
円安に歯止めがかからない状況が続いています。「なぜ、日本円の価値はここまで下がり続けるのか?」その答えは、日銀が抱える深刻な財務リスクに隠されているかもしれません。日銀が「巨額の含み損」という時限爆弾を抱えていることは、あまり認識されていないのではないでしょうか。では、私たちが取れる生存戦略とは?本記事では、最新の経済状況を元に、日銀の舞台裏で何が起きているのか、そして、大切な資産を円安の波から守るための具体的な防衛策について、藤巻健史氏に解説頂きます。
※本稿は、藤巻健史著『物価高・円安はもう止められない!政府と日銀がひた隠す日本経済の不都合な真実』(PHPビジネス新書)の内容を一部抜粋・再編集したものです。
※本稿は2026年5月時点の情報に基づき、投資に対する考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入の可否を含む投資の判断はご自身の責任で行うようお願いいたします。
2025年11月26日、日本銀行は25年度上半期の決算を発表しました。
まず見てほしいのが、保有する国債の評価「損」です。その額、実に32兆8259億円。国債保有残高は簿価(取得時の価格)では556兆7576億円ですが、時価では523兆9317億円。その差32兆8259億円が評価損となります。
前年同期の国債の評価損は、約13.7兆円でしたので、約2.4倍に膨らんだことになり、この評価損の金額は過去最大です。一方、評価「益」を生み出しているのが「金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託)」で、一般的に株ETF(上場投資信託)と呼ばれるものです。この評価益が、46兆405億円あります。
国債の評価損が約33兆円あっても、株の評価益が約46兆円もあれば、差し引き約13兆円のプラスなので何も問題はないだろう。そう思うかもしれません。
しかし、これは中央銀行としては異常なことであり、実に危険な状態なのです。
伝統的金融論では、「中央銀行は自国通貨の信用を保つために、株などの価格が大きく上下する金融商品を保有してはならない」と教えています。他国の中央銀行はこの伝統的金融論の教えを守り、株などの金融商品を所有していません。
スイスの中央銀行など例外もあります。外貨準備として外国株を保有していますが、これは為替介入などを目的とした特例です。
日銀のように、自国の株をもっている中央銀行は、歴史を見渡しても極めて異例です。
しかも、株ETFを爆買いしたことで、日銀は日本一の株主になってしまっています。
次に国債。日銀が保有する国債の内訳は次の通りです。
短期国債約1.7兆円
利付国債2年約21.3兆円
利付国債5年約90.5兆円
利付国債10年約244.4兆円
利付国債20年約130.6兆円
利付国債30年約51.3兆円
利付国債40年約10.4兆円
物価連動国債約5.3兆円
その他約1.2兆円
長期国債合計約555.1兆円
日銀が保有している国債のほとんどが長期国債であることがわかります。
短期国債は1%金利が上昇しても価格はほとんど下がりませんが、長期国債は価格が大きく下がります。短期国債に比べて長期国債のほうが金利の動きに対して値動きが大きくなります。ですから、伝統的金融論の教えでは、日銀は長期国債をもつことも許されていません。
かつての日銀は、株も長期国債もほとんど保有していませんでした。伝統的金融論の教えを忠実に守っていました。
その日銀が伝統的金融論から逸脱することになったのは、異次元金融緩和政策を実行するためでした。異次元の金融緩和を進めるために、日銀は長期国債を爆買いし、さらに株ETFまで爆買いしたのです。
その結果、25年9月末現在、本来、中央銀行が保有してはならない価格が上下する金融商品である国債を約556.7兆円、株ETFを約37.2兆円、あわせて600兆円弱も、保有しています。
国債という国の借金の評価損を約33兆円も抱え、それをいつ下がるともわからない株ETFによって債務超過を回避しているのが日銀なのです。
日銀が債務超過に陥れば、その信用は失墜し、ハイパーインフレを引き起こしかねません。ハイパーインフレで円の価値が暴落すれば、紙幣は紙くずになってしまいます。日銀は、そうした大きな危険性を抱えています。
物価高騰が続く中、それを抑えようと日銀が政策金利を上げれば、日銀自身の財務損失が増え、債務超過に陥ります。
もし日銀が債務超過になったとしても、企業のように資金繰りに行き詰まって倒産するようなことはありません。なぜなら、日銀はいくらでも通貨を発行することができるからです。
ただし、債務超過に陥っている中央銀行が発行する通貨を信用する人がどれだけいるでしょうか。自国民は最後まで信じるかもしれませんが、外国人は早々に信じなくなるでしょう。
世界には通貨は円だけでなく、ドルもユーロもポンドもあるわけですから。
日銀が債務超過になれば、日銀と日銀が発行する円が信用されなくなり、中央銀行の最大の役割であるインフレ抑制もできなくなり、ハイパーインフレになる可能性が高まります。ハイパーインフレは、中央銀行の信用失墜で発生します。
実際、第二次世界大戦の敗戦により、日本は戦後、ハイパーインフレに見舞われました。このとき日本政府が行ったのが、「預金封鎖」と「新円切り替え」です。旧円のままではハイパーインフレを抑えられないため、新円に切り替えることで日銀の財務状況を立て直したのです。旧円は紙くず同然になりました。
ドイツも日本と同様、敗戦後、ハイパーインフレに陥りましたが、ドイツはライヒスマルクを発行していたライヒスバンク(ドイツ帝国銀行)を廃止し、新たにブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)を誕生させ、通貨もドイツマルクに切り替えました。
