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勝てばそれでいいのか? 元代表監督が教える「やり方より、あり方」の真意

倉嶋洋介(元男子卓球日本代表監督)

「卓球最強メソッド」

元男子卓球日本代表監督である倉嶋洋介氏は、「勝ち負け以上に大切なこと」の存在を説く。卓球のみならず、スポーツを通じて得られる人格形成の重要性とは何か。解説してもらった。

※本稿は、倉嶋洋介著『神コーチが教える卓球「最強」メソッド』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

勝ち負け以上に大切なこと

スポーツは勝ち負けを競うものですが、勝敗にこだわるあまり、選手として、そして人として大切なものを失わないようにしてほしい。これは私が指導者として常に心に留めていることのひとつです。

「グッドルーザー(良き敗者)」という言葉があります。どんなに悔しくても勝者をたたえ、試合後には相手の目を見て握手を交わす。そんな選手を指します。中には、負けて機嫌を悪くしたり、イライラを表に出してしまう選手もいますが、それでは選手として失格です。

私自身も監督として悔しい敗戦は何度も経験してきたので気持ちはよくわかります。しかし、そこで感情をぶつけてしまえば、それまで積み重ねてきた努力やチームの姿勢がすべて台無しになってしまいます。だからこそ、私は相手をたたえ、冷静にインタビューを受けるように心がけています。

そして、勝った時の謙虚さも同じくらい大切です。決しておごるような態度を取ってはいけません。勝った時には謙虚に、負けた時には潔く。それが本当のスポーツマンです。若い選手の皆さんにも、ぜひそんな姿勢を忘れずに、勝っても負けても誇れる選手を目指してほしいですし、それこそがスポーツの原点だと思います。

 

「社会の中に卓球がある」ことを忘れずに

指導者として、私が選手たちによく伝えている言葉があります。それは「社会の中に卓球界がある」ということです。全国トップレベルの選手になるような人たちは、幼い頃から卓球に打ち込み、まさに卓球漬けの日々を送ってきたケースがほとんどです。

しかしその一方で、学校の勉強がおろそかになったり、社会的な経験が乏しいまま大人になってしまうことも少なくありません。卓球界の中での常識が世の中の常識だと勘違いし、社会に出てから苦労してしまう例もあります。そうならないためにも、「卓球界は社会の中にある」という当たり前のことを、選手自身がしっかり意識すべきだと私は感じています。

卓球人生がどれほど輝かしいものであっても、競技を終えたあとの人生のほうがはるかに長いのです。だからこそ、「競技者としてどこまで強くなれるか」だけでなく、「人としてどう成長できるか」を常に考えてほしいのです。

スポーツを通して学べることは、技術や勝敗だけではありません。努力する大切さ、相手を敬う心、周囲への感謝の気持ち。こうしたことを身につけた選手は多くの人に支えてもらい、社会でも活躍できるはずです。

そして、そういう選手が一人でも増えていくことで、卓球界、スポーツ界そのものがもっと良い方向に成長していくと、私は信じています。

 

「やり方」よりも大切な「あり方」

ナショナルチームの監督時代、私が常に意識していたのが「やり方よりもあり方」という考え方です。監督に就いた時にまず「監督とはこうあるべきだ」という理想像を自分の中に作り、そのうえで「監督ならどう声をかけるか、どう行動すべきか」を考えながら、日々の言動に落とし込むようにしたのです。

正直、選手時代の自分はあまい部分も多く、今でも未熟なところはあります。しかし、言葉や行動を意識的に変えていくうちに、少しずつ理想の監督像が自分の姿に重なっていく感覚を持てるようになりました。

指導のテクニックという「やり方」ももちろん重要です。ですがそれ以上に、指導者としてどうあるべきかという「あり方」が根幹だと私は考えています。確固たる信念を持ちながらも柔軟であり、状況を見極めながら最適な選択を導く。それが私の理想とする監督の姿です。

 

指導者の学ぶ姿勢の大切さ

指導者は「チームや選手は、リーダーの力量以上には育たない」という視点を持つことが大切です。たとえ選手に大きな可能性があっても、監督の指導法に課題があれば、選手は思ったとおりには成長してくれません。

指導の現場では「何度言っても伝わらない」「なかなか強くならない」という指導者の声をよく耳にします。その時にすべてを選手のせいにするのではなく、説明の順序や言葉の選び方、声のかけ方、練習法など、指導者側で改善できることはないか、自分自身を見つめ直してほしいのです。

「選手が伸びない=自分の指導力にも成長の余地がある」と受け止められるかどうかが大切であり、そのようにして指導者自身が学ぶ姿勢を持つと、チーム全体も成長していくはずです。

サッカーの元フランス代表監督、ロジェ・ルメールの言葉に「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない」というものがあります。まさにそのとおりで、指導者が学ぶことをやめた瞬間、チームの成長も止まってしまうと考えています。

強い選手、強いチームを育成するのであれば、誰よりも指導者自身が学び続けること。その姿勢こそが、選手の成長と勝利を導く“本当の指導力”だと私は思います。

プロフィール

倉嶋洋介(くらしま・ようすけ)

元男子卓球日本代表監督

1976年東京都出身。埼玉工業大学深谷高等学校、明治大学へと進学した後に協和発酵へ入社した。全日本選手権男子ダブルス優勝3回、全日本選手権混合ダブルス優勝1回など、選手として活躍。2007年からは明治大学コーチとして指導をはじめ、現役引退後の2010年より男子ナショナルーム、ジュニアナショナルチームのコーチを務め、2012年に男子ナショナルチーム監督に就任。リオデジャネイロオリンピックでは団体で銀メダルを獲得し、日本卓球男子に初のメダルをもたらした。続く東京オリンピックでは団体で銅メダルを獲得し、2大会連続のメダル獲得となった。2021年にナショナルチームの監督を退任、10月よりTリーグの木下マイスター東京の総監督に就任。2024年9月をもって退任した。現在は卓球の指導や講演など、これまで培ってきた知識や経験を次の世代につなぐべく、様々な活動を行っている。

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