
野球評論家のゴジキ氏が歴代の名将を分析し、4刷重版も決まった著書『マネジメント術で読むプロ野球監督論』。今回はその内容より、大谷翔平選手の恩師であり、二刀流をともに完成させた栗山英樹氏について分析・解説する。
※本稿は、ゴジキ著『マネジメント術で読むプロ野球監督論』(光文社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
16年の日本ハムは一つの集大成といってよいだろう。3連覇を狙うソフトバンクに11.5ゲーム差をつけられながらも、球団新記録の15連勝で8月25日に首位へ浮上。9月終盤には敵地でソフトバンクに連勝し、大逆転優勝へたどり着いた。特に、7月1日からのソフトバンク3連戦で高梨裕稔、有原航平、大谷を当てて3タテをしたことがターニングポイントだった。
こうした結果だけ見れば「勢い」の物語だが、中身は違う。チームの打率と防御率はいずれもリーグ首位。作戦・内野守備走塁の白井一幸、投手運用の吉井理人という二人の参謀が選手の良さを引き出して監督を裏から支えた。
白井は攻撃面の作戦立案を担い、俊足巧打の選手を活かした機動力野球や小技を駆使する戦術でチームを盛り立てた。メジャー研修の経験からデータの重要性を理解しており、相手バッテリーの配球パターンや守備の陣形を踏まえたうえで作戦を練ったのだ。
試合ごとに盗塁のタイミングやバントシフトの癖などを分析し、攻略プランを立てていたため、シーズンを通して相手の裏をかく走塁・攻撃が目立った。
一方、メジャーリーグでも活躍した吉井は16年に4年ぶりに日本ハムの投手コーチに復帰。大谷の登板間隔管理や体調面のケアにも細心の注意を払い、投手大谷を無理させず野手大谷の打力を最大限活かす起用法を栗山とともに模索し、増井の先発転向など投手陣の再編と柔軟な起用策でチームに安定感をもたらした。
また、CSや日本シリーズでは相手主力打者の弱点コースや傾向を投手に伝え、リリーフ継投の順番もデータに基づき最適化した。
そして、チームの中心には投打の二刀流で前人未踏の活躍を見せた大谷翔平がいた。シーズンMVPに加えて、NPB史上初となる投手とDHの両部門ベストナインを受賞した。
大谷はこの年、打者として90試合(スタメンDH80試合、先発登板試合で自ら打席に立った試合7、代打起用3)に出場し、打率.322、22本塁打、67打点という主軸級の成績を残している。チームは大谷が打席に立った試合で57勝31敗2分と大きく勝ち越し、特に大谷が先発投手として登板し自ら打席にも立った7試合では全勝という驚異的な強さを誇った。
シーズン中盤には指にマメを作って一時投手登板を離れたが、その期間もほぼ野手に専念させ、約1か月半の間に打率.313、9本塁打、25打点と大活躍させている。二刀流のメリットを最大限に活かす起用法で、投手大谷不在時の穴を打者大谷で埋めた。前述した3年間の積み重ねによって、この前例なき二刀流が成功したといえる。
栗山の采配としては、若手選手の積極的起用や、臨機応変な配置転換がこの年のポイントだ。
日本ハムは伝統的に将来を見据えた育成を重んじる球団であり、栗山もその方針の下で大胆な起用を行った。ルーキーの加藤貴之は先発と中継ぎの両面で7勝、新外国人のアンソニー・バースも先発・リリーフを兼ねて8勝を挙げた。さらに、前年0勝だったリリーフの高梨裕稔をシーズン途中から先発に回すと10勝2敗、防御率2.38の飛躍を遂げている。
さらには、抑え投手だった増井浩俊をシーズン途中で先発に転向させるという大胆な策を講じた。増井は難しい調整にもかかわらず先発で6勝1敗、防御率1.10を挙げ、プロ初完封も記録するなど見事な成功を収めた。
投手大谷の離脱した穴を埋める大きな賭けだったが、シーズン途中に守護神を先発へ回してこれほど結果を残したケースは前例がない。同様に、谷元圭介ら複数の投手をシーズン中に先発・中継ぎとフレキシブルに起用し、その都度チーム事情に合わせて役割を変えた。
短期決戦でも、先発投手を早めに見切って第二先発を投入する大胆策や、守護神の配置転換といった栗山の柔軟な起用法が成功を収めた。特にソフトバンクとのCS第5戦、初回にKOされた加藤を即座に諦めロングリリーフ役のバースに4イニングを託した判断もさることながら、DHの大谷をクローザーに〝変身〞させる離れ業は素晴らしかった。
史上初のDH解除セーブ、日本最速165km/hを引き出した起用法には、ソフトバンクの工藤監督も脱帽。また、このシリーズの第2戦でクローザーのマーティンが痛打された際にその起用法を徹底的に見直し、調子の良いバースや谷元を勝ちパターンの中心に据え直した点も勝因となった。実際にバースと谷元はCSファイナル全試合で失点0と安定感抜群だった。
日本シリーズでは広島の完成度に押し込まれ、ビジターで連敗発進。そこで栗山は焦ってゲームを大きく動かすのではなく、壊さずに終盤へ運ぶことを最優先に据え、投手の役割をうまく変えながら走塁・小技を織り交ぜた攻撃で流れを取り戻す。第3戦を大谷のサヨナラ打、第4戦をレアードの勝ち越し弾で勝利してシリーズをタイに戻すと、最大の勝負手が第5戦で打たれた。
この試合、先発の加藤が二回一死満塁で捕まるや、栗山氏は即座にロングリリーフのメンドーサへスイッチする。CSのバースと同様、短期決戦における第二先発の大胆な投入で火消しに成功し、メンドーサは7回まで1安打に封じる力投を見せる。
打線は7回に市川の送りバントと中島の一打で同点に追いつき、9回は広島の守護神・中﨑翔太に対して二死満塁から西川のサヨナラ満塁本塁打。相手の勝ちパターンに対して粘りで球数を重ね、最後は一撃で方程式を崩した。
敵地に戻った第6戦は、栗山の継投戦略と打席管理が表裏一体で機能する最終章となる。同点で迎えた8回、6戦連投のジャクソンに対し二死から西川、中島、岡の三連打で満塁をつくる。
ここで大谷をネクストバッターサークルに置いてプレッシャーを与え、中田に押し出し四球を選ばせて先にスコアを動かすと、投手のバースにも打席を与えて適時打を放つ。さらに、直後にレアードの満塁弾で勝負を決した。
ビジターでDHなしという制約の中、投手交代のトリガーになりがちな投手打席を継投の安定のためにあえて維持し、攻撃面でも得点を生む。この判断は、栗山の現場感覚と設計思想が合致した象徴的な一手だった。
この日本シリーズを通じて栗山は、奇策のように見えて実は必然へと収束する采配をし続けていたのである。
更新:05月21日 00:05