『僕らはそれに抵抗できない』書評　僕らはみんな依存症？

　のっけから汚い話で恐縮である。

 男子便所では、小用をたしながらスマホを操作する輩をよく見かける。その姿、誠に器用なので甚だ感心する次第なのだが、まぁはっきり言って汚い。いますぐ、スマホから手を離せ。さすれば、スマホは便器に落ちる。

 ほんの数秒だけでいい。我慢できなかったのだろうか。そう思うたびにこんな想像をする。

 きっと便器にレアポケモンが出現して、一刻も早くモンスターボールを投げなければならなかったのかもしれない。もしくは、仕事のトラブルだったのかもしれない。ならば、仕方がない。

 でも、数秒考えれば、生理的欲求を満たす以上に大事なことはないことはわかるし、緊急だったら折り返し電話すればいい話だと気がつく。

 一説によると、スマホは便器よりも汚いと言われているそうだが、その説も少しは頷ける。

　｢おいおい、なに上から目線で評論してくれてんだよ、じゃあテメーは個室でスマホいじったことないんか？　あぁ！？｣

　というお叱りをうけそうである。

　もちろん、ある。なんなら、仕事の電話をうっかり個室で取ってしまったこともある。気づいたときにはもう遅い。もうやりきるしか……ない。

　かように、私たちの生活においてスマホは文字通り一時も手放せぬ重要なパートナーだ。一方で、依存させる悪友ともいえるかもしれない。

　クロマティ高校に登場する愛されキャラ、メカ沢は｢このままじゃ機械に支配されちまうぜ｣と言っていたが、もう手遅れな気もする(『課長バカ一代』実写化おめでとう！　ボブ！)。

　さて、前置きが長くなったが、今回紹介する本は『僕らはそれに抵抗できない』だ。

　スマホ、インスタグラム、ネットドラマ、ウェアラブル端末、メールチェックなど、あらゆる｢新時代の依存症｣のリアルを紹介している。新時代の依存症とは行動嗜癖と呼ばれるもので、「わかっちゃいるけどやめられない」動作を指す（スマホゲームのガチャや「推し」への課金等）。行動嗜癖の事例満載(割りとエゲつない形で人生がぶっ壊れたりしてる。救いはなんとか実社会に復帰した人たちをケーススタディとして紹介していることだろうか)で、身近な本当にあった怖い話として楽しめるかもしれない。

　ただ、本当に怖かったのは依存症そのものよりも、依存症をしかける企業の倫理観の欠如や巧みな戦術だった。一方で、そうした企業に勤める優秀なプログラマーが「これ以上廃人を量産できない！」と良心の呵責に悩んだりして、なかなか味わい深かい。ネタバレになるので、詳しくは本書をお読みいただきたい。

　ブラックジョークとして最高だったのは、iPhoneの産みの親であるスティーブ・ジョブズが自分の子供にタブレットもスマホも与えなかったことだ。作った本人が一番、スマホの中毒性に気づいていたエピソードではないだろうか。

　では、その依存する仕組みを逆手にとって、よりよい生活を送る方法は考えられないだろうか。本書では、その方法としてゲーミフィケーションを最終章で提案している。残念なのは、その具体的な方法を解説していないことだろう。ありがちではあるが、そこまで言うなら具体的な解決策は提示して欲しい。やや、不完全燃焼感がある。

　ともあれ、現代人は程度の差こそあれ、ほとんどの人がなんならかの対象に依存していると本書は指摘する。そして、その依存からは逃れられない。ここが一番のポイントだ。

　自分が一体何にハマっているのか、その状態を認識しているのか、そしてどれくらいその欲望をコントロールできているのか。本書は、それを振り替える良いきっかけになるかもしれない。

　ビジネスでもプライベートでも、デジタルデトックスが叫ばれる中、読む価値は高いはずだ。

　この書評を読んでいる多くの方には関係のないことであろうが、最近は薬物依存関連のニュースが続いている。田代まさし氏の再犯がもはや笑えなくなった今、(｢別に｣初めからネタにしているわけではないが、ネットでは一部その空気があったのは否めない)本書をパラパラと再読している。

　そんなおれは、酒を飲まないと一日が終わらない。立派な依存症である。