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「新富裕層」を顧客にする方法 豪邸・高級ブランドに興味のない彼らは何を求めるか

岸田大輔(株式会社クレディセゾン セゾンAMEX事業部 プレミアムビジネス開発部長)

多様化する富裕層に向け、どんなサービスが彼らの心を動かすのか

「富裕層」と言ってもその背景は一様ではない。代々続く資産によって富を築いてきた「旧富裕層」に対し、新規ビジネスに参入し、一代で富を築いた「新富裕層」がいる。彼らの価値観は多様化しており、かつての富裕層に対するイメージでひとくくりにすることはできない。では、彼らの心をつかみ、ビジネスにつなげるにはどうすればいいのか。株式会社クレディセゾンで富裕層ビジネスを担当し、1000人以上の富裕層と交流してきた岸田氏が、多様化する富裕層の志向を分析する。

※本稿は、岸田大輔著『「新」富裕層ビジネスの教科書1000人の富裕層から学んだ秘密の営業術とマーケティング術』(集英社インターナショナル)より一部抜粋・編集したものです。

 

富裕層を「ひとくくり」にしてはいけない

豪邸に住んで高級車に乗り、ラグジュアリーブランドを身につけ、豪華な食事やワインを嗜む。

ひと昔前までは、「お金持ち」といえば、こんな絵に描いたような暮らしをしているイメージがありました。では現代の富裕層たちも、同じような暮らしをしているのでしょうか。むしろ、現代ほど富裕層の価値観が多様化している時代は初めてだといえそうです。

まず、日本の富裕層の簡単な歴史を振り返ってみると、江戸時代に商いを起こした商人が財を成し、明治以降の近代化の波に乗り、戦前には旧財閥系の一族に富が集中します。この頃の富裕層とは、庶民とはほど遠い雲の上の存在だったといえるでしょう。

やがて戦後の財閥解体を経て、現在に続く多くの企業が創業。電化製品や自動車などのメーカー業、建設会社など、急激な内需に応える形で日本の企業は一気に成長し、高度経済成長とベビーブームを経て、世界的な大企業へと発展していきます。

この頃に誕生するのが戦後富裕層の第一世代ともいうべき存在。
旺盛な消費意欲をエンジンに、舶来品やブランド品を買いまくります。冒頭のどこかで聞いたことがあるような"お金持ち"のイメージが誕生したのは、まさにこの頃だったといえそうです。

やがて1990年代に入りバブル経済が崩壊すると、第二世代が台頭してきます。ブランド志向などの消費傾向は残るものの、海外旅行やカルチャー志向の消費がトレンドになり、ブランドそのものよりも「ブランドストーリー」などの背景を重視する傾向が強くなります。

2000年頃からは「ライフスタイル」という言葉が頻出するようになり、豊かさの意味が少しずつ変化していきます。物質的な豊かさから脱却し、心の豊かさが大切にされるようになりました。

 

「旧富裕層」が求めるのはステータス、「新富裕層」が大切にするのは...

そして2010年以降に顕著になってきているのが、SDGsに代表される社会貢献的な側面です。

ハイブランドでも職人による物作りへの敬意や環境への配慮を打ち出しているブランドを選ぶようになり、電気自動車や社会全体の持続可能性といった要素も富裕層の選択要素として重要視されるようになってきました。

こうしたいままでになかったマーケットを形成しているのが、新しい価値観を持った富裕層です。オンラインによるデイトレードや暗号資産などのフィンテックが浸透したことで、「億り人」に代表される短期間で財を成した富裕層が登場。ベンチャー企業への投資も増加し、自分で立ち上げた事業を数年で成長させて大企業に売却する。短期間にM&Aを繰り返すことで資産を形成する富裕層も増えました。

そしていま、これらの世代が同じ時代に共存しているのですから、富裕層の価値観が多様化するのも当然のことです。ファッションにおいても高級品や限定品などを好む富裕層もいれば、全く興味を示さずファストファッションを好む富裕層も出てきます。

