
学び直しをするといっても、勉強のモチベーションを保ち続けるのは難しいもの。「誘惑を防ぐ環境」はどのように作り出せばよいのか。明治大学教授の堀田秀吾氏に語ってもらった。(取材・構成:橋口佐紀子)
※本稿は、『THE21』2026年3月号特集[圧倒的な差がつく「学び直し」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
※前後編の後編です。

1日30分なり、1時間なり、まとまった勉強時間を確保するには、ルーティン化も意識してください。 今日は7時から、明日は9時からなど、日によって始める時間がバラバラでは、ルーティンにはなりにくい。毎日いつもの時間に同じことをするのがルーティン化のコツです。
そのリズムが定着してくると、いつもの時間にいつものことをしないと、気持ち悪く感じるようになります。私の場合、夕方5~6時に大学から帰宅し、夕食や入浴、休憩を取ったあと、子どもたちが寝る8時過ぎからが仕事タイムです。12時までは夫婦の会話を交えつつ仕事し、さらに12時からは寝落ちするまで没入して仕事をします。
そして、ショートスリーパーなので明け方に起きて再開し、家族が起き出す頃まで再び没入するというのが毎日のルーティンです。週末も、夜から朝にかけてのルーティンは変わりません。
ちなみに勉強は、仕事前の朝か、終業後の夜か、どちらがいいのかというと、お勧めは朝。朝のほうが脳の活動が活発で、注意力と記憶力が高まるからです。
さらに、勉強をする前に10分でいいので散歩をすると、脳に酸素が行き渡り、脳の働きが高まります。イリノイ大学のサラスらは、被験者を「覚える前に10分間歩いたグループ」と「覚える前に歩かず、10分間座って風景写真を見るグループ」の2つに分けて、名詞を記憶してもらう実験を行ないました。
その結果、覚える前に歩いたグループのほうが、正答率が25%良かったのです。歩くことで脳の血流が良くなったのでしょう。
散歩に出るのが面倒という場合は、10分間の階段の昇降運動でも、眠気覚ましに効果があり、モチベーションが上がることがわかっています。屋内の昇降運動でも、心拍数が上がるので、脳に送られる血流も増えます。
そうすると、脳の神経細胞の働きが上がり、記憶力や学習能力、問題解決能力の向上につながります。 朝起きて、少し身体を動かしてから勉強をして、朝食を取って出かける――。そういうモーニングルーティンは、科学的にも理にかなっていて素敵ですよね。
ただし、新しい習慣が定着するまでにはそれなりの期間を要することは心に留めておいてください。ロンドン大学のフィリッパ・ラリーらの研究では、新しい習慣が定着するまでにかかった日数は平均66日でした。
しかも、人によっても違えば、取り入れる習慣の難易度によっても違います。ですから、「最低2カ月は頑張ろう」という気持ちで始めましょう。
よくあるのは、新しい習慣を取り入れて1カ月ぐらい経った頃にさぼって、「ああ、続かなかった」と諦めてしまうこと。この段階では習慣化に失敗したわけではなく、単純に日にちが足りていないのです。途中で間が空いてもいいので、まずは2カ月続けましょう。
また、習慣化という意味では毎日続けたほうがいいのですが、勉強効率という点では、間を空けたほうがいいことがわかっています。間隔学習といって、間を空けて、忘れかけた頃に復習したほうが記憶の定着率が高まるのです。
ですから、毎日同じ時間に勉強時間を確保しつつ、その中身を日によって変えるといいでしょう。例えば、月・水・金・日は勉強をして、火・木・土は同じ時間に筋トレをするなど、まったく別のことを組み合わせるのも一つの方法です。
あるいは、毎日英単語を覚えるにしても、1日10個覚えて、翌日は前日分の復習と新しい10個......と続けるよりも、復習は1週間後ぐらいに行ない、覚えたものは抜いていくというふうにしたほうが、より定着します。強固な記憶には〝熟成期間〟が必要なのです。
