「ジャズを英語で歌いたい」。その一心で英語学習を始めた有安杏果さん。仕事に全力で取り組む中で、勉強時間をつくり出し、「コツコツ」を積み重ねて、見事英検準1級を取得した。どのような勉強法を実践したのか、話を聞いた。(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2025年11月号特集[「英語」最速学び直し]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
――「ももいろクローバーZ」卒業後、歌手として活躍しながら、この8月に英検準1級を取得された有安杏果さん。TOEICもわずか2年間で540点から875点にスコアを伸ばされたそうで、まさに驚異的のひと言です。
【有安】恐縮です。ありがとうございます!
――今日はその飛躍の秘訣をうかがいたいです。まずは、英語学習を志した動機を教えていただけますか?
【有安】きっかけは仕事です。私の表現活動の中で一つの柱になっている「ジャズ」を、英語で歌える力を備えたいと思ったのが始まりでした。そこで、歌うにあたって一番大事な「発音」から着手。
ネイティブの発音に直接触れるべく、2021年からオンライン英会話を始めたところ、自分の英語が拙すぎることに気づき、ここは文法も含めて本格的に学ぼう、せっかくなら目標を設定して頑張ろう......というわけで、22年よりTOEICと英検の勉強を始めた次第です。
――社会人にはTOEICのほうがポピュラーな印象がありますが、英検も目指されたのですね。
【有安】はい。学生にはTOEICよりも英検のほうがなじみ深く、中学2年のときに3級を取ったきりだったので、まずは準2級から挑戦しようと思いました。そこで参考書を探しに書店に行くと、英検とTOEICのコーナーが充実していると気づき、だったら二本柱で行こう、と。独学で学ぶつもりだったので、色々な参考書があることも心強いポイントでした。
――独学で、しかも仕事と並行しながら。それでも短期間でステップアップされました。
【有安】ひとえに「コツコツ」の結果です。3級は持っているから次は準2級、その次は2級......と、少しずつ歩みを進める感覚でした。ちなみに英検には「ダブル受験」と言って、一日に2つの級を受けられるシステムがあります。準2級と2級、2級と準1級というふうに、隣り合わせの級を同時に受験できたのが、私にとっては非常に良かったです。
――良かった、というのは?
【有安】毎回ダブルで受けていたので、試験勉強も2つの級を同時並行していました。すると、例えば2級の勉強後に準2級の勉強をすると、少し楽に感じられて勢いがつきます。また、2級だけに注力していると抜けがちな基礎も、しっかり押さえられます。英検は級同士のつながりがよくできていて、準2級が理解できていると2級の理解もスムーズに進むので、自然に階段を上っていける感覚がありました。
――着実かつスピーディーに実力がつきそうですね。
【有安】そうなんです。さらに英検でありがたかったのが、自分の得意不得意によって勉強のしかたを調整できたことです。私はリスニングが比較的得意だったので、2級受験時も準1級のリスニングに早目に着手でき、逆に苦手な読解は、自分のレベルに合った級の問題を何度も解いて基礎を固めることができました。
――リスニングが得意とは、日本人には珍しいですね。
【有安】発音を最初に勉強したからだと思います。自分で発音できない音は聞き取れない、ともよく言われますからね。一方で、文法と読解は圧倒的に苦手で、これは受験英語の知識が不足していたせいです。
――その弱点は、どう克服を?
【有安】中学英語のやり直しと、大学受験用の参考書を活用しながら苦手なところを潰していきました。他の方々が学生時代にクリアされていることばかりなので、追いつこうと必死でした。
――お仕事をはじめ、日々の生活の中に勉強を組み込むのも大変だったのでは。
【有安】そうですね。私の仕事はライブツアーのある時期と、ツアー準備の時期、それ以外の時期には曲の制作があります。加えて毎日欠かせないのが楽器の練習。ピアノもギターも、少しやらないだけですぐ調子が狂うのは、英語学習と似ています。ほか、ジム通いやランニングなどでの体力づくり。あと主婦でもあるので家事もして、そこへ勉強を組み込んでいく感じです。
――それは......可能なのでしょうか?(笑)
【有安】最初は私も、本当にできるだろうかと悩みました。でもふと気づいたんです、「朝がある!」と。元来、仕事の影響もあって夜型生活でしたが、頑張って起床時間を前倒し。8時、7時、6時と少しずつトライして、最終的に朝5時起きに。始めてみると、これが快適。夜と違って急な用事も入らないし、ズルズル「残業」して夜更かしすることもなく、健康的な生活になりました。仕事が始まるまでの限られた時間に集中できたのも良かったです。
――朝5時から、何時間勉強を?
