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60代以降も雇われたままで良いのか? 老後の不安を解消する「働き方の選択肢」

2024年08月23日 公開

大杉潤(研修講師)

定年後に起業するメリット

日本では今や65~69歳の2人に1人が働いている。70歳まで働く、さらには一生働くのが当たり前になりつつあるのだ。それだけ長く働くのだから、定年後には「雇われない働き方」を選ぶのはどうだろう?

実は、会社員の定年後の悩みの多くが「起業」によって解決できるという。今こそ知っておきたい「定年起業の極意」を伺った。(取材・構成:石澤寧)

※本稿は、『THE21』2024年9月号掲載[好きなことで働き続ける「定年ひとり起業」のススメ]より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

失敗しない最大のコツは 「好きなこと」でやること

大杉流・定年ひとり起業5原則

定年後には、雇われて働くのではなく、自分ひとりでビジネスを立ち上げる──。この「定年ひとり起業」を私自身が実践し、その経験とノウハウを本や研修、講演などで伝えてきました。おかげさまで多くの反響があり、実際に定年起業する人たちも続々と現れています。

「定年ひとり起業」の何が良いのか? それは「お金」「孤独」「健康」という「老後の3大不安」を一気に解決できるからです。実は、これらの不安は「長く働くこと」で解決できます。

年金に加えて収入があれば「お金の不安」は和らぎ、仕事の人間関係があれば、「孤独の不安」に陥ることもないでしょう。また、仕事で規則正しく適度な緊張感のある毎日を過ごせば、「健康の不安」解消にも効果があります。起業すれば「生涯現役」も可能です。まさに「人生100年時代」にふさわしい働き方なのです。

この「定年ひとり起業」を始めるに当たって、ぜひ守りたいのが、上に挙げた「定年ひとり起業5原則」です。これらの条件を満たせば、起業のリスクはかなり抑えられ、失敗の確率を大きく減らすことができます。

特に大切なのは、原則⑤の「好きなことを仕事にする」です。起業では、軌道に乗るまで2年程度かかるのは珍しくないのですが、興味のない仕事では耐えられなくなります。その点、好きなことならすぐに芽が出なくても続けられますし、そうするうちに3年目くらいで不思議と結果が出始めることが多いのです。

私自身も、昔から好きだったビジネス書をテーマにブログを始めましたが、読まれるようになったのは3年目からでした。そこから次第に閲覧数が伸び、出版や研修にもつながり、今や私の事業に欠かせないツールになっています。

もう一つ、「定年ひとり起業」の開始前に意識したいのが「トリプルキャリア」の考え方です。「ファーストキャリア」は会社員として雇われる働き方、「セカンドキャリア」は個人事業主などの雇われない働き方、そして「サードキャリア」とは、ライフワークを行なう理想の働き方を指します。3つの期間で働き方を変化させながら、楽しく長く働くための考え方です。

ここで大切なのは、「サードキャリアを先に決めておく」ということです。先ほどの「原則⑤」の「好きなことを仕事にする」をさらに進めて、人生の最後まで携わりたいライフワークを前もってイメージしておくのです。そこから逆算して、セカンドキャリアとファーストキャリアでの準備を考えれば、「好きなことを仕事にする」という原則からぶれることがありません。

「好きなこともやりたいことも思い浮かばない」という人は、「人生とキャリアの棚卸し」をお勧めします。あなたがこれまで、最もお金や時間を使ってきたものは何でしょう? それはきっとあなたの「好き」と関係があるはずです。

「パチンコと競馬」という答えでも構いません。その2つが好きな人はたくさんいますから、同好の士に向けた事業を、マニアならではの視点で考えることができるはずです。そうして自分の中にヒントを探すことが、あなたらしい定年起業のスタートになります。

 

「好き」×「得意」で 複数の仕事を生み出す

自分の強みを組み合わせるマトリックス

「好きなこと」を仕事にする方法について、より詳しくお伝えしましょう。自分の人生を振り返り、好きなことや得意なことを、できれば4つ見つけてください。そしてそれらを好きな順番、こだわりのある順番に並べます。それを上図のようなマトリックス表にして、好きなこと同士を掛け合わせて、仕事にならないかを考えてみるのです。

