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部下の強みを伸ばす「フィードバック」の手法とは? 重要な5つのステップ

中原淳(立教大学経営学部教授)

フィードバック

ポジティブフィードバックとは、部下の強みや良い点を伝えることで、部下の強みを伸ばし、成長を促すフィードバックのこと。本記事では、ポジティブフィードバックの典型例を、ケーススタディで紹介する。「①場づくり」から「⑤感謝と期待の通知」までの5つのステップを通して読んでいただき、実践につなげていただきたい。(取材・構成:杉山直隆)

※本稿は、『THE21』2025年5月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

【①場づくり】心理的安全性の高い環境を作る

ポジティブフィードバックの各ステップのポイント

ポジティブフィードバックの典型例を、メーカーの営業課長である関本さんと部下の柳井さんのケーススタディで見ていきましょう。

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関本「忙しいのに、今日は時間を取ってくれてありがとう」

柳井「いえ、こちらこそありがとうございます」

関本「......そういえば柳井君、最近、デザインの勉強を始めたって中島部長から聞いたよ?」

柳井「勉強っていうほどでは......(苦笑)。でも、お客様への提案書って見た目も大事だなって思って、デザインのことを調べていくうちに楽しくなってきたっていう感じです」

関本「へえ、すごいね。中島部長も柳井君に資料を全部作ってほしいくらいだって言っていた(笑)。私はデザインって苦手だなあ。今度、教えてよ」

柳井「教えられるかどうかわからないですけど......(笑)。頑張って勉強してみます」

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まず大切なのは、心理的安全性の高い環境を作ることです。廊下での立ち話でも良いので、他のメンバーがいない、心理的安全性の高い場で行ないましょう。

会議室などで落ち着いて行なうときは、ねぎらいや感謝の言葉から始めます。この事例のように、場の雰囲気を和らげるアイスブレイクの話題を交えるのも良いでしょう。

もちろん、心理的安全性を高めるには、日頃からこまめにコミュニケーションを取って、良好な関係性を作っておくことも不可欠です。

 

【②強みの通知】【③対話】SBI情報をもとに伝える

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関本「商談記録を見ていて感心していたんだけど、1カ月の商談数が前期と比べて20件くらい増えているね」

柳井「はい」

関本「特徴的だなと思ったのは、今、取引がある企業以外の商談件数が増えていることだね。これは意図があるのかな?」

柳井「今、取引がある企業へのアプローチだけでは足りないと考えたので、取引が切れてしまった過去の企業をピックアップして、アポイントを取るようにしました」

関本「良い活動だと思うんだけど、そう考えた理由はあるの?」

柳井「一度でも取引のある企業であれば、過去に取引があったことを理由にして商談につなげやすいと思ったからです」

関本「良い着眼点だね。しかも、取引が切れてしまった理由やお客様の情報とかを、当時の営業担当の中島部長にヒアリングしていたって聞いたよ?」

柳井「......はい、そうですね」

関本「商談をうまくいかせるために、商談記録だけではなく、そこからは見えない情報も丁寧に集めて、工夫してくれているように、私には見えるよ」

柳井「そうですかね(照れ)」

関本「実際に成果も出つつあるしね。自信を持って良いと思うよ」

柳井「はい」

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ポジティブフィードバックの目的は、相手の強みを伸ばして、成果につなげることです。ですから、強化してほしいポイントや継続してほしい行動について、できるだけ具体的に伝えることが大切です。具体的に伝えるには、事前にSBI情報をつかんでおきましょう。

SBI情報とは、
・S=シチュエーション(どのような状況で、どんな状況のときに)
・B=ビヘイビア(部下のどんな振る舞い・行動が)
・I=インパクト(周囲やその仕事に対して、どんな良い影響をあたえたのか)
です。

この事例では、関本さんによる「強みの通知」に対して、柳井さんは「はい」と腹落ちしていますが、実際には、すぐには腹落ちしないケースが多いです。

フィードバックを受容する態度や能力には、人によって大きく差があります。上司が伝えた強みを、相手は理解していないかもしれません。また、上司が伝えた相手の強みが、相手の考えている自分の強みとズレていることもあります。強みを通知した後には必ず「対話」をして、相手の反応を確認することが必要です。

ポジティブフィードバックの各ステップのポイント

 

【④行動づくり】相手がどう思うかを尋ねる

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関本「それで、これからもこの調子で頑張ってもらいたいんだけど、柳井君としてはどう?」

柳井「そうですね......」

関本「......」

柳井「......商談件数を増やしたら、それなりに結果がついてくるという手ごたえはつかめましたが、業務対応が追いつかなくなってきて......」

関本「商談に出ていて社内にいる時間が減ったからだね?」

柳井「はい。商談から戻ってきて夜に書類を作っているんですけど、集中力が低下しているからかミスが続いていて......。業務部から注意されました。それと、もっと提案書を練り込めたなと思う商談もありました。現に、そういう商談はうまくいかなかったので。商談件数を維持するために、残業を増やしてなんとか回しているんですけど、このままで良いのかという不安もあります」

