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「察して」が通じない部下にどう接する? 現代の上司に必須の声かけのコツ

2025年04月09日 公開

ヴィランティ牧野祝子(国際エグゼクティブコーチ)

ポジティブフィードバック

数年前からときどき耳にするようになった「ポジティブフィードバック」という言葉。語句だけ聞くと「褒めればいいのか」と思ってしまいそうだが、国際エグゼクティブコーチのヴィランティ牧野祝子氏によれば、それは大きな誤解だという。リモート時代のマネジャーに不可欠なその基礎知識について、牧野氏に取材した。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』2024年5月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「褒めればいい」は大きな勘違い

ポジティブフィードバックとは

40~50代のマネジャーからしばしば聞くのが、「ポジティブフィードバック」という言葉への戸惑いです。叱られて育った世代には、なかなかしっくりこない言葉なのかもしれません。

特によくあるのが「そんな何度も褒めたって、逆に不自然だろう」という誤解。実は、ポジティブフィードバックとはただ褒めることではありません。それどころか、ポジティブフィードバックのうち「褒め」が占めるのは、せいぜい1割程度です。

褒めることよりはるかに大切なのが、肯定的な「対話」。これが9割超と言えます。面談など整った場での対話のみならず、ささやかな雑談や挨拶もその一部。例えば昼休み終わりに「お昼どこ行ったの?」と声をかけるだけでもいいんです。これなら不自然さはありませんよね。

こう説明すると、どこが「ポジティブ」なのかと思われるかもしれませんが、こうしたひと言こそ「あなたを見ているよ」というメッセージ。ポジティブフィードバックとは、ただの褒め殺しではなく、「見ている、認めている、信じている」と伝えることで部下との信頼関係を育む「承認」の技法なのです。

 

「察して」が通用しない時代にこそ必須のスキル

なぜいまポジティブフィードバックなのか

今後この能力は、従来以上にマネジャーに欠かせないものになっていくでしょう。そこには二つの理由があります。

一つは、働く人の多様性が急速に高まっていることです。

昔の職場は主力の大多数が男性で、しかもそのほとんどが新卒入社。社内の人間関係も「○○大学出身」といった共通項でつながるなど、非常に「似た者同士」が集まる場でした。

そうした場であれば、上司が「それは察しろよ」といった態度でも、部下とそれなりに通じ合うことができたでしょう。多少激しく叱ったり、上司の都合で振り回したりしても、その後の「飲みニケーション」で解決できたのかもしれません。

しかし、女性の社会進出が進み、国籍や経歴もどんどん多様化する今の職場では、上司と部下の間に「普通」が共有されていませんよね。つまり、もはや「察してくれ」のスタンスは通用しなくなっているのです。

そして二つ目の理由は、リモートワークの普及や飲み会の減少により、意識せずとも部下と言葉を交わせる機会が減っていること。これが、上司と部下の対話不足に拍車をかけています。マネジャー側から意識的にコミュニケーションを取らないと、上司の職責を果たせない。そんな時代が、すぐそこまで迫っています。

 

小さな存在承認の「数を打つ」のが基本

ひと口に「承認」と言いますが、実は全部で四つの種類に分けられます。まず一つ目は、具体的な成果についての感謝を伝える「結果承認」。例えば「ついに成約か。君の粘り強さのおかげだね」「今期のこの数字、○○さんの貢献があってこそだったよ」といったことですね。これは、すでにできている方も少なくないかと思います。

二つ目は「行為承認」です。成果の有無に関わらず、プロセスに言及することを指します。例としては「その視点はなかったな」「人を巻き込むのが得意だね」などがあるでしょう。

そして三つ目は「存在承認」。相手がそこにいること自体に肯定的関心を示すことです。前述の「お昼どこ行った?」もその一例。出勤時の挨拶や笑顔、相手の発言にうなずくなどの反応もここに含まれます。

一見些細なようですが、むしろこの「存在承認」こそがポジティブフィードバックの肝。手軽に取り入れられますし、まずはここから挑戦することをおすすめします。「元気?」「忙しいね~」「最近○○だけど疲れてない?」など、とにかく声かけの「数」をこなしましょう。

逆にこれを怠ると、それはそのまま「無関心」というメッセージになってしまいます。厄介なことに、放置されるだけで人の脳はネガティブに傾いてしまうもの。マネジャーが「彼には何も言うことがない。頑張ってるな」と思っていた若手がある日突然「辞める」と言い出す、なんて事態を防ぐためにも、仕事ぶりが良くても悪くても、はたまたいつも通りでも、声かけを欠かしてはいけないのです。

