、会議の参加者が10人だと、参加者全員が平等に話しても「口1」にしかなりません。20人なら「口0.5」です。誰かがちょっとでも長く話すと、たちまち「空気さん」が生まれてしまいます。
これが5人になると、どうでしょうか?全体の10を5人で割ると、一人あたり2になりますよね。会議全体で見ると、きれいに「口2耳8」になっています。黄金比を実現できる、ちょうどいい人数です。
つまり、意味のある会議ができる参加人数の上限は「5人まで」という結論が出てきます。10人、20人の集まりは、そもそも会議ではないんです。
――10人、20人の集まりは、もはや会議ではないと......。
【山本】そうです。会議の最適人数は「5人まで」。一人あたりの時間で考えると、よりイメージしやすくなると思います。
たとえば、会議が30分で参加者5人なら、一人あたり「6分」話して「24分」聞くイメージです。6分あれば、かなり深いことが話せますし、24分話を聞けば、メンバーの意見についての解像度がグッと上がるはずです。
これが倍の10人になると、「3分」話して「27分」聞くことになります。3分で深い意見を伝えるのは、よほど要約力が高い人でないと難しいでしょう。20人になろうものなら、「1.5分」話して「28.5分」聞くイメージです。これでは、とても深い議論なんてできないですよね。
だからこそ、会議を運営する人は、「呼ばない人を決める」ことが大切です。「一応関係あるから、念のため、あの人も呼んでおこう」という配慮が、会議を破綻させる原因になっているんです。勇気を出して、人を呼ばない。参加人数を「5人まで」にしぼる。これが会議を運営する人の使命です。
更新:03月11日 00:05