また、勉強に飽きたときのマイルールをつくっておくことも大事です。
例えば、注意力が散漫になってきたらラムネを一粒食べる。脳に必要なのは、酸素とブドウ糖です。ラムネは手っ取り早くブドウ糖を摂れるので、食べると頭がスッキリします。脳をリフレッシュさせるには、科目を変えるのも一つの手。集中して勉強していると、15分から30分でどうしても疲れてきます。そういうときには新しいことをやったほうが、脳がリフレッシュされ、学習効果は高まります。実際、色々な問題にランダムに取り組んだほうが、勉強効率が上がることが明らかになっています。
疲れたら昼寝をするのも有益です。ザールラント大学のスタッテらの研究では、41人の被験者に90個の単語を覚えさせる際、45~60分の昼寝をした人たちは、DVD鑑賞を行なった人たちに比べて最大5倍の改善が見られました。昼寝をすることで記憶が定着するのです。
ただし、NASAの研究では30分以上の昼寝は生産性を落とし、平均26分の睡眠をとったときにパフォーマンスが最も向上することがわかっています。勉強に疲れたときには30分以内の短い昼寝を挟むといいでしょう。
その他、落書き、貧乏ゆすり、トングでカチカチするといった行為も、実は集中力を高めるのに役立ちます。プリマス大学のアンドレイドの研究では、録音テープを聴いて記憶力をチェックするテストで、図形をなぞる落書きをしながら聴いた人たちのほうが、何もせずに聴くことに集中した人たちよりも29%も多くの内容を覚えていました。
一見、無駄な動きですが、はやる気持ちを、手足を軽く動かすことでガス抜きしているのです。

意外なところでは、勉強習慣を身につけるのにジム通いもお勧めです。スポーツジムに定期的に行くようになると、ストレス解消といった直接的な効果だけではなく、より健康的な生活を意識するようになって食生活も健康的になる、時間管理の意識も高まって学習習慣も改善するなど、様々な波及効果があることがわかっているのです。
ジム通いという一つの行動パターンが、他の行動パターンにも伝播していくわけです。集団レッスンを予約する、パーソナルトレーナーをつけるなど、強制力が働く仕組みをつくると、ジムも定期的に通いやすくなります。
仕組みは多ければ多いほど、習慣化しやすいのです。私たちのやる気はエンジンなので、無理やりにでもかけなければ始まりません。ですから、とりあえず一つ新しいことを始めるということはとても大事です。ただ、より強固に習慣化を目指すなら、習慣にしたいことを複数用意したほうが、定着しやすくなります。
最後に、性格別の勉強法のアドバイスをお伝えしましょう。計画性や責任感といった「誠実性」が高いタイプは、長期学習計画を立てて、チェックリストで進捗を可視化すると達成感が上がります。
ただし、計画や目標を常に100%クリアしようとすると続きません。完璧主義になりすぎないように気をつけてください。
好奇心旺盛な「開放性」が高いタイプは、異なる分野を組み合わせること、人とディスカッションすること、VRやポッドキャストなど多様なメディアを使った実験的な学習法にチャレンジすることが有効です。
社交的で「外向性」が高いタイプは、静かな場所で一人で勉強するよりもカフェや図書館などの適度な雑音がある環境のほうが集中できます。スタディグループを作って、人に教えることも有効です。
人づきあいが得意な「協調性」の高いタイプは、互いに教え合うピアラーニングや、先生や先輩に学ぶことが向いています。
繊細で注意深い「神経症傾向」が高いタイプは、小さな目標を設定して達成感を積み重ねるといいでしょう。年齢を重ねるにつれ、体力や記憶力の衰えを感じる方は多いかもしれません。一方で、50歳を過ぎてからピークを迎える能力があることもわかっています。
例えば、語彙力のピークは、なんと60代後半から70代前半だといわれています。歳をとることは衰えることではなく、一歩先に進むこと。いくつになっても学び続けましょう。
更新:02月25日 00:05