 

ネガティブな指摘は「P→N→P」で伝える

マネジャーが心がけたい「叱る場合のPNP」

最後は「可能性承認」、つまり相手の未来の可能性を信じることです。例えば、何か指摘や叱責をせざるを得ない場合に、「君なら改善できるよね」といった期待感を言い添えること。ネガティブな内容を前向きに伝える重要な要素です。

といっても、難しくはありません。コツは「サンドイッチ方式」の採用です。ネガティブな指摘(N)をポジティブな言葉(P)で挟む「P→N→P」の順番を心がけましょう。例えば、「報告書、ありがとう(P)」→「提出が遅かったけど、何かあった?(N)」→「OK、じゃあその防止策で行こう。困ったら相談して(P)」と、前後に「承認」を含む発言を挟むことで相手に安心感を与えるのです。

これを習慣化して、日ごろから部下に「理不尽な叱責はされないだろう」という安心感を育めれば、日ごろの雑談の合間に「最近何か困ったことはない?」と聞くだけで、「実は......」と自らの課題やミスについて話してくれるようになるでしょう。

業務をしていると、注意や改善点の指摘が必要になりますが、PNPならこれをも肯定的に行なうことができます。「たまにビシッと言っても大丈夫」な状況を保つのが、ポジティブフィードバックの趣旨なのです。

そのためには、普段から「承認(P)」を投げかけること。強めの「N」が挟まれても、相手を委縮させずに済みます。その場その場の「PNP」だけでなく、長い時間軸で見ての「ヨコのPNP」構造を作り出すことまで心がけられれば、立派なマネジャーと言えるでしょう。

 

業績アップや時短効果も!

承認の効果は非常に多岐にわたります。まず部下視点で言えば、当然やる気が出ますよね。上司に「認められている」ことで生まれる安心感や自信は、主体性を強く喚起します。また、仕事ぶりに対するコンスタントな言及があることで、仕事への理解度も深まるでしょう。

そしてもちろん、上司側にも大きなメリットがあります。話しやすい雰囲気が醸成されてくれば、部下のほうから細かい報告が上がってくるようになるものです。細々と管理したりせっついたりせずとも、業務状況を把握できるようになります。

あとは「時短効果」もありますね。安心して本音を開示し合える関係性があれば、何の進展もない「無駄な会議」を、大きく減らすことができますから。

意見や指摘を互いに遠慮なく「開示」できる環境さえ出来上がれば、部下にも上司にも、果てはチーム全体にまで、プラスの効果が波及していくのです。

 

リモートワークでもできる「小さな声かけ」

最後に、リモートワーク時の声かけ術についてもお話しします。対面の場より難儀しそうに思われがちですが、そんなことはありません。私が働いてきた海外企業には、リモート勤務の体制が数十年前からありましたが、その経験から言って、オンラインと対面にそこまでの差はないはずです。変に構えず、出社時同様に「こまめな承認」を送っていれば、対面同等の話しやすさを確保できるでしょう。

もちろん対面の場合よりも積極的な工夫が必要にはなりますが、例えば毎朝グループチャットで挨拶し、各自の業務を確認する、メールの返信に必ず「助かりました!」と添える、返信不要のチャットにも「いいね」をつけるなど、工夫はいくらでも考えつくはずです。

また、リモート率が高い職場なら、チーム全員が出社する日を定期的に設けることも大切です。例えば「月イチのブレスト会議」のようなものがある職場なら、そこに合わせるのがいいですね。もちろん、皆でランチに行くなどの軽いイベントも、ときどきならアリでしょう。

日々「承認」を繰り返してメンバーとの信頼関係を築き、時代に求められるマネジャーとなっていただければ幸いです。

リモート時代のポジティブフィードバック

 

【ヴィランティ牧野祝子】
国際エグゼクティブコーチ。東京都出身、ミラノ在住。INSEAD(インシアード・欧州経営大学院)MBA卒業。国内外10カ国でキャリアを積む。障がいを持つ子が生まれたことを機に個人の能力頼みのビジネスに疑問を感じ、より良い働き方を模索する中でポジティブフィードバックに出会う。現在は独立し、国際エグゼクティブコーチとして活動中。著書に『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わるポジティブフィードバック』(あさ出版)などがある。

 

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