2021年08月24日 公開
写真撮影:桂伸也
2019年度は京都府のトヨタ系ディーラーでシェア3位だった京都トヨタ自動車は、会議を変革したことで、20年度の販売台数を前年度比125%とし、シェア1位を獲得した。いったい、どのように会議を変えたのか? 同社副社長の芳賀将英氏と、会議の変革をリードした田近秀敏氏に聞いた。
※本稿は、『THE21』2021年10月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
――田近さんは、様々な企業で「一枚岩会議®」というチームコーチングを実施して、組織変革を支援されてきました。京都トヨタ自動車が一枚岩会議を導入したのは2019年10月だったということですが、それ以前の会議は、どのようなものだったのでしょうか?
【芳賀】事前準備もせず、ただ集まって、「やらない言い訳」をするだけでした。当事者意識がなく、他人事だったんです。時限爆弾を皆で押しつけ合うように、「責任」という言葉を使うのを避けていました。そして、何も決まらず、「気合いで何とかしましょう」で終わっていました。
私は10年ほど前に他社から転職してきて、これではダメだと思い、あるべき理想像を社員に話していました。けれども、「あの人は現場を知らないから」とか、「宇宙人だ」とか言われていたようで、何も変わりませんでした。
18年に田近さんのエグゼクティブ・コーチングを受けた際に、その話をすると、チームコーチングを導入するべきだとアドバイスをいただき、お願いすることにしたんです。
とはいえ、社内は反対ばかりで、完全な「アゲインスト」でした。導入に踏み切れたきっかけは、プロパーの西村精一営業本部長の「このまま負け組に甘んじるのは嫌や」という言葉でした。
――社員全員が喜んでチームコーチングを受けると決めたわけではなかったのですね。
【田近】チームコーチングのセッションの1日目は明らかに心を閉ざしている雰囲気でした。
チームコーチングは、問いを投げかけ、それに答えてもらうことで、単なる「グループ」が成果を上げる「チーム」へと成長する支援をするものです。けれども、経営幹部12名に問いを投げかけても、なかなか答えが返ってきませんでした。他の会社でもよくあることですが。
【芳賀】私は黙って見ていようと思っていたのですが、つい、口を出してしまって、田近さんに注意されました(笑)。
【田近】発言できないのは、心理的安全性がないからです。「どんなことを言っても、いっさい責められることがない」と保証することが必要なんです。
これは、「時間厳守」などと共に、グランドルールの一つとして最初に決めておくのですが、それだけでは不十分です。チームコーチが実際にやってみせなければなりません。
そこで、世紀の大発明、付箋の出番です。付箋に意見を書いてもらい、それを、いっさい批判することなく、紹介していくのです。
どんな意見を書いても承認されるし、議論や結論に貢献できるということが実感できると、心理的安全性が高まり、発言が増えていきます。
そして、チームコーチングのセッションの1日目の終わりには、「自分たちは無責任だった」という現実を、経営幹部たちが認めることができました。これによって、2日目は空気が大きく変わりました。
どんな会社でも、2日目には参加者の意識が変わりますね。早ければ、1日目の午後に変わることもあります。
【芳賀】トヨタ系ディーラーは4系列あって、当時は、各系列の専売車種がなくなり、全車種併売になることが発表された時期でした。競争環境が変わるわけですが、それを他人事のように捉えて、「変わってみなければわからない」という意識だったのが、「環境変化に向けて戦略を立てよう」と、当事者意識を持つように変わったのです。
【田近】現実を認めると、意識が変わります。
そして、現実を認めるためには、人によって見ている現実が違うことに気づくことが大切です。人は、自分が見たいように現実を見るものです。
チームコーチングを始める前の事前説明会で、「皆さんが売っているクラウンのエンブレムを5分で描いてください」と言ったところ、正しく描けた方はいませんでした。毎日、目にしているのに、描けないんです。
自分がいかに現実を正しく見ていないかを実感していただくことで、他の人の意見を批判しなくなりますし、現実を受け入れることへの抵抗感が減ります。
【芳賀】さすが、プロのコーチはやり方がうまいですね(笑)。
更新:11月21日 00:05