
高齢化の進行に伴い、年金制度の持続可能性に対する不安が広がっている。だが、元大蔵・財務官僚で経済学者の高橋洋一氏は、「年金の仕組み上、むしろ破綻させるほうが難しい」と断言する。
その根拠はどこにあるのか。本稿では、高橋氏の著書『お金のニュースは嘘ばかり』をより、その背景を紐解いていく。
※本稿は『お金のニュースは嘘ばかり』(PHP新書)より抜粋・編集を加えたものです。
最初に結論をいえば、「よほど途方もない運用や制度の改悪をすれば破綻するかもしれないが、年金の仕組み上、むしろ破綻させるほうが難しい」というものです。
年金制度の仕組みをポイントでおさらいしておきます。
まずいちばん大きな特徴として、年金は「保険」と同じ仕組みです。
保険の原理はすべて数理モデルで成り立っており、端的にいえば「数学」の世界です。保険料=給付額となるように緻密な計算を行ない、保険料と給付額を算出しています。両者のバランスを保って破綻しないように、あらかじめ制度設計がなされているのです。
もちろん社会状況の変化に合わせて都度、計算をし直して保険料が上がることはあるし、給付額を下げるように調整を行なうこともあります。
たとえば2004年には、保険料を2017年まで段階的に引き上げて固定し、2009年度までに基礎年金の国庫負担割合を半分にする改正が行なわれました。いずれも、保険料収入の範囲内で給付を維持できるように計算した結果です。
ただし、年金と生命保険のあいだには違いがあります。
皆さんは老後、年金は必ずもらえるものだと思っているでしょう。ただし、大前提があります。
ひと言でいえば「長生きすること」。平均寿命まで達した人は、間違いなく支払い額に応じた年金をもらえます。
しかし不幸にも、すべての人が長生きできるわけではありません。平均寿命まで届かない人が半分で、平均に達しないまま亡くなった人は「保険料を払って終わり」という残酷な制度なのです。
この「早く亡くなるとお金をもらえない。生きていれば支払われる」という年金の仕組みは、じつは生命保険と逆であることに気付きます。生命保険の仕組みは「早く亡くなるとお金が支払われる。生きていたらお金をもらえない」というものです。
生命保険のほうが年金よりもシンプルで、生きている人が全員、保険料を払い、亡くなった人すべてにお金が渡ります。
他方、年金では生きている人が全員、保険料を払い、長生きした人にしかお金が渡りません。
仮に平均80歳まで皆が生きるとして、20歳から60歳まで年金保険料を払いつづけ、60歳で亡くなってしまった人はお金をもらえない。
20歳から60歳までの40年間に支払う保険料は、ざっくりいって所得の2割程度、0.2×40=8です。年金を60歳から80歳まで受け取る場合、給付額はだいたい所得の4割程度だから、4×20=8です。まったく同じ8で、保険料と給付額の帳尻が合います。
また、100歳まで生きた人がいたとして、60歳から100歳までの給付額は4×40=16です。80歳で亡くなった人の2倍、お金をもらうことになります。
20歳から70歳まで50年間、所得の2割程度を払い続けた場合は2×50=10。おおむね自身の年収の10倍程度を払っている、という感覚です。給付額は60歳から80歳まで、所得の5割程度とすると、5×20=10で帳尻が合います。
「早めに給付が欲しい」といったところで年齢の分、減額されるだけだから、支払った保険料に見合わず、損には変わりありません。結局「長生きしたほうが得である」という身も蓋もない話に落ち着きます。
早く亡くなってしまった人にとっては不利な仕組みですが、いま見たように等式関係にある単純・強固な制度なので、崩れるほうが難しい。
労働年数と平均寿命さえわかれば、平均で何年間、支給しなければならないか、保険料をいくら徴収しなければならないかなどが即座にわかり、料率が簡単に割り出せます。
前述のように、年金は早く亡くなった人にとっては損です。では「年金を払わなくてよいか」といえば、年金の法的性格は税金と同じなので、払わなければ「脱税」と同じです。
先日の記事で「社会保障の話と消費税は関係ない」と述べました。他方、日本の国民皆保険における保険料は、税金とまったく同じ性質を有しています。
先ほど、日本の年金は「保険」と同じ仕組みだと説明しました。そして国民「皆」保険というのは、すべての国民が加入しなければならない保険という意味です。したがって保険料は税と同じく、本来は国民に強制的に課せられたものです。
国民年金法の第88条には、保険料の納付が「義務」である旨、以下のように明記されています。
「第88条 被保険者は、保険料を納付しなければならない。
2 世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負う。
3 配偶者の一方は、被保険者たる他方の保険料を連帯して納付する義務を負う」
また同法の第95条には、次のようにあります。
「第95条 保険料その他この法律(第10章を除く。以下この章から第8章までにおいて同じ。)の規定による徴収金は、この法律に別段の規定があるものを除くほか、国税徴収の例によつて徴収する」
「国税徴収の例」に従って保険料を徴収する、ということは、まさしく保険料と税が同質であることを意味しています。
本来は強制徴収であるにもかかわらず、政府・社会保険庁が正しく伝えないので、何となく「年金を払わないと将来、お金をもらえないので損」という程度の甘い認識になっている。
年金について、高齢者が「政府に自分のお金を預けて、積み立てた分のお金をもらう」と考えるのは完全な誤解です。自身の積立金からの支払いはせいぜい5%程度で、大半は若い人が支払ったお金をもらっている仕組みです。
したがって、若い世代が年金を収めなければ成り立ちません。制度しては破綻しないけれども、当人が年を取ってからさらに給付額が減らされる、という話になります。
話を冒頭に戻すと、年金の制度自体は持続可能性の高い設計になっており、破綻を心配する必要はありません。
納付額が減って積立金が枯渇するのではないか、という人もいます。しかし日本の公的年金は積立方式ではなく、賦課方式と呼ばれるものです。賦課方式では、現役の人が納めた保険料が、すぐに高齢者の年金給付に回されます。いまの若い人が高齢者になったときには、その時代の若い人から集めた保険料を年金として受け取ることができます。
ある年に集めた保険料を同年の給付に使うかたちなので、積立金はほとんど要りません。したがって、積立金が枯渇しても年金は破綻しません。
保険料を収めずに年金を受給する高齢者の分をどうやって埋めるかが課題となり、国費が投入されたこともあります。年々、保険料を収めなかった人の数は減っており、時間がたつほど穴は埋まっています。
むしろ就職できない若者が増えると、さらに若者の年金が減るため、雇用政策が重要です。企業に賃上げを強要するのではなく、自由な活動を阻害しないように規制を緩和し、消費を冷やす増税の愚策を打たないことが何より求められます。
その点で唯一、日本の公的年金を危機へ追い込む状況が考えられます。それは「日本の経済成長が止まりつづけた場合」です。アベノミクスを否定して日本をギリシャと同列に見なす経済音痴の石破首相や、何がなんでも消費税を上げて消費と景気を止めようとする財務省が、日本の年金破綻を招きかねないただ一つのリスクなのです。
更新:08月16日 00:05