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投資のプロが教える「増配」が期待できる企業の見極め方

配当太郎(投資家)

配当金投資とは

非課税枠の大幅拡充などの改訂を経て、今年1月にスタートした「新NISA(少額投資非課税制度)」。様々なメディアで大きく取り上げられていますが、株式投資の初心者としては「興味はあるけれど、できれば大きなリスクは負いたくない」と心配になるのも事実です。

Xのフォロワー17万人超を誇る投資家・配当太郎さんは、「新NISAと『配当株投資』は親和性が高く、相性が抜群。配当株投資の成長エンジンである『増配』を最大限に生かせば、リスクを低減しながら1カ月当たり20万円の配当金を得ることも可能」だと語ります。

※本稿は、配当太郎著『新NISAで始める!年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

※本稿は2024年5月時点の情報に基づき、投資に対する著者の考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入の可否を含む投資の判断はご自身の責任で行なうようお願いいたします。

 

大切なのは「1株益の伸び」に注目すること

配当金投資を成功に導くためには、
(1)自己資金による追加投資
(2)配当金からの再投資
(3)企業による増配
という3つの成長エンジンを回転させ続けることが大切になります。中でも、企業による増配はメイン・エンジンとなります。

増配する企業には、大きく2つのパターンがあります。1つは、「配当性向が高くなってもいいから、増配を続ける」というパターン。もう1つは、「1株配の大事な原資となる1株益が緩やかであっても、きっちりと上昇することで増配する」というパターンです。

※1株益:1株当たりの利益がどれだけあるかを示す値で、「当期純利益÷発行済株式数(自己株式を除く)」の計算式で求められる、企業を評価する際の指標の1つ。

どちらが安定的な増配が見込めるかといえば、これは一目瞭然で後者と考える必要があります。「安定的・継続的な配当」という配当方針を掲げ、配当に対する意識が非常に高い企業がありますが、1株益が上昇しない状態で増配を続けていた場合、配当性向(当期純利益に占める年間配当金の割合)が高い水準で推移し、企業の成長につながる新たな投資ができない可能性が出てくるため、増配が続くかどうかは注視していく必要があります。

 

「高配当株」を買っても増配するとは限らない

高配当株とは、一般的に年間配当利回りが4%を超える銘柄を指します。新NISAのスタート以降、高配当株を謳ったニュースや記事が氾濫しているため、「高配当株を買っておけば、増配によって配当金が増える」と考える人も多いでしょうが、必ずしも期待通りにはいかないものです。

高配当株を否定するつもりはありませんが、配当利回りが4%、5%を超えるような高配当銘柄が、常に市場にあることに対して、私は少なからず違和感を覚えています。

業績が堅調で、1株益が上昇することで増配を実現している企業であれば、市場が放置するはずがなく、買いが入ることで株価が上がり、配当利回りが下がることになります。

場合によっては、業績が悪化して株価が下がっていても、配当金を減配せずに出すことで高利回りになっている銘柄が「高配当ランキング」に入っていることもありますから、高配当株を買いたいと思うのならば、次のような4つの観点で、事前にチェックをする必要があります

チェック1:配当性向が高いことで、利回りが良くなっていないか?
1株益が上昇していないにもかかわらず、1株配が高く、配当性向も高い場合は、近い将来に減配する可能性があります。減配すると、株価が維持できたとしても、配当利回りは低下します。多くの場合、株価も下落するという「二重苦」になりますから、その企業の還元策がなぜそうなっているのかを確認する必要があります。

チェック2:株価が安値で配当利回りがいい理由は何か?
株式市場では、企業の成長性を見込みながら株価が形成されています。株式市場から、1株益の上昇が見込められないと判断され、株価が低迷している状況で配当利回りが高い場合は、業種や業態を確認して、今後の1株益がどうなるかを検討することが大事です。

1株益が横ばいでも、利益の蓄積によって緩やかに株価が上がったり、どこかのタイミングで「見直し買い」(割安感のある株に買いが入ること)が入ったりすることで、株価が上昇するのが普通です。そうなっていないのならば、何らかの理由があるはずですから、投資は控えたほうがいいと思います。

チェック3:その年だけ「配当予想」が高くなっていないか?
「記念増配」や「特別増配」など、単年の配当で一時的に配当利回りが高くなっていることもありますから、株を買う前に必ず確認する必要があります。その後の還元策が同じ水準であれば問題はありませんが、内容によっては株価が大きく下落する可能性があります。配当利回りの高さだけで飛びつくと、意外な落とし穴があるので要注意です。

