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森永卓郎氏が警鐘を鳴らす「世界恐慌の前触れ」 老後資金を失う人が続出する未来

2024年10月28日 公開

森永卓郎(経済アナリスト)

森永卓郎

半導体バブルの崩壊、そこから連鎖して起こる株価の暴落、円高の進行による日本の窮地。このままでは破産者や、老後資金を失う人が続出する......。森永卓郎氏がこのように予測する理由とは? 『THE21』2024年11月号で、詳しく話を聞いた。

※本稿は、『THE21』2024年11月号特集「これから10年の生き方・働き方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

日本では100年ごとに構造転換が起きている

私はまもなく100年に1度の構造転換が起こると予測しています。それがどれくらいのインパクトかを理解するために、日本で100年前に起こった変化を振り返ってみましょう。

当時は第一次世界大戦が終結して戦争特需が消え、スペイン風邪の流行も重なって日本経済が大不況に陥った時期。順風満帆な時は誰も現状を変えようとしませんが、追い詰められると人間も社会もガラリと変わります。この時に起こったのは和洋折衷というトレンド変化でした。

教科書には明治維新によって西洋化が進んだと書かれていますが、それはエリート層や富裕層に限った話で、庶民は大正時代になっても江戸時代の文化を引きずっていました。

そこへ、今度こそ本格的に西洋文化が流入し、人々の生活スタイルが一気に欧米化。それまで畳の上に正座し、筆で文字を書き、和服を着て徒歩で外出していた人たちが、洋服を着て椅子に座り、万年筆を使ったり、自転車に乗ったりするようになりました。

この大きな変化を巻き起こしたのが、現在「100年企業」と呼ばれる会社の登場です。万年筆のパイロットやトンボ鉛筆、クリーニングの白洋舎、自転車部品を製造するシマノ、国産椅子の生産を手がけるコトブキ、和菓子でも洋菓子でもないオリジナルの栄養菓子を生み出した江崎グリコなどが代表的です。

 

人類史上最大のバブルがまもなく崩壊する

株式のバブルはこのように起きている

これが今からちょうど100年前のこと。そして当時と同様に社会を激変させる構造転換が間近に迫っています。

現在、この世界で起こっているのは人類史上最大のバブルであり、それは近々崩壊すると私は見ています。なぜなら、今まさに過去のバブルと同じことが繰り返されているからです。

世界初のバブルと言われるのは、1630年代のオランダで起こったチューリップ・バブルでした。チューリップの球根一つに、現在の価値に換算して数千万円の値がつくという、誰がどう考えても異常な状況でしたが、当時は誰もおかしいと思わなかった。

米国が震源地となった1920年代の世界恐慌の直前も、家電産業や自動車産業の株価が高騰しました。球根にしろ株式にしろ、あまりにも行きすぎた価格上昇が続けば、必ず大きな反動がくるということです。

翻って現在に目を向けると、10年ほど前からGAFAをはじめとするビッグ・テックの株価が高騰し、それが限界を迎えそうになると、今度は電気自動車や自動運転車がくるといって関連企業の株が上昇。そして自動運転には人工知能が必要だからとAIバブルが起き、現在はAIを動かすために必要だからと半導体バブルが起こっている。

誰もこの状況をおかしいと言いませんが、明らかに異常です。今やエヌビディアの時価総額は、日本のGDPに迫る規模まで高まっていますが、たかが一社の企業価値と一つの国家が生み出す価値が同じなんてあり得ないはずです。

半導体は、少しでも需給が緩むと価格が大暴落する特性を持っています。私が初めてパーソナルコンピュータを購入したのは50年前ですが、当時と比べて今の半導体価格は100万分の1ほどに下落しています。つまり、技術的なキャッチアップによって供給が増えれば、価格も簡単に下がる。どんなに長持ちしても、半導体関連の株価はあと数年でドカンと下がるでしょう。

 

株価の乱高下は世界恐慌の前触れ

バブル崩壊のメカニズムは、地震の発生と同じです。地盤のひずみがじわじわと蓄積し、やがて限界に達して地震が起こる。その前兆が、今年8月に起こった株価の乱高下です。あの状況を目の当たりにして、さすがに皆も内心「おかしいぞ」と思ったはずですが、「王様は裸だ」とはなかなか言えない。

