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NISA拡充の真価とは? 国民に意識変革をもたらした岸田政権のレガシー

ワイズマン廣田綾子(米ホライゾン・キネティックス社 アジア戦略担当ディレクター)

NISA拡充の功績

岸田政権下で内閣官房直轄組織「新しい資本主義実現会議」が策定した2つのプラン―「資産所得倍増プラン」(22年11月)、と「資産運用立国実現プラン」(23年12月)は海外投資家に対する積極的なアピールを官民一体で本格化させるきっかけを作った。岸田プランの中でも最も注目を集めた「NISA制度の拡充」はどう評価するべきか?

40年間米国で投資家として活躍してきた、米ホライゾン・キネティックス社 アジア戦略担当ディレクターのワイズマン廣田綾子氏による書籍『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』より、解説する。

※本稿は、ワイズマン廣田綾子著『海外投資家はなぜ、日本に投資するのか』(日経BP)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

NISA拡充の隠れた意義

3年間続いた岸田政権のレガシーとも称されるNISA制度拡充をどう評価するべきか、ここで改めて考えてみましょう。

まずは新制度の概要を確認しておきましょう。注目を集めたのは、NISAの枠を利用して税制メリットを受けられる投資上限額の引き上げです。これまで年間投資額は積立枠が40万円、一般枠が120万円に制限されていましたが、拡充によって積立枠が3倍の120万円に、成長投資枠(旧一般枠)が倍の240万円に拡大。合計で年間360万円が投資可能になり、利用者一人あたりの生涯投資可能枠は1800万円になりました。

また、これまでのNISA制度はあくまで時限措置付きの、いわば期間限定キャンペーンのようなものに過ぎませんでしたが、拡充を機に制度そのものが恒久化されました。

岸田プランでは、5年間でNISA総口座数を3400万に倍増させるとの目標を掲出。24年9月末時点の口座数は2500万と目標までまだ距離があるものの、旧制度に比べると口座開設も買い付けも加速している印象です。

新NISAの成長投資枠では国内株式に直接投資することも可能ですが、現時点で制度利用者の買付はいわゆる「オルカン」など、海外株式を組み合わせた投資信託に集中する傾向がみられます。

日本の株式市場は多数の機関投資家が参加しており、プライム市場だけで年間900兆円(23年)を超える取引があります。NISAの制度拡充から9月末までの9カ月間における上場株式の買付額は5兆円未満であり、国内投資家の買付が相場に目立った変動を与えるような状況にあるとはいえません。

また、せっかく国の税収を犠牲にしてNISA制度を拡充したのに、国内の個人投資家が日本企業を無視してオルカンを買い続け、キャピタルフライト(資本逃避)を加速させてしまっては本末転倒だといった批判もあります。国内株式市場への成長資金供給に、NISAが実際に及ぼしている効果は、たしかに現時点で限定的を言わざるをえません。

おそらくNISAの狙いは株投資により国民の老後のための資産形成という重大な大義名分に加え、大規模金融緩和政策の下で日銀が大量に購入してしまったETFの買い手としてNISAという受け皿を作り、株式市場混乱を避けてうまく日銀が売り抜ける仕組みを構築することにあったのだと私は思います。

このように市場に与えるインパクトとしてはあまりパッとしなかったNISA制度拡充ですが、別の側面からみればそれなりの意義もあったと私は思っています。日本で暮らす一人一人の生活者に、国内外の経済状況に自分事として向き合う貴重な契機を与えたからです。

成長と分配の循環を実現するインベストメントチェーンという構図の中で、個人投資家は二つの役割を同時に担っています。リスクマネーの循環を支える資金供給者の一つであると同時に、最終的に恩恵を享受する主体でもあるのです。

資金供給者としての個人投資家は、同じ市場に参加している機関投資家などと比較して、その投資規模や影響力が大きいとは言えません。しかし、インベストメントチェーン強化による持続的経済成長という政策コンセプトのそもそもの目的論に立ち返れば、個人投資家のリターン拡大はここで紹介した全ての政策が究極的に目指す共通目標でもあります。

NISAなどを通じて最近投資を始めた方は、市場の動きによって自身の含み益(または含み損)が増減するのを目の当たりにして、一見抽象的にも思える株価や各種経済指標の「手触り」を実感したことでしょう。インベストメントチェーンに参加することは、この国の経済社会のあり方について根本的な問題意識を持つきっかけにもなります。

 

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