会議が多い、時間が長い、しかも何も決まらない――こうした悩みや不満を口にするビジネスパーソンは多い。
時間ばかり費やす無駄な会議と、次のステップにつながる生産性の高い会議の違いはどこにあるのだろうか。『トヨタの会議は30分』の著者である山本大平氏に詳しくうかがった。(取材・構成:林 加愛)
コンサルタントとして数々の企業とかかわる中で、「会議の冗長さに辟易している」という声をよく聞きます。
そんな方々のヒントになればと、昨年『トヨタの会議は30分』という本を上梓しました。これは、かつて在籍したトヨタ自動車での経験を元にしたものです。
ただしこの「30分」は、明文化されたルールではありません。早々に結論が出れば10分で終わるもよし、出なければ適宜延長するもよし。だいたいの中央値が30分くらい、という「暗黙知」のもとに、皆が会議に携わっていました。
トヨタには、すべてにおいて「察する」ことを求めるカルチャーがあります。皆まで言わずとも、自分の頭で考えて理解・判断すべしという組織風土のもと、数々の暗黙知が形成されていました。
「口2耳8」という、変わった名前の暗黙知も。会議で言うなら「話すのを2割、聞くのを8割」がベストな配分だという意味ですが、会議の外側まで解釈を広げると、これもやはり「皆まで言わない」文化の反映と言えます。指示や指摘は2割、その奥にある意味を自分の頭で考えて動くべし、というわけです。
これからお話しする会議のノウハウも、会議の主催者・出席者が「自分で考える力」を持っていることが大前提。それがあって初めて、時短化が叶います。
さて、最初にお伝えする究極の時短は、「不要な会議をしないこと」。要不要の基準は簡単です。いわゆる「報連相」のうち「報告・連絡」のための会議は必要ありません。定例会や進捗確認は、メールや、Slackなどのチャットツールを使えば事足ります。
残る1つの「相談」には会議が必要です。そこには「問題解決の会議」と、「クリエイティブな会議」の2種類がありますが、いずれの場合も、「多忙な人が時間を割いてわざわざ集まる必要がある話題」でない限り、開催は不要です。
会議には時間だけでなく、コストもかかります。時給で換算すると、大企業の場合は1時間につきおよそ6000円かかると言われます。10人で2時間の「ムダ会議」を行なえば、実に12万円のロスです。常日頃、いかにもったいない会議が行なわれているか、実感できるのではないでしょうか。
ムダ会議と意味ある会議の分かれ目は、ファシリテーターの能力にあります。この能力は、「プロデュース力」と「要約力」の2つに分かれます。
まず、1つめのプロデュース力について。ここでは、(1)会議のテーマ設定(2)出席者の選定が肝心です。
テレビのバラエティ番組をイメージしてみましょう。芸人さんが1つのテーマであれこれと語り合う、という内容なら、プロデューサーは「お題」を設定し、これを話し合うには誰が適任か、キャスティングを考えます。その際は、テーマについて有用な情報を持っている人を選び、かつメンバーが「キャラかぶり」を起こさないよう注意するでしょう。
会議の出席者を決める要領も同じです。似た役割の人を2人以上呼ぶのはナンセンス。同じ部署から、上司と部下を両方呼ぶ必要などありません。
「適正人数」も重要なポイントです。先ほど「口2耳8」と言いましたが、一人ひとりが2ずつ話すとすると、必然的に5人でフルになります。ファシリテーターも話者ですから、招集をかけるべき出席者は4人ということになります。これ以上増やすと――6、7人ならまだ許容範囲ですが、10人になれば一度も発言しない人が出ます。その人の時間と時給がムダに費やされるので、避けるのが吉です。
招集をかけた後は、話の展開のシミュレーションをある程度行なっておきましょう。問題解決なら、解決策にはどのような選択肢があるか、各メンバーがどのような情報を持ち寄ってくるか、この展開になったらどう進めるか、落としどころはどうするか......と、パターンごとにストーリー化しておくのです。
事前準備は、会議に招集されたメンバー側にも必要です。「このテーマで呼ばれたということは、自分の役割はこうだ」と察して(わからなければ主催者に確認して)、自分の出せる情報、見解、その論拠、そこに伴う資料等を用意しておきましょう。招集する側・される側双方がここまで準備をするからこそ、「30分」が可能となるのです。
会議本番では、ファシリテーターのもう1つの能力=「要約力」が問われます。
司会をしながら、各発言の因果関係や相関関係を整理し、議論の内容をリアルタイムでホワイトボードに書き出していきます。ちなみに、書記や議事録担当を置く必要はありません。余計な人数を増やさず、司会者が兼務するほうが効率的です。
トヨタで使っていたホワイトボードには、板書をプリントアウトできる機能がついていたので、会議後は板書をそのまま議事録にしていました。
「出席者はメモをとらない」という暗黙知もありました。世間的には、ビジネスシーンでメモをとることは「常識」ですが、考えてみたらおかしな話です。普段の会話では、相手が話している最中にメモなどとらないはず。
相手の顔も見ずにノートと首っ引きでは、興味がないともとられかねません。会議でも、話し手の表情や声色、身振り手振りなどを見ながら、内容を頭に刻み込むほうがはるかに有意義なコミュニケーションが取れます。文字情報はホワイトボードに記されていますから、それを皆で見たほうがシンプルですし、見解のズレも防げます。
となると、ファシリテーターの責任は重大です。発言の要旨をまとめて正確な情報共有を図りつつ、議題を問題解決まで導き、それに基づいて次の会議までに誰が何を行なうかのスケジュールまで、ホワイトボード一面に過不足なくレイアウトしなくてはなりません。かなりのスキルとテクニックが要ることは確かです。
このテクニックは一朝一夕では身につきません。私の場合は、出席者としてファシリテーターの議事進行と板書を見ながら学び、やがてファシリテーションの機会が与えられ、失敗しては叱られて反省し、改善点を自分で考えて再度トライ、とPDCAを回しながら、何年もかけて覚えていきました。
なお、会議の「ゴール」については前述の通り、ファシリテーターが事前にある程度のストーリーを構築しておくことで、結論がスムーズに出ます。特に問題解決型の会議は、複数の解決策のうちで最も合理性の高いものを選べばいいので、議論を深めれば、おのずとゴールに到達できます。
他方、クリエイティブな会議の場合は主観同士の話し合いです。合理的な「正解」はないため、どこかで誰かが決裁しなくてはなりません。その役割は「最も偉い人」が担うことが多いでしょうが、個人的にお勧めなのは、これまで「多く結果を出してきた人」が決めるという方法です。その人の感性には、一定の成功法則があると考えられるからです。
逆によろしくないのは、複数の意見の「最大公約数」でまとめることです。クリエイティブな会議でこれを行なうと、何ら新奇性のない、つまらない結論になるので注意しましょう。
更新:11月24日 00:05