私はもう、金融関係の仕事はしなくていいと思っているので、本当のことをはっきり口に出せますが、いわゆる"金融村"に住んでいる人たちは、あれこれ理屈をつけて現在の株価を正当化しています。

本来なら2008年に起こったリーマンショックが大地震となり、溜まったひずみが調整されるべきでした。しかし、あの時は、中国が天文学的な公共投資で世界経済を引きずり上げたため、十分な調整が行なわれなかった。そのツケが今になって回ってきています。世界に先行して不動産バブルが崩壊した現在の中国に、世界を救う力はありません。今度は一直線に落ちていくだけです。

その先に待ち受けるのは世界恐慌です。欧米も景気のピークは過ぎ、米国が利下げするのはほぼ確定で、欧州はすでに利下げを決めている。世界が金融緩和に向かう中、日本だけが金利を上げる暴挙に出ています。

これも実は、約100年前に当時の内閣総理大臣だった濱口雄幸が同じ失敗をしていて、財政と金融の同時引き締めを断行した結果、日本は昭和恐慌に突入して国民生活は悲惨を極めました。

 

株価は80%暴落し、為替は1ドル90円台に?

AIとの競争で働き手の稼ぎは激減する!?

こうした過去を踏まえて、これからの10年を予測すると、真っ先に起こるのは株価の大暴落でしょう。しかも今回は史上最大のバブルなので、下がり方も半端ではない。1929年の米国金融恐慌でも、1989年末からの日本のバブル崩壊でも、株価は80%強暴落したので、少なくとも同程度は下がるはずです。

さらに恐ろしいのは、同時に急激な円高が進行すること。これまでは投機筋の円売りによって円安に振れていましたが、IMF(国際通貨基金)が2024年4月に発表した最新の世界経済見通しでは、購買力平価の推計値を1ドル=約91円としています。

つまり、短期的には為替相場が上下に振れたとしても、長期的には「どの国でも同じ商品やサービスの価格が等しくなる為替水準に収束する」というのが購買力平価の理論なので、近いうちに為替レートは1ドル=90円台まで上昇するはずです。

一時は1ドル=162円近くまで円安が進んだので、45%ほど円高になる。そこへ80%の株価下落が重なれば、外貨建て金融資産の価値は10%も残らないでしょう。

そうなると、新NISAの開始に乗っかって貯蓄を投資に移した人の多くが破産者となり、老後資金を失う人が続出する。これが私の目に映る近未来の光景です。この変化の行き着く先は、グローバル資本主義の完全なる終焉です。要するに「金を出して世界のどこかから安く買ってくればいい」という経済が成り立たなくなるわけです。

今から遡ること150年前、経済学者のマルクスは「資本主義は必ず行き詰まる」と指摘しました。その理由を彼は4つ挙げています。1つめは地球環境の破壊。2つめは許容できないほどの格差の拡大。3つめは少子化の進行。そして4つめがブルシット・ジョブ、日本語に訳すと「クソどうでもいい仕事」の蔓延です。

中でも大都市で働く非正規社員の仕事は、コンピュータに管理・指示され、まるで機械の歯車のようにボロボロになるまで働かされるようになる。そこには何のやりがいも楽しみもありません。

しかも今後、定型的な作業はどんどんAIに置き換わります。すると最終的にはブルシット・ジョブもAIに代替され、人間との価格競争になっていく。クソどうでもいいうえに、お金も稼げない仕事にしがみつくという悲惨な状況になるでしょう。

 

著者紹介

森永卓郎(もりなが・たくろう)

経済アナリスト

1957年、東京都生まれ。1980年、東京大学経済学部卒業。経済企画庁総合計画局、三井情報開発㈱総合研究所、(株)UFJ総合研究所を経て、獨協大学経済学部教授。専門は労働経済学と計量経済学。堅苦しい経済学をわかりやすい語り口で説くことに定評があり、執筆活動のほかにテレビ・ラジオでも活躍中。

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