関本「そうだね。残業削減っていうのも会社から言われているからね。それに柳井君の健康のためにも良くないね」

柳井「はい」

関本「でも、せっかくうまくいきかけているし、柳井君としては商談件数をキープしたいっていう思いもあるのかな?」

柳井「そうなんですけど......」

関本「......じゃあ、商談の件数を維持するための工夫を考えてみない? 私も一緒に考えるよ?」

柳井「ほんとですか? よろしくお願いします!」

関本「確認だけど、柳井君が目指す姿は?」

柳井「営業なので、目標を達成することです」

関本「うん。そのためにやってきたことは?」

柳井「過去の取引先へ再アプローチして、商談件数を確保してきました。だけど、商談の時間が増えたしわ寄せで、書類の作成や提案書の練り込みの時間が取りにくくなったので、残業が増えてしまっているという状況です」

関本「そうだったね。じゃあ、今の状況を解決するには、例えば、どんな方法があるかな?」

柳井「......そうですね......。時間を捻出できるような工夫をしたいと思います」

関本「なるほど。具体的なイメージはあるの?」

柳井「......書類作成や提案書の練り込みにかかっている時間を半分にする……とかでしょうか」

関本「うん......。でも......。それって実現可能? いきなり仕事のスピードが速くなるとも思えないし......。仮にできたとしても、焦ってやって書類のミスが増えたり、提案書の練り込みが浅くて商談の質が落ちたりしないかな?」

柳井「......確かに......」

関本「時間を確保するっていう発想は良いと思うけど、別の方法はないかな。例えば、メリハリをつけた時間の使い方をするとか」

柳井「あ......。今はとにかく商談することを優先していたので、どんどんアポイントを入れていました。なので、30分とか1時間とか、空き時間ができることもよくあって......。できる限り空き時間を減らせるようにアポイントを入れることはできそうです」

関本「いいね、それ」

柳井「そうすると、業務対応をする時間が捻出できるかもしれません。毎週金曜日は空けておくっていう調整も可能かも」

関本「良いアイデアじゃない? まとまった時間が取れたら集中して仕事ができるからね」

柳井「自分の都合を相手に伝えるのはちょっと苦手なんですけど、これならできそうです」

関本「うん。最初は思い切りが必要かもしれないけど、頑張ってみようか。他にはどう?」

柳井「あと......提案書のパターンを決めても良いかもしれません。今までは案件ごとに作っていましたが、たくさん商談したので、過去に取引がなくなった理由が分類できてきました。それぞれに合わせたパターンを作っておけば、提案書はアレンジで済むので、時間の節約になります」

関本「いいね、それ。分析できるのは柳井君の強みだと思う。さっそく取りかかってよ」

柳井「わかりました」

関本「せっかくだし、その資料をメンバーにも共有したいんだけど、来月のチームミーティングで説明してくれない? 過去の取引が切れたパターンもわかってきたということだったから、そういう情報もメンバーは知りたいと思うし」

柳井「わかりました」

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「行動づくり」のポイントは、上司が答えを言うのではなく、相手に自分で答えを見つけてもらうこと。腹落ちしていないと、実行されないからです。「柳井君としてはどう?」と聞いているように、まずは、どう思ったのかを相手に尋ねます。

それに対し、柳井さんは、「商談件数が増えたけれども、仕事が回らなくて困っている」と返しています。
こうして新たな課題が出てきたら、それを踏まえて、明日から何をするかを、相手に考えてもらいます。

関本さんが「それって実現可能?」と言っているように、上司が見て難しそうなことははっきり伝えるべきですが、一緒に考えながら、上司からはヒントを出すに留めましょう。

事例では、提案書のパターンを他のメンバーにも共有してほしいとお願いしています。こうすると、自分がしたことがチームに良い影響を与えられることがわかって本人のモチベーションが上がりますし、チームも活性化できて、一石二鳥です。

 

【⑤感謝と期待の通知】相手の自己効力感を高める

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関本「あと、今は柳井君自身のできることをピックアップしてくれたけど、私がメンバーや他部門に働きかけてできることもあると思うし、いつでも相談してね」

柳井「はい、ありがとうございます」

関本「じゃあ、今日はここまでにしましょう。毎日、頑張ってくれてありがとう。柳井君の活動は、チーム全体にも良い影響が出そうだなって思うし、これからも期待しているよ」

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最後は感謝と期待で締めることで、相手の自己効力感を高められるでしょう。その後もサポートし続けるメッセージを伝えることも、「この職場にいていいんだ」という受容感につながります。

野球日本代表の栗山英樹元監督やサッカー日本代表の森保一監督を見てもわかるように、メンバー一人ひとりに向き合い、メンバーが最大のパフォーマンスを発揮できるようポジティブに接していくのが、今の時代に求められる上司像です。そんな上司を目指すうえで、ポジティブフィードバックは必須のスキルです。読者の皆さんも、トライ&エラーをして、自分のものにしてください。

 

著者紹介

中原淳(なかはら・じゅん)

立教大学経営学部教授

1975年、北海道生まれ。東京大学教育学部を卒業後、大阪大学大学院、マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学准教授などを経て、2018年より現職。企業や組織における人材開発・リーダーシップについての研究を専門に扱う。主な著書に『フィードバック入門』(PHPビジネス新書)などがある。

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