上図は私の場合ですが、同じ「ビジネス書」×「財務戦略」の組み合わせでも、前者がメインの場合は「財務関連書籍の出版」、後者がメインなら「経営コンサル」や「財務戦略研修」につながります。こうして複数の仕事を考えることは、収入を安定させる「収入の複線化」のベースにもなります。

この作業は、できれば同世代で起業を考えている仲間と集まって、ブレインストーミングをすると良いでしょう。自分の「好き」や「得意」は、意外に自分では気づかないものですし、こうした起業初期の苦労を共にすることが、その後の応援し合う関係にもつながります。

 

アウトプットできないのは インプットが足りないから

自分の好きなこと、得意なことが見えてきたら、次に取り組むのはアウトプットです。ブログやSNSなどで、不特定多数の人に向かって、好きなこと、得意なことについて情報発信を始めてください。どんなに良いことをやっていても、人に知られなくてはビジネスになりませんから、発信力はとても重要です。

とはいえ、最初から注目されるのは難しいでしょう。私のブログがそうだったように、反響が出るまでは、やはり3年くらい続ける覚悟が必要です。たとえ好きなことや得意なことでも、それだけの期間、情報発信を続けるのはなかなか大変です。挫折する人も少なくありません。

実は、そういう人に足りないのはインプットです。趣味や業務としてやっているだけでは、自分視点の情報しかないため、アウトプットを始めるとすぐに枯渇してしまいます。専門家として情報発信をするには、受け手に役立つ視点に立った、より幅広いインプットが必要です。

ジャーナリスト兼作家の立花隆さんは、1冊の本を書くのに100冊以上の本を読んだそうです。生涯で6万冊から7万冊の本を読破した「知の巨人」が、それだけのインプットを心がけていたのですから、私たち凡人は言わずもがな。アウトプットとインプットはセットであると心得て取り組んでいきましょう。

 

動けば何かが変わる

大杉潤氏の専門性の組み合わせ

「定年ひとり起業」で成功するには、他との差別化も重要です。昔取った杵柄だけではやがて食えなくなります。これに関して、リクルート出身の藤原和博さんは、異なる「3つの専門性」を組み合わせる「クレジットの三角形理論」を提唱しています。

一つの専門性を持つ人はだいたい100人に1人。二つの専門性を組み合わせると100分の1×100分の1=1万分の1ですが、これでもまだ足りません。その二つとはかけ離れた分野で異なる専門性を獲得すれば、100分の1×100分の1×100分の1=100万分の1の希少性を持つ、オンリーワンな存在になれる、というのです。

実際、藤原氏は、リクルートで獲得した「プレゼン・営業力」と「リクルート流マネジメント」という二つの専門性に、民間初の公募による公立中学校の校長を務めた「教育改革実践」という専門性を加えて、まさにオンリーワンの存在になっています。

私も、この藤原氏の理論を参考に実践してきました。現在は、「財務スキル」×「ビジネス書の多読・実践」×「多彩な発信力」という3つの専門性によって、他にはないポジションを獲得していると自負しています。

長年会社員をしてきた人なら、「人生とキャリアの棚卸し」で、一つ二つの専門性が見つかることが多いと思います。そこにぜひ付け加えてもらいたいのがICTです。私の場合は、51歳でX(旧Twitter)を始め、55歳でFacebookとブログ、61歳でYouTubeチャンネルを始めました。そして64歳ではstand.fmで、音声コンテンツの配信も開始しています。

三つ目の専門性として、時代の進化に合わせた情報発信のスキルを付け加えることで、どんな状況でも生き残っていける希少性と発信力を身につけることができるのです。

スタンフォード大学で教授を務めたジョン・D・クランボルツのプランド・ハップンスタンス(計画された偶発性)理論によれば、キャリアの8割は偶然によって引き起こされると共に、その偶然は自ら作り出すことができる、と言います。行動するからこそ、思わぬ出会いやチャンスがやってくるのです。より充実した定年後を実現するためにも、今ここから動き始めることをお勧めします。

 

著者紹介

大杉潤(おおすぎ・じゅん)

研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家

1958年生まれ。早稲田大学卒業後、日本興業銀行、新銀行東京などを経て、2015年に独立起業。年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から読み続け、累計1万2,000冊以上を読破、約3,400冊の書評をブログに書いて公開している。著書に『定年起業を始めるならこの1冊! 定年ひとり起業』(自由国民社)などがある。 WEBサイト:http://jun-ohsugi.com/

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