日銀が債務超過に陥り、その信用が失墜すれば、日本は再びハイパーインフレになると私は見ています。もしハイパーインフレになれば、現在の円の価値は暴落し、紙幣は紙くず同然になります。
つまり、円で資産をもっているのは大変危険だということです。
ハイパーインフレに備えるなら、円以外の通貨、私はドルで資産をもつことをおすすめしています。
中央銀行は発行する通貨の信用を守るために、株や長期国債など、価格が大きく上下する金融商品を保有しないというのが伝統的金融論の教えです。そこから大きく逸脱している日銀を信じ、円を信じる人は、円で資産をもてばいいと思います。それは自己責任です。
他方、日銀を信用できないと思う人は、ハイパーインフレに備えて他の通貨に資産を移すことをおすすめします。
これまで私は、円の暴落に備えて、ドル資産をもつことを一貫して推奨してきました。それに対して、「トランプ政権になり、アメリカにも不安要素が多く、ドルも危ないのではないか」と心配する声があります。
確かに、アメリカとドルを取り巻く状況も良くはありません。直近の1年間、ドルがユーロに対して下がっているのは事実です。それでも私はドル資産をもつことが、最大の資産防衛になると考えています。
大事なことは、現在は資産を積極的に増やそうと攻める時期ではなく、守る時期だということ。守るときに考えるのが保険ですが、保険選びは保険会社選びが重要で、大きな危機に備えたいのであれば、最強の保険会社を選ぶことが重要になります。
では、世界で「最強の保険」となる国はどこでしょうか。
経済力を考えても、軍事力を考えても、アメリカではないでしょうか。
アメリカは資本主義の宗主国であり、これから経済成長に欠かせないエネルギーとITテクノロジーという二大重要資産を確保しています。また、世界の基準通貨であるドルを自分で刷れる国なのです。
「アメリカは世界中にドルをばらまいており、ドルの価値が下がるのではないか」
こうした声も聞こえてきます。それはその通りで、アメリカもお金をばらまき過ぎですからドルの価値は下がっています。ただ、為替は相対的に決まりますから、「弱くなるドル」と「めちゃくちゃ弱くなる円」であれば、ドル高円安に進みます。
たしかに、イラン・米国紛争が勃発する前は「ドルの価値が下がっている」という声もありましたが、紛争勃発後は、「有事のドル買い」が起きています。
4月15日の日経新聞に載ったフィナンシャルタイムズの提携記事にはコラムニスト、ジリアン・テット氏が『トランプ氏の気まぐれな行動が世界中で反米感情と不信感を強めたにもかかわらず外国人がまだ米国資産をむさぼるように買い続けている』と書いています。「むさぼるように」です。
また、ドルは世界の基軸通貨です。世界中、どこに行ってもドルはつかえます。
円は、本来、日本経済の成長に合わせてしか通貨量を増やせませんが、ドルはアメリカ経済の成長ではなく、世界全体の経済成長に合わせてその通貨量を増やすことができます。世界の基軸通貨だからです。
日本は経済成長以上に円を発行しているから円の価値が毀損し、円安が進んでいるわけです。ドルも大量に発行されていますが、世界経済が成長すれば、その分ドルが必要とされます。もしドルの供給が少なければ、ドル不足となり、ドルの価値が上がり、世界経済がデフレ傾向になってしまいます。日本経済にとって円高がデフレ要因であったように、世界経済にとってドル高はデフレ要因です。
ですから、日本とアメリカが同じようにお金をばらまき過ぎているとしても、日本限定の円と、アメリカ限定ではなく世界の基軸通貨であるドルとでは、需要の規模が桁違いです。
ドルが基軸通貨であることは、アメリカにとって最大の国益です。ドルを刷りさえすれば世界中の富が買えます。世界経済の拡大にあわせてドルを刷れるし、刷っても価値が希薄化しないのなら、こんなにすごい国益はありません。もちろん、世界経済の拡大以上にドルを刷ればドルでさえ価値が希薄化しますが、よほど刷らないとそんなことにはなりません。
ですから、貿易のためには多少ドル安のほうがいいと言いながらも、アメリカ政府は最終的にはドルの価値を守るでしょう。強い通貨でなければ、世界中の人々がその通貨での決済をしなくなったり、富の保有通貨として見てくれなくなったりするからです。「アメリカファースト」を叫ぶトランプ大統領なら、なおさらのことです。
また、ドルに代わって基軸通貨になり得る通貨があるでしょうか。
世界第2位の経済大国は中国ですが、中国がアメリカよりも強い国だと考える人は少ないのではないかと思います。実際、不動産不況は深刻で、経済成長に陰りが見えます。基軸通貨になれない致命的な理由として、中国には資本統制があり、通貨人民元を国外に自由に持ち出すこともできません。したがって、基軸通貨になる資格すらありません。
世界第3位の経済大国ドイツを含むEUがアメリカよりも強いかと言えば、そんなことはないでしょう。EUは27の加盟国の連合であり、財政は国によって違います。
財政状況は南北で地域格差があり、ギリシャが財政危機に陥ったとき、それをどこが助けるのか大問題になったことを覚えている人も多いのではないでしょうか。
財政が国によって違うのに通貨が同じという状況が変わらない限り、同じ問題がいつ起きてもおかしくありません。
通貨というのは、その国の経済の自動安定化装置の働きがあるのですが、それが働かないEUとユーロがアメリカよりも強いとは、少なくとも私には思えません。
分散投資の投資先の1つとしてユーロ、あるいは英ポンドやスイスフランなどをもつことは、悪くはありません。円でもっているよりは、はるかに安全です。ただ、あえてこうした通貨をもたなくても、ドルで十分なのではないかというのが私の考えです。
更新:05月19日 00:05