
国際競争力がトップクラスで、「ビジネス効率性」5年連続1位のデンマーク人、その秘密は立場や年齢に関係無く誰でも自分の考えを素直に発言できる"会議"にあるのではないか?デンマーク在住のデンマーク文化研究家・針貝有佳さんに会議の秘密と日本での実践法について解説して頂く。
※本稿は、針貝有佳著『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。
デンマークデザインセンターのゲストリサーチャーとしてコペンハーゲンに一年半滞在していた本多達也さんは、日本を代表するイノベーターのひとりである。富士通のソーシャル・イントラプレナー(社会課題を解決する社内起業家)として、音を身体で感じるオンテナ(Ontenna)を開発した人物だ。
「フォーブス社が選ぶ、世界を変える30人(30歳未満)」に選出されるなど、若手のイノベーターとして国内外で数々の賞を受賞してきた。現在は、落合陽一さんと「クロス・ダイバーシティ」というプロジェクトにも取り組んでいる。
本多さんに、イノベーションを起こす秘訣について尋ねてみると、面白い返事があった。
「じつは、僕には、アイデアがないんですよ。アイデアは当事者や企業から生まれるもので、僕は色んな人をつないで、彼らから出てきた沢山のアイデアをつなぎ合わせているだけなんです」
本多さんがいつも意識するのは、当事者と当事者ではない人のアイデアをつなぐことだ。当事者の意見を聞かなければ、本当に役に立つものを開発することはできない。だが、当事者の意見だけを聞いて開発しても、一般に普及するような広がりは生まれない。
当事者とそうでない人のアイデアをつなぐことによって初めて、みんなに喜ばれるものを生み出すことができる。新しいものを創造するために必要なのは、アイデアよりも「人と人とをつなげるコミュニケーション力」なのかもしれない。
自分にはアイデアがなくても、色んな人のアイデアを引き出してつなげることができれば、誰もが「イノベーター」になれる。
製薬会社ノボノルディスク日本法人社長のキャスパーも、色んな人のアイデアを引き出して組み合わせることで、革新的なイノベーションが生まれると言っていた。
「天才でなくても、発明はできます。革新的なアイデアというのは、異なる視点が交わるところに生まれるものなのです。それぞれのメンバーがアイデアを出して、出てきたアイデアを組み合わせるだけで、今までになかった革新的なアイデアが生まれるのです」
キャスパーは、大企業における自身のキャリアにおいても、色んなチームを集めてアイデアや体験、意見を交換し、画期的なアイデアを生み出すプロセスを楽しんできた。
イノベーションを起こすために、アイデアはなくてもいい。大切なのは、自分の意見を主張することではなく、色んな人のアイデアを引き出して組み合わせる力なのだ。
デンマークの会議では、全員が自分の知識・意見・アイデアを「テーブルに並べる」ように出していく。
立場などは関係ない。年齢も性別も役職も経験も一切関係ない。管理職であっても、インターンの学生であっても、同じように意見を伝え、みんながみんなの意見に「同じ比重で」耳を傾ける。
ベテランの○○さんの意見は貴重だから聞く、新人の○○さんの意見は参考にならないから聞かない、というような相違は一切つくらない。
なぜなら、最適解はいつでも、誰の発言であるかに関わらず「一番良いアイデア」であるからだ。
この会議法では、みんなが自分の意見を率直に伝えることが前提になっている。映画監督キャスパーは、会議で発言するときの様子を、このように説明する。
「テーブルに並べるように、意見を出し合って、なんでもオープンに話し合う。みんなから期待されてる発言をするのではなくて、自分の気持ちに正直に、自分の考えを率直に伝える」
この言葉を聞いてハッとしたが、周りから期待されることを言うわけではなく、自分の気持ちや考えに正直になって発言するというのがポイントなのだろう。
そうでなければ、伝える意味がないし、後々になって「じつはそうは思ってなかった」ということが出てきて厄介になる。
みんなが意見を言えることは、みんなのモチベーションを上げることにもつながる。ノボノルディスク日本法人で管理職を務めるイェスパーはこう指摘する。
「全員の意見を聞くのは、すごく大事なことだと思う。発言できなかったら、やる気も湧かないし、責任感を持って仕事に取り組めないと思う」
ただ、このようなデンマーク流のオープンなディスカッションを成り立たせるためには、参加者のマナーも必須である。
たとえば、問題・課題を解決するために、建設的な意見を提案する。立場にかかわらず、みんなの意見に平等に耳を傾け、それぞれの意見を尊重する。
反対意見を伝えるときにも、相手の存在や人格を否定しない。自分の意見はその場で伝え、会議が終わってから愚痴や不満を言いふらさない。
参加者全員がこういったマナーを守れると、最適解を導くための生産的な議論を気持ち良くできそうだ。
だが、「頭ではわかるけど、そんなの日本では難しいよ」という声があちこちから聞こえてきそうだ。
私もその気持ちはよくわかる。日本では上下関係を重んじるし、「空気を読む」カルチャーがある。出る杭くいは打たれるし、愚痴や悪口、噂話も日常茶飯事である。
そんな環境では「心理的安全性」が感じられなくて、とてもではないけれど率直な発言なんてできないよ、と感じるのは無理もない。
私自身も、日本ではどうしたら良いのだろうと思って、デンマークと日本の間でビジネスをしている人にアドバイスを求めてみた。すると、いくつかのアイデアを教えてくれた。
小グループで意見交換をする。意見を言いたそうな人を「○○さんはどう思いますか?」と指名する。1対1のときに個人的に意見を聞いてみる...。
なかでも、ノボノルディスク日本法人社長キャスパーの話が面白かった。
「先日、日本で開いた大きな会議で、質問や意見を匿名で伝えられる機会を設けてみたんです。そうしたら、普段は数名しか発言しないのに、ものすごい数のコメントが寄せられて本当に驚きました」
また、デンマークで駐在生活を送り、現在は風力発電業界で管理職を務める山田正人さんは日本人が話しやすい雰囲気づくりのために、いくつかのコツを教えてくれた。
「管理職が先に腹を割って話す」「意見のありそうな人にはどんどん指名して意見を引き出す」「オンラインミーティングの席ではスライドを映して、一緒にその場で修正しながら話す」といったことである。
そっくりそのままデンマーク流というわけにはいかなくても、みんなの意見やアイデアを引き出すために、色々と工夫の余地はありそうだ。
さらに、山田さんは日本人の上下関係について興味深い点を指摘していた。
「日本の上下関係というのは、上からの圧だけでなく、下からも壁をつくっているところがあると思うんです。『どうせ上に面と向かって言っても無駄だから...』と諦めるのではなく、ヘリコプター視点を持って、上司や会社の立場に立ってみたうえで、上層部に自分の意見を伝えてみると良いのでは。
もちろん、言い方は考える必要がありますし、みんなが理解してくれるわけではありませんが、話してみると、意外と話を聞いてくれる心ある方も上層部にはいるものです。
私自身はそんな人たちのおかげで、日本の大企業にいながら面白いキャリアを経験することができました」
若手であってもコミュニケーションを諦めず、相手や会社の立場を考えながら建設的に提案すれば、「上」からの反応も変わってくるかもしれない。
更新:06月29日 00:05