【有安】4時間できる日もあれば1時間の日もありました。でも「勉強しない日」だけは絶対に作りませんでした。週末も休日も、体調がすぐれなくても、15分でもいいからやるようにしていました。
――勉強できる時間が毎日違うと、計画を立てるのが難しくなかったですか?
【有安】毎晩、翌日の勉強メニューを決めていました。翌日の予定と勉強できる時間を確認し、配分を細かく設定。30分あるなら単語10分、リスニング20分、というふうに分刻みで組み立てていましたね。
――分刻みですか! 想定外のことが起こって困ったことは?
【有安】最初はありました。参考書の解説が細かくて意外と時間がかかる、など。そこもトライアンドエラーで、日々調整していきました。その過程で思ったのは、問題を解く時間より復習に倍の時間がかかることと、その復習こそ一番大事だ、ということです。間違えた理由を確かめ、その箇所の知識を固めることで、同じ間違いをせずに済む、とわかりました。
――大きな発見ですね。他に、スキマ時間は利用しましたか?
【有安】はい、最大限利用しました。仕事の空き時間や移動時に、単語や文法問題のアプリを開いて4択問題を解いていました。最近は便利なアプリが多くてありがたかったです。単語アプリの「mikan」、レベルに合わせて出題してくれる「abceed」、「スタディサプリ」のアプリなどなど。また、参考書に紐づいているリスニングアプリは速度を変えられるので、最初はゆっくりめで聞いて、最後は1.5倍速や2倍速にして耳を鍛える、といった訓練ができました。
――両立の秘訣はきっと、一分一秒を無駄にしない姿勢ですね。
【有安】そうだと思います。「時間を大切にする習慣」を意識しました。そうした積み重ねが、生活全体の充実感にもつながっていると感じています。最初に決めたのは「勉強のせいにして仕事や家事をおろそかにはしない」ということ。仕事のために始めた勉強で、仕事が疎かになっては本末転倒ですから。
その思いが土台にあるので、何においても時間を大切に使う意識が生まれ、その結果、英語以外のことにもプラスの効果がありました。例えば、楽器の練習の質。集中力が上がり、時間当たりの密度が濃くなったように思います。
――勉強で培った集中力が、他のことにも良い作用を?
【有安】英語の勉強は「量×質」だと思いますが、より効率よく学ぶために「量×質×集中力」を意識して行動しました。その結果、限られた時間──日々の勉強時間や試験本番の時間に集中することができるようになり、学びの効果が高まっただけでなく、楽器の練習や楽曲作り、ライブに取り組むときも同じように集中力を発揮できるようになりました。
――素晴らしいです。ちなみに、集中するために「やめたこと」はありますか?
【有安】「なんとなく」をやめました。何を見るでもなくテレビをつける、ということがなくなって、観たい番組だけ選んで観るようになりました。
――逆に、息抜きの時間を設けることは?
【有安】実は、息抜きは苦手分野です。強いて言えばランニングでしょうか。音楽を聞きながら外の空気を吸うとリフレッシュできます。
――ランニングは、身体づくりの一環でもありますよね。有安さんはどこまでもストイックですね。
【有安】あっ、でも長いスパンでは、緩急を作っていました。試験日当日に「山」がくるようにして、直前は2時間水も飲まずに自宅で模試に取り組んだり、髪をドライヤーで乾かす時間も単語帳を見たり、と目一杯集中。その分、試験後は解放感に任せて美味しいご飯を食べたり、ドラマを観たり。それも息抜きになっていたと思います。
――少し安心しました(笑)。ところで「水も飲まずに」模試に取り組む、というのは?
