
円安と物価高が加速する2026年。日銀が「金利のある世界」へと舵を切った今、日本の金融システムはかつてない激震に見舞われています。「日本がハイパーインフレに陥るのではないか」――。これまで極論とされてきたシナリオが、日銀の深刻な財務悪化によって現実味を帯び始めました。長年に渡り、警鐘を鳴らし続けてきた藤巻健史氏に、実際に想定される日銀の信用失墜シナリオについて解説して頂きます。
※本稿は、藤巻健史著『物価高・円安はもう止められない!政府と日銀がひた隠す日本経済の不都合な真実』(PHPビジネス新書)の内容を一部抜粋・再編集したものです。
私は、日本経済がハイパーインフレに陥る「Xデー」が、近い将来やって来るであろうと予想しています。何度も述べていますが、ハイパーインフレは中央銀行の信用失墜で起こります。つまり、日銀の信用が失墜する日はそう遠くないと考えているわけです。
日銀が信用失墜するまでの主なシナリオとして、次の3つが考えられます。
1.長期金利上昇→長期国債価格が下落→日銀の含み損が拡大
2.政策金利引き上げ→補完当座預金制度の支払利息が増大→損失の継続的計上
3.株価下落→保有株ETFの運用益喪失→株ETF売却損の継続的計上
1つめの長期金利の上昇はすでに始まっています。26年2月現在、国債10年の利回りは2%台前半ですが、これが5%になっても何らおかしくありません。
アメリカは4%を超えていますし、イギリスは4.5%を超えています。日本も、1980年代後半のバブル期には5%前後でしたし、80年代前半はさらに高く、8%を超えていました。
長期金利が上昇すれば、長期国債の価格が下がります。日銀が保有する国債の簿価は変わりませんが、時価は下がります。大量の長期国債を保有している日銀はもちろん、長期国債を保有している生命保険や地方銀行などの金融機関も、すでに少なくない評価損が出ていますが、これがさらに大きくなります。
日銀が長期国債の買い入れを減らし、含み損を抱えている金融機関も長期国債を買わなくなれば、いったい誰が長期国債を買ってくれるのでしょうか。買い手が減れば、国債価格は下落し、金利は上昇します。
2026年2月12日の日経新聞「国の借金ノンバンク頼み」という記事によると、最近は意外にもヘッジファンドや海外年金等が日本の長期国債の有力な保有者にのしあがってきたそうです。日本でノンバンクというと消費者金融や信販会社のことをいいますが、ここでいうノンバンクはヘッジファンドや年金等のことです。ヘッジファンドは日本の生保のような安定的な保有者ではありません。何かのきっかけでサーッと引いていきます。さらには、先物の売建で追い打ちをかけることさえしかねません。
そうした評価がさらに拡大していっても、日銀は「簿価会計だから問題はない」と言い張り続けると思いますが、海外の金融機関は中央銀行であっても破綻することを前提に、時価会計で財務内容をチェックします。
外資系金融機関が、日銀に復活の道はないと判断し、日銀当座預金口座を閉鎖するなどしたら、それは日銀の信用が失墜したことと同じで、円の価値が急落し、ハイパーインフレとなるでしょう。
2つめの政策金利の引き上げは、日銀が決定することですので、自身の財務状況だけを考えれば、上げることはかなり難しいと思います。
しかし、円安と物価高騰が続けば、そうも言ってはいられなくなります。26年中に0.75%から1.0%へと0.25%政策金利を引き上げることは、市場関係者の誰もが予想していることですが、それで物価高騰が収まるかと言えば、まず収まりません。
政策金利が1%になっても、インフレ率が3%だとしたら、1-3=▲2で、実質金利はマイナス2%と世界ダントツで低いままです。本気で物価高騰を抑え込もうとするなら、政策金利をインフレ率以上に上げて、実質金利をプラスに転じさせることが必須です。
日銀がそれをやらなければ、マイナス金利によって景気が過熱され、インフレ率が4%、5%とさらに上がっていきます。こうなるとインフレのコントロールは不可能になり、6%、7%と上がっていき、どこで止まるかは神のみぞ知ることとなります。
物価高騰に耐えられなくなった国民が、政府と日銀に圧力をかけるといったことが起きるかもしれません。もし日銀がインフレ率以上に政策金利を上げたら、補完当座預金への支払利息が急増するだけでなく、莫大な損失を継続的に計上し続けなくてはなりません。日銀の財務内容はみるみるうちに悪化していきます。
日銀が債務超過に陥り、その状況が何年も続くことが予想されるなら、外資系金融機関をはじめ、世界の誰もが日銀を信用しなくなり、円の価値が急落し、ハイパーインフレとなります。
3つめの株価下落がどういった要因で起きるかはわかりませんが、株価というのは思いもよらぬことが起きても下がるものです。
日経平均株価は最高値を更新し続けていますので、それほどの大災害や大事件が起きなくても株価が数十パーセント下がる可能性は十二分にあります。
現在の日銀は、金本位制ならぬ株本位制で、保有する株ETFの含み益で長期国債の含み損を補っており、株ETFの配当などで受取利息と支払利息のマイナス分を補っています。株価が下がれば、含み益も、配当も減ります。先ほどのシナリオ1や2で、日銀が信用失墜まではいかない途中であっても、円安、株安、債券安のトリプル安になれば、株価の下げ幅によって日銀が債務超過に陥るでしょう。
まあ、株価が下がる要因はさておき、株価が下がれば日銀の財務の化粧がはがれ、その危険な実態が財務諸表にさらけ出されます。それを世界各国の政府や金融機関が見過ごすはずはなく、日銀の信用は失墜し、円の価値が暴落し、ハイパーインフレとなることでしょう。
日銀の信用が失墜する3つのシナリオを紹介しましたが、仮に日銀の信用が失墜しなくても、ハイパーインフレにはならなくても、私たち日本人が地獄を見る可能性があります。それが、インフレ税によって政府が財政再建するシナリオです。
物価の番人である日銀が物価高騰を抑えることができず、高インフレが続けば、円の価値はどんどん下がっていきます。インフレ率7%なら11年で物価は約2倍になり、インフレ率10%なら7年で物価が2倍になります。
日本政府が、増税することも、歳出を減らすこともできない場合、借金を実質的に減らす唯一の方法がインフレ税になります。高インフレを長期間続けることで、円の価値を下げ、借金を実質的に減らすのです。政府が意図的でなくても、現状を見れば結果的にそうなってしまうのではと思わざるを得ません。
国民の富を政府の富に移管してしまえるのがインフレ税なのです。
この場合、ハイパーインフレと違って、すぐにXデーが来るわけではありませんが、真綿で首を絞められるようにXデーに近づいていくというのも、国民にとってはかなり恐ろしいシナリオではないでしょうか。
更新:05月23日 00:05