チェック4:特需があって1株配が高くなっていないか?
その企業の業績が著しく向上するような特需(特殊需要)があって1株配が増加し、配当利回りが良くなっている場合は、その特需が終われば1株配は減少します。株価が1株配の下落を織り込んでいなければ、株価の下落と1株配の減少というダブルパンチに見舞われることもあるので、冷静に確認しておくことが肝心です。

様々なメディアで紹介されている「高配当ランキング」は、あくまで参考程度に考える必要があり、それを鵜呑みにするのは禁物です。配当株投資を進める上では、株価と1株配を基準とした配当利回りを参考にするのは有効な考え方ですが、「配当利回りが高いことには、何らかの理由があるのではないか?」という視点を持って考えることが大切なのです。

 

「PBR」が1倍割れ企業の株主還元に期待

増配する企業の見極め方として、私が注目しているのは、「PBRが1倍割れしている企業」の動向をチェックすることです。PBRとは、「株価純資産倍率」と呼ばれるもので、「PBR=株価÷1株当たり純資産(BPS)」の計算式によって求められます。

PBRは、株価が「1株当たり純資産」の何倍の水準にあるかを示したもので、現在の株価が、企業の資産価値に対して「割高」か「割安」かを判断する目安とされており、その数値が低いほうが割安と判断されます。

従来は「PBR=1倍(株価と資産価値が同じ)」が株価の底値と考えられてきましたが、PBRが1倍を下回っている企業は東京証券取引所(東証)に上場している3300社中の約1800社もあることから、東証は2023年3月、上場企業に対して異例ともいえる改善要請を行い、日本政府も早期是正に向けてそれを後押ししているのが現状です。

PBRが1倍割れしている企業は、「稼いだお金をうまく活用できずにお金が貯まっている状態にある」と見ることができます。従来、それが問題視されることはなかったため、多くの大型企業が1倍割れの状態にありましたが、東証の改善要請を契機に危機感が広がり、各企業が改善に向けて積極的に動き出しています。

今後はさらに改善に向けた取り組みが加速すると予想されるため、PBR改善の動きをチェックして、増配を先読みしながら投資を検討することが配当金投資では大切になります。

改善策の2本柱となるのは、事業拡大のための「成長投資」と「株主還元」ですが、超成熟企業であれば、業績にインパクトを与えるほどのイノベーション(技術革新・新基軸)はそう簡単に起こらないため、中心となるのは後者の株主還元になることが予想されます。

株主還元の方法には、「自社株買い」と「配当」の2つがあります。自社株買いとは、上場企業が過去に発行した株を自らの資金を使って買い戻すことです。企業が自社株買いを実施すると、純利益に対する発行済株式総数(自己株式を除く)が減少するため、1株益の上昇につながります。

自己株式とは、企業が保有する自社株のことです。大まかな流れとしては、「企業が自社株買いをする」「1株益が上がる」「PER(株価収益率)が下がる」「割安感が生まれる」「株が買われる」「株価が上がる」というプロセスを経て、PBRが1倍を超えることになります。1株益が上がれば、企業は配当の原資を増やせるため、配当性向の基準を定めている企業であれば、増配が可能になります。これが自社株買いの効果です。

企業が増配を選択するのは、貯まっているお金を有効に活用できていない状態のため、株主に還元することで資本の効率化を図ることを目的としています。したがって、「PBRが1倍割れしている企業は、株主還元に積極的になりやすい」と予測することができます。

企業が自社株買いと増配のどちらを選択しても、私たち投資家にとってはメリットが生まれる可能性が高くなります。新NISAを活用して配当金投資を始める個人投資家が増えていってほしいという意味では、今後も株主還元に積極的な企業が増えることを大いに期待したいところです。

著者紹介

配当太郎(はいとうたろう)

投資家

学生時代に株式投資を始め、リーマン・ショックを経て、配当株投資に目覚める。大型株を中心に投資し、保有銘柄の9割は配当金が年々増える「増配銘柄」が占める。X(旧twitter)のフォロワーは17万人超。毎日、配当株投資に関する情報を発信している。著書に『年間100万円の配当金が入ってくる最高の株式投資』(クロスメディア・パブリッシング)。

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