食や旅行などの体験型商材においても、旧来の価値観に近い豪華さや快適さを求める層と、コンフォートゾーン(快適な空間/居心地のいい場所)から抜け出しサファリロッジや宇宙旅行に興味を示す層が出てきています。

こうした富裕層の多様化した価値観を測る指標のひとつとして、私は「旧富裕層」と「新富裕層」という言葉を使っています。簡単にいえば、前者は「物質的」で「固定的」、そして「相対的なステータス」を好む傾向にあり、後者は「情緒的」で「多様な価値観」に対して柔軟、そして「ストーリー性」を大切にする傾向にあります。

さらにマーケットを複雑な状況にしているのが、これらはライフスタイル全般に一貫しているわけではないということ。暮らしのあらゆるカテゴリーで、これらの価値観が複雑に入り組んでいるというところに富裕層マーケットの難しさと魅力があります。

 

旧富裕層は「見える資産を保有する」、新富裕層は「活用しながら増やす」

新旧富裕層の行動における価値観の違い新旧富裕層の行動における価値観の違い

生き方や仕事に対する価値観の多様化が指摘されていますが、それは富裕層の世界でも同様です。

現代の富裕層市場は、旧富裕層と新富裕層という2つの大きなグループに大別されるようになってきていると前述しました。この2つのグループは、資産形成の過程、消費行動、価値観、社会的態度などにおいて顕著な違いを見せており、さまざまなカテゴリーにおいて新旧の価値観が入り混じっています。

まず資産形成のパターンとして、旧富裕層は代々続く家族の資産や長期にわたる投資の複利効果によって富を築いてきたケースが多いのが特徴です。
開業医の一族や創業家、上場企業のオーナー、忙しくてお金を使う暇がなく資産が増えた大企業の役員なども旧富裕層に当てはまることが多い印象です。土地や不動産、事業的な市場形成において日本の成長期と重なり、富を維持・拡大してきました。

新富裕層の多くは逆で、日本の経済が停滞したバブル崩壊後の不動産購入で財を成した人、テクノロジーや金融イノベーション、デジタルビジネスの分野で一代で富を築いた人々を指します。

投資やM&Aの環境も整ったことで市場も活況となり、起業から数年で資金調達を経て事業が急成長し、大きくなった会社を売却するという流れも非常に速くなっています。なかには20代で数社を売却し、短期間で巨万の富を築くというケースも増えてきました。

消費行動においても、旧富裕層は物質的で価値の定まったものを好む傾向にあり、目に見える資産を保有する延長線上でプロダクトやサービスを選択する価値観を示します。

一方、新富裕層は消費に対してアクティブな傾向が強く、「資産は活用しながら増やすもの」という姿勢を感じます。旅行やアドベンチャー、特別なイベントへの参加などの体験型消費にも積極的で、新しいものを知りたい、試したいという欲求が強い印象です。

慈善活動や環境への投資などの社会的活動に関しても、地位や権威といった影響力にも常に関心を示す旧富裕層的な思考と、サステナブルな活動に投資を行い、自らも積極的に参加しようとする新富裕層的アプローチには、顕著な違いがあります。

投資においても同様で、旧富裕層が好む不動産投資や現物資産に加え、暗号資産、NFT(非代替性トークン)、テクノロジー株など新しい資産クラスへの分散投資にも積極的なのが新富裕層的な発想といえるでしょう。

プロフィール

岸田大輔(きしだ・だいすけ)

株式会社クレディセゾン セゾンAMEX事業部 プレミアムビジネス開発部長

2002年、株式会社クレディセゾン入社。セゾンAMEXや提携カード担当として、カードリニューアルや新規カード発行を通じてマーケティングに携わる。2017年より東南アジアにてアンダーサーブド層向けビジネス開発に携わる。2019年よりセゾンAMEX事業部にて富裕層ビジネスを立ち上げ。2022年よりブラックカード事業に参入。機能よりも価値に寄り添ったサービスが新富裕層の間で話題となる。

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