THE21 » マネー » 相続額の中央値1600万円 「老後資金を使いきれない」日本人のリアルな老後

相続額の中央値1600万円 「老後資金を使いきれない」日本人のリアルな老後

2024年09月12日 公開

米田貴虎(一般社団法人 日本定年力検定協会理事),栗本大介(一般社団法人 日本定年力検定協会代表理事)

老後の資産形成

「定年後の生活」には不安がつきまとうが、その主な理由は、将来の仕事や社会との関わり方がイメージできていないことと、お金の収支を認識できていないことにある。『THE21』2024年10月号では、定年前に作るべき「人生でやりたいこと100リスト」、そして、それを実現するためのキャッシュフローの考え方を、日本定年力検定協会の米田氏と栗本氏に聞いた。(取材・構成:塚田有香)

※本稿は、『THE21』2024年10月号特集「50代で必ずやっておくべきこと」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「やりたいこと」を前提に人生計画を立てる

人生でやりたいこと100リスト

最近は、老後の経済不安を煽る情報を至るところで見聞きします。特に、2019年に金融審議会のワーキンググループが公表した報告書をきっかけとする「2000万円問題」が報道されてからは、「老後のお金は、こんなに足りないのか」と危機感を強めた人が多いでしょう。

しかし24年間にわたって約6000件の相続支援業務に携わってきた立場からすると、こうした報道は現実を正しく反映しているとは思えません。なぜなら私が相談を受けたケースの大半は、被相続人がかなりのお金や資産を残しているからです。

2020年にMUFG資産形成研究所が行なった調査によれば、50代・60代の相続経験者が親から相続した財産額の中央値は1600万円にのぼります。「老後資金が足りなくなったらどうしよう」という不安から、できるだけお金を使わず節約や我慢を続けるうちに、手元のお金を使いきらないまま一生が終わってしまう。これが一般的な日本人のリアルな老後なのです。

そんな現実を長年見てきて強く感じるのは、自分の人生を充実させるためには、お金を使うことも大事だということ。もちろん老後の生活に必要なお金を準備することは必要ですが、それはあくまで使うことを前提とした資金計画であるべきです。

「定年後に家族旅行がしたい」「趣味に打ち込みたい」などといった"やりたいこと"がまずあり、それを実現するために必要な金額をどのように用意するかを計画する。これが健全な考え方であり、目的もなく、ただひたすらお金を貯め込むのは本末転倒です。

人生100年時代とはいえ、健康寿命は男性が72歳、女性が75歳です(2019年調査)。現在50歳の人なら、健康でいられるのはあと20年ほど。その時間を存分に楽しみ、元気なうちにやりたいことをやり切るのが、後悔のない人生を送るために大事なことではないでしょうか。

このような思いから、私たちのリタイアメントプラン設計講座では、中高年世代のビジネスパーソンに対し、定年後の人生を見据えた「リタイアメントプラン」の作成をお勧めしています。

初めに「人生計画」を考えてから「お金の計画」を立てるという順番で、長期的なライフプランを設計することにより、老後に対する漠然とした不安を払拭するのが目的です。

そもそも「2000万円問題」も、当時の夫婦高齢者無職世帯の毎月の平均赤字額が5万4000円であり、それが30年続けば約2000万円が不足するという単純な掛け算で算出された数字に過ぎません。

実は金融審議会の報告書にも「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる」と記載があるのですが、なぜかその部分は報道されず、2000万円という数字だけが独り歩きしました。

よって老後の不安から解放されたいなら、一人ひとりが「自分の場合はどうなのか」を冷静に考えてみることが必要です。

老後の不安は、「未来に対する不安」と「財産の状況を把握できていない不安」の2つに大別できます。前者は現役時代の仕事に代わるものや社会と関わる方策が見つからないことによる不安で、後者はお金の収支をきちんと認識できていないことによる不安です。裏を返せば、この2つの要素が明確になれば、不安も払拭されて前向きな人生を送れるということです。

その第一歩として作成していただきたいのが、「人生でやりたいこと100リスト」(図1)です。これにより、定年後を含めた今後のライフスタイルがイメージできて、「未来に対する不安」の解消につながります。

ただ、「やりたいことを100個書きましょう」と言われても思いつかない人が多いので、次の5つのカテゴリーに分けて考えることを提案しています。

① Labor(仕事)...本業・副業を問わず収入を得る活動、および家事や社会貢献など
② Love(愛)...家族や仲間、ペットなど大切な存在と一緒に過ごす時間
③ Leisure(余暇)...趣味、スポーツ、地域活動など
④ Learning(学び)...読書、オンライン教育、セミナー参加など
⑤ Living(暮らし)...欲しいモノやお金など

この5項目に対し、20個ずつを目安にやりたいことを書き出していくのです。

リストを作ることで、「何のためにお金が必要なのか」という目的が見えてきます。目的が明確になれば、やりたいことを全部実現するにはお金がいくらかかるかを計算できます。

もし現在の貯金では足りないなら、「60歳でリタイアするつもりだったが、働く期間を5年延長しよう」「今から資産運用を始めて65歳までにお金を増やそう」といった具体的なマネープランを考えることもできます。

やりたいことをはっきりさせるからこそ、自分にとって最適な「お金の計画」を立てることが可能になるのです。

次のページ
老後資金の過不足は5ステップで確認 >

著者紹介

米田貴虎(よねだ・たかとら)

一般社団法人 日本定年力検定協会理事

一般社団法人相続手続カウンセラー協会代表理事。全国に39カ所ある相続手続支援センターの創設者。自身も6,000人以上の依頼者に寄り添い相続をサポート。講演実績多数。著書に『相続手続きマニュアル事典』(ビジネス教育出版社)など。

栗本大介(くりもと・だいすけ)

一般社団法人 日本定年力検定協会代表理事

ファイナンシャルプランナー(CFP(R)認定者/1級FP技能士)、相続手続カウンセラー、定年力アドバイザー。金融機関を中心に、2,600回を超える講演実績を持つ。著書に『40代からのお金の教科書』(ちくま新書)。

THE21 購入

2024年11月号

THE21 2024年11月号

発売日:2024年10月04日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

60代以降も雇われたままで良いのか? 老後の不安を解消する「働き方の選択肢」

大杉潤(研修講師)

新NISAは不便になることも? 枯渇させない「老後資金」の使い方

野尻哲史(合同会社フィンウェル研究所代表)

年間配当200万円超を達成した投資家が保有する「高配当株トップ10」

桶井道(個人投資家)
×