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「頑張れ」が部下を追い込む理由 ホークスコーチが教える正しい声かけ

伴元裕(福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ)

「集中力革命」

福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチとして、チームの優勝・日本一に貢献した伴元裕氏。指導者や上司の立場で、メンバーの集中力向上を目指すにはどうするべきか。解説してもらった。

※本稿は、伴元裕著『集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』(Gakken)より一部抜粋・編集したものです。

 

仕事に臨む人の頭の中

スポーツの現場だけでなく、ビジネスシーンでも同じことがいえます。やらなければいけないことは、はっきりしています。締切もわかっているし、この作業を後回しにしても状況が良くならないこともわかっています。それでも、パソコンを開いたまま手が止まり、別のタスクを先に片づけてしまう......。気が進まない、という感覚だけが、静かに残っている状態です。

これまで、何もしてこなかったわけではありません。必要な情報は集めてきたし、段取りも考えています。経験上、どう進めればいいかもわかっています。それなのに、なぜか取りかかれない。自分でも理由がはっきりしないまま、時間だけが過ぎていきます。

気がつくと、意識は少しずつ先へ向かっています。

「この仕事をやった結果、どう評価されるだろうか。中途半端だと思われないだろうか。ちゃんと価値のあるアウトプットになるだろうか」

そんな考えが浮かんだ瞬間、自分の中に「評価する目」が立ち上がります。まだ始めてもいない自分の仕事を、外側から眺め、できそうかどうかを測り始めてしまう、そんな管理者モードに入っていることに、ふと気づきます。

「やる気を出して、ちゃんと集中しなければ......」

そんなふうに自分を整えようとするほど気が進まない感覚は、怠けや甘えのように扱われ、無理に消そうと努力をしてしまうものです。

けれど、そこで一度立ち止まりましょう。

「気が進まないという感覚を、否定しなくていいんだ。面倒だと感じることも重たく感じることも、自然な反応だ」と。

これら自体が、前に進めない原因になっているわけではないのです。

では、このとき「今、自分で、できること」は何でしょうか。ここで求められるのは、やる気を出すことでも、完璧なアウトプットを想像することでもありません。自分がこの仕事で、何を果たそうとしているのかというパフォーマンス目標に、注意を戻すことです。うまくできそうかどうかではなく、少しでもその意図に近づこうとする姿勢を保てているか。その確認が、次の行動を選び直すための土台になります。

そのうえで、注意を置く先は、「今、ここで、実際に手を動かせること」になります。たとえば、資料を一行だけ読み直したり、冒頭の見出しを書き出してみたり、必要な情報を一つだけ整理したりする、などです。完成させようとするのではなく、次につながる最小の行動に注意を向けることが大切です。

注意は、ビジネスシーンでも逸れるものです。メールの通知、別の仕事、評価への不安、うまく進んでいないという感覚......。これらは何度でも顔を出しますが、それでいいのです。集中できているか、やる気があるかどうかが問題なのではありません。良い状態か、悪い状態かを判断する必要もありません。

注意が逸れたことに気づいたら、そのたびに「今、ここで、できる行動」に注意を戻し続けることです。仕事に取りかかれない時間があったとしても、戻る先があれば、行動は必ず再開できるのですから。

注意が逸れたことに気づき、そのたびに戻していく。その過程そのものが、集中なのです。

 

導く立場の人の頭の中

あなたが、スポーツの現場で、あるいは会社で、指導する立場だったとしましょう。目の前の相手が、思うように動けていないことに気づきます。

「やるべきことはわかっているはずなのに、手が止まってしまっているな。準備不足には見えない。けれども、なかなか動けていない」

その様子を見ていると、こちらの中に、落ち着かない感覚が生まれてくるものです。相手の状況も理解しているし、必要なサポートもしてきた。それでも、この沈黙や停滞を前にすると、どう関わるべきか迷いが生じてしまうものです。

気づくと、意識は少しずつ先へ向かっています。

「このままで成果は出せるだろうか。チーム全体に影響はないだろうか。自分の関わり方は正しいだろうか」

そうした考えが浮かんだ瞬間、相手そのものではなく、「結果」や「出来」に注意が向き始めてしまいます。評価する視点が立ち上がり、相手の行動を外側から測り始めていることに、ふと気づきます。

そんなとき、多くの場合、人は何かをしたくなるものです。

「結果への意識を持たせたほうがいいのではないか。確認のチェックリストを増やしたほうがいいのではないか。あるいは、『自信を持て』『落ち着いてやれば大丈夫だ』と感情を整えさせたほうがいいのではないか」

このようにして、相手が止まっている状態を問題として扱い、正しい状態に戻そうとします。

しかし、ここで一度立ち止まって、次のように考えてみましょう。

「相手が今すぐ動けていないことを、否定しなくていいんだ。止まっているように見える時間も、迷っているように見える状態も、この場面では自然な過程かもしれない」

それ自体が、失敗や怠慢を意味しているとは限りません。では、「今、自分にできること」は何でしょうか。

ここで求められるのは、相手を動かすことでも、正解を与えることでもありません。相手がこの場で、何を果たそうとしているのかという意図に、注意を戻してあげることなのです。うまく進んでいるかどうかではなく、相手がその意図に向かう余地があるか。その確認が、関わり方を選び直す土台になるのです。

そのうえで、関わる側ができることはさほど多くありません。注意を適切な場所に戻せる手がかりを、一つ託してあげるだけで十分な場面もあります。すぐに行動を指示するのではなく、戻る先を見えるようにしてあげるのです。

たとえば、「今、どんなプレーをしようとしていたかな」と管理ではなく静かに問いかけるように。このような関わり方が、相手の中にある力を邪魔せずに支える方法の一つなのです。

すでに相手がその「戻る場所」を持っている場合は、静観するという選択がもっとも良い関わり方である可能性もあります。何かを足すよりも、何もしないことで、その人が自分で戻ってくる時間と余白を守るのです。

こちらの注意も、また逸れることもあるでしょう。結果や自分自身の評価への不安、時間的な制約――。これらは何度でも顔を出します。それでも、それを認めましょう。良い関わりができているかどうかを、その場で判断する必要はありません。

注意が逸れたことに気づいたら、そのたびに「相手が意図に戻れる関わり」に注意を戻し続けるのです。関わる側がすべてを整えなくても、戻る先が残っていれば、相手は自分のタイミングで動き出すことができます。

関わるという行為もまた、最初から正しくある必要はありません。相手を動かそうと焦るとき、関わる側の注意もまた、相手の変化や結果のほうへと向いていることがあります。

その注意のズレに気づき、相手が自分で意図や今できる行動に立ち返れるよう関わっていく。そうすることで、相手が自分で動き出せる余地が保たれていきます。

プロフィール

伴元裕(ばん・もとひろ)

福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ

株式会社OWN PEAK代表取締役。7年間の商社勤務経験を経たのち、米国オリンピックトレーニングセンターのメンタルトレーニングを学ぶため渡米。デンバー大学大学院スポーツ&パフォーマンス心理学修士課程を修了する。在学中にMLSコロラドラピッズアカデミーにてメンタルトレーナー(インターン)を経験。2017年に帰国後、OWN PEAK創業。スポーツ、ビジネス、教育現場における実力発揮のためのメンタルスキルの獲得を支援している。

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