【有安】思い入れが強すぎて恥ずかしいのですが、本番の試験は私にとってライブに臨むのと同じくらい緊張感のある日で、とすると模試はその「リハーサル」。ですから家で模試を解く際、環境をできるだけ一致させていました。英検は試験中の水分補給が禁止されていたので飲まない、というふうに。ちなみにコロナ禍序盤では会場でもマスクが必須だったので、マスクをして模試を解いた時期もあります。
――熱意と集中力がずば抜けている有安さん、「効率化」など意識されなかったかもしれませんが、何か工夫されたことがあれば。
【有安】こまめな情報収集が勉強の効率化につながったと思います。自分に合った参考書や勉強法を選ぶために、SNSやYouTubeで様々な方々の体験談を参考にさせていただきました。......「合格の裏ワザ」風のテクニックとは程遠い地道さですが(笑)、私にとって合格やハイスコアはあくまで手段で、目的は英語力を上げて仕事に活かすためなので、「急がば回れ」に徹してよかったと思っています。
2025年8月6日、自身の公式Xで英検準1級合格の喜びを報告
――モチベーション維持の工夫についても、ぜひ教えてください。
【有安】試験後は毎回、文房具屋さんでかわいいステーショナリーを買いました。お気に入りのグッズを使って勉強すると、次の試験に向けてのモチベーションが上がります。加えて、SNSも支えになりました。私と同じく仕事と並行で頑張っている方や、子育てしながら挑戦している方の発信は、落ち込んだときの励みになりました。
――順調に成果が出ていても、落ち込むことがあったのですか?
【有安】あります、大ありです! TOEICは通算10回以上受けましたが、スコアが伸びない時期はつらかったです。3カ月連続で受験して、1回目より2回目のほうが成績が悪かったときは本当に泣きました。家での勉強中も、解説や問題が難しくて心が折れそうになることもしょっちゅう。特に英検では、日本語の難しさが壁でした。英語以前に訳が謎で(笑)、やさしい説明を探したり、画像検索をして視覚で理解を試みたりと苦労しました。
――準1級ともなると、問題そのものが難しいのですね。
【有安】そうなんです。時事や歴史や科学など様々な分野の教養を問われ、知識不足が身に沁みました。TOEICはTOEICでビジネスシーンに関わる問題文が多く、会社勤めの経験のない私にはわからないことばかり。そういうわけで、まったくもって順調ではなかったです。
――とはいえ最終的には、その不利をも克服。英語のみならず、様々な分野の知識も学んだうえで結果を出されたのはすごいことです。
【有安】ありがとうございます。確かに今回の経験は英語にとどまらず、不足していた知識や教養への扉になりました。会社の仕組み、環境問題、社会情勢。おかげで今、興味の幅が大きく広がっています。
――英語を学ぶ前には、予想もしなかった変化なのでは?
【有安】本当に。世界で起こっていることをもっと知りたくて、ニュースを丹念に見るようになりました。先日、オンライン英会話で世界のニュース記事について話し合うレッスンがあり、そのとき自分の意見や見解を持てたことと、それを英語で伝えられたのが嬉しく......悲惨なニュースも多いので「嬉しい」と言うと語弊がありますが、これからも世の中のことに、関心を持ち続けていきたいです。
――真摯な姿勢が本当に素晴らしいです。
【有安】もっと砕けた「嬉しい」もあります。例えば、前は海外の観光客の方がそばにいると「話しかけないで~」と緊張していたのが、今は「ウェルカム!」。むしろどんどん話しかけて、という感じに(笑)。道を聞いてくださる方のお役に立てて、このうえなく嬉しいです!
――わかります! お仕事のうえでの変化については?
【有安】言葉への意識が高まって、作詞の際、一つひとつの言葉をより大切に紡ぐようになりました。英語で歌うことに関しても、まだまだ完璧には程遠いですが、前より自信がつき楽しくなりました。
去年は海外からドラマーの方をお呼びして、リハーサルから本番まで英語でやりとり。その方が、私が初めて英語で書いた歌詞を見て「ここの部分が好きだよ」と言ってくださって最高に嬉しかったです。次にお会いするときはジョークを交わし合えるくらい話せるようになっていたいですね。いずれは海外でライブをできたら、とも思っています。
――夢がどこまでも広がって、これからが楽しみですね。
【有安】それもこれも、積み重ねた「コツコツ」のおかげです。語学の勉強はとても地道ですが、昨日の自分より今日の自分が成長していることを実感できることは、大きな心の支えになったと思います。その実感は確実に、明日への自信になります。読者の方々も、きっと同じように感じられるはず。私も日々頑張る皆さんを応援しています。一緒に頑張っていきましょう!
【有安杏果(ありやす・ももか)】
歌手。1995年生まれ。幼少期より芸能活動を始め、2009年から18年までアイドルグループ「ももいろクローバーZ」の一員として活動。17年、日本大学芸術学部写真学科を卒業、芸術学部長特別表彰、写真学科奨励賞を受賞。歌手として弾き語り・バンドライブ・ジャズライブと多彩な表現を展開。TOEIC875点取得。25年、英検準1級を取得。
更新:10月14日 00:05