
国際競争力がトップクラスで、「ビジネス効率性」5年連続1位のデンマーク人、その秘密は高いコミュニケーション力にあると言われる。しかし日本ではビジネスの基本と教えられる、こまめな「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)すら求められないという。どうしたら職場のコミュニケーション力を高めることが出来るのか?デンマーク在住のデンマーク文化研究家・針貝有佳さんに解説して頂く。
※本稿は、針貝有佳著『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。
デンマークの職場では、若者が自分の好奇心やスキルを育てて成長しやすい。
ソーラーファサードを開発製造するソーラーラボでは、22歳のスタッフが海外の大プロジェクトを担当している。本人にやってみたいという気持ちがある限り、適切なサポートさえすれば、若いスタッフでも重役を担える、と考えるのだ。
社長のアナスに、若いスタッフに仕事を任せるのは怖くないのかと尋ねてみると、こんな回答が返ってきた。
「若いスタッフに大きな仕事を任せなければ、彼らの経験値が上がることはない。それでは永久に『上』を超えられないし、会社も成長しない。若いスタッフが大きな仕事を担って成長してくれれば、僕もラクになるから、それがいい。
でも、任せるといっても、うまくいかないことがあったら、若いスタッフの責任にする、というのは違う。うまくいかなかったら、みんなで問題解決にあたる。そうすれば、それはみんなの『学び』になる」
デンマークの職場には、年齢や経験にかかわらず、本人に意思があれば、大きな仕事も任せていくカルチャーがある。おかげで、若くてもどんどん経験を積んでスキルアップしていけるのだ。
そして、それは、何かあればいつでも相談できて、何かトラブルが起これば一緒に問題解決にあたってくれる上司や会社のサポート体制に支えられている。
映画監督キャスパーも、自分が映画監督として独立できたのは、若くして色んな仕事に挑戦させてもらえる機会があったからだと振り返る。
キャスパーは専門学校に1年だけ通った後、知り合いのツテで映画会社で新人スタッフとして働き始め、映画制作のプロセスを学んでいった。職場にはみんなが発言でき、その中で一番良いアイデアが採用されるカルチャーがあった。
「当時、僕は『一番下』で、若くて未経験だった。でも、職場ではみんなが僕の意見にも耳を傾けてくれた。自分の考えが映画に反映されるのは面白かったし、それも自信になって、自分でも映画を撮ってみようと思えたんだと思うよ」
こうして、キャスパーは映画会社で働きながら、自分の映画制作も同時並行で進めて独立し、その後、仲間と映画会社を共同設立した。
現在、キャスパーの映画会社では、インターン学生や新人スタッフも、上下関係など関係なくフラットに話しながら作業している。
管理職の任務は、メンバーの管理ではなく、メンバーが持っている能力やアイデアを最大限に引き出すことである。
ソフトウェア企業Be My Eyesの最高技術責任者イェスパーは、米国で急成長を遂げたデンマーク発のソフトウェア企業ゼンデスクで10年以上働いていた経歴も持つ。ゼンデスクのコペンハーゲンオフィス立ち上げを担当し、200人以上の開発者をまとめるチームリーダーも務めていた。
リーダーとしてプロジェクトを成功に導くための秘訣について尋ねてみると、こう答えてくれた。
「リーダーにとって一番大切な能力は『聞く力』じゃないかな。リーダーはとにかく自分の口を閉じて、相手の声に耳を澄ませた方がいい。みんなの意見を聞けば聞くほど、リーダーとして的確な判断ができるから」
メンバーには、色んなタイプの人がいる。外向的な人もいれば、内向的な人もいる。イェスパーは重要な決定をする前に、できるだけ全員の意見やアイデアを聞くようにする。だいたい8:2の割合で、話すより聞いている時間が長い。
みんなが発言しやすい形で会議を開くこともあれば、個人的に意見を聞きに行くこともある。会議では、誰が参加しているのか、誰がどんなふうに発言しているのかを、じっくり観察する。場合によっては、会議終了後に、「どう思った?」と一言声をかける。
「僕はリーダーとしてメンバー全員の意見に耳を傾ける。そうすれば、みんなも自然に僕の言うことを聞いてくれるようになるんだよ」
リーダーに必要な素質は、目標を掲げてメンバーを引っ張っていく強力なリーダーシップとは限らない。みんなの意見に耳を傾け、できる限りの情報、知識、意見、アイデアを引き出し、ベストな意思決定をする。それだけでいい。
イェスパーの話は「自分にはリーダーの素質なんてない」と感じている人に、新しい視点を与えてくれるように感じた。
あなたは他人の声に耳を傾けているだろうか。そうであれば、あなたも「良いリーダー」になれるはずだ。
製薬会社ノボノルディスク社の本社には「アイデアを引き出す会議」が存在する。それは、読者の皆さんが想像するであろう、長時間にわたる不毛な会議とは一線を画す。
現在、本社の職場カルチャーづくりを担当するオーレは、リーダーの役割は「チームに眠るすべてを引き出すこと」だと言う。
たとえば、リーダーとして意思決定に迷う際には、メンバーを招集して意見を聞く。「これに関してA案、B案、C案の選択肢があると思うんだけど、どう思う?」とオープンに相談して、メンバーの意見やアイデアを引き出すのだ。
また、チームで目標を達成したいときは、目標の達成方法についても、メンバーに一緒に考えてもらうようにする。リーダーとして「この方法で目標を達成しよう!」とチームを引っ張ることはしない。
その代わり、「僕らは今A地点にいる。目標B地点まで行きたい。ぜひみんなにもサポートしてほしい。どうやったらB地点に辿り着けると思う?」とメンバーに聞くのである。
このようにメンバーを巻き込むことで、メンバーの仕事へのコミットメントが変わってくる。オーレはこう説明する。
「具体的な指示を出すと、メンバーは指示には従ってくれますが、メンバーのモチベーションは上がらないんですよね。
でも、『ここに辿り着きたいんだけど、どうやったら辿り着けるかな』と相談すれば、メンバーはその目標を達成するために、力を発揮してくれます。自分で考えて前のめりで仕事に取り組むようになって『成長してる』『自分も組織で影響力を持てている』という感覚を持てるようになります」
こう聞くと、たしかに、指示を出すよりも、相談する方が、メンバーのモチベーションは上がりそうだ。少なくとも、参加者が「自分には関係ない」と言わんばかりに会議を放棄することはなくなる。
オーレは続ける。「何か提案を受けたときに『それはやめた方がいい』と却下してしまうと、せっかくのアイデアがそこで消えてしまいます。
だから、誰からでも、何か提案を受けたときは、とりあえず『なに? 話してみて』と話を聞いてみた方が良いのです。
違うと思っても、自分のフィルターを外して、まず5分はその提案について可能性を考えてみるんです。今すぐに使えなくても、今後の何かに活きてくることもありますから」
チームに眠る可能性を最大限に引き出すために、相手を否定しない「ポジティブ・コミュニケーション」をオーレは実践している。職場カルチャーづくりの担当者として、ノボノルディスク社のリーダー育成に尽力している。
更新:06月29日 00:05