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「疲れがとれる」膨大なタスクに追われるアメリカのエリートが、毎朝欠かさない習慣

2025年02月06日 公開
2025年02月06日 更新

河原千賀(アメリカ在住ジャーナリスト)

アメリカのエリートは休日をどう過ごしているか

膨大なタスクに追われ、毎日クタクタになって帰宅する......そんなビジネスパーソンは多いだろう。変わらない日々を過ごしがちだが、グーグル社員をはじめとするアメリカのビジネスエリートは、「ある工夫」をしながら効果的に休む術を知っている。それはいったい何か。本稿では、ロサンゼルス在住の河原千賀佳氏が、エリートビジネスパーソンから聞いた「平日のパフォーマンスを高める休み方」を紹介する。

※本稿は『グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか』(PHPビジネス新書)より抜粋・編集を加えたものです。

 

脳を休めるために森へ行く

私たちは日々、ストレスを抱えながら生きている。

膨大なタスクに追われながら、職場の人間関係や社内政治に巻き込まれ、一日を終える。疲れを引きずったまま翌朝を迎える。

アメリカにおいて、仕事も人生もうまくいっているビジネスエリートはどのような「休み方」を取り入れているのだろうか。

立場や境遇が違えども、共通しているのは、自分の時間を大切にしていること。

そして、そのために自然の中に身を置く時間を意識的に作っていることだ。

これから紹介するアンドリューは、過酷な労働環境下にいながら、思い切って自然に飛び込んだビジネスパーソン。溢れる情報や人間関係から距離をおいて、スローダウン、シンプルさの中で自己と向き合っている。

いったい何が彼を突き動かしたのか――。

アンドリューは、カリフォルニア州のある企業で医療システムを開発・管理している。パンデミックを機に、「リモートワークになったから、自分の住みたい場所で暮らそう」と思い立ち、ベイエリアから山へ居住地を移した。車で5時間離れたオフィスには、月に2、3日だけ行けばいい。

フルタイムで働くかたわら、サイドビジネスで自然環境に配慮した新エンジンの開発にも携わる。「商品化が現実になれば、地球の環境保全に貢献できるんだ」と目を輝かせて語ってくれた。さらに、MBAを持つ彼は、ビジネスコンサルタントとしても活躍している。

とにかく働きまくる毎日だが、不思議とストレスはないそうだ。なぜなら、近くに自然があるから。集中力を要するハード作業の後は、脳を休めるために森へ行く。

また、複数の仕事を同時にこなすため、朝の時間を有効に使う。

夜が明けてまだ外が静かなうちに、大切な仕事や、創造性を必要とする仕事を片づける。簡単な朝食を済ませたら、犬と近くの森を散歩する。

「月に最低20時間は自然の中で過ごす」という彼は、ハイキングをしたり、写真を撮ったりするのが趣味だ。もう少し余裕が生まれたら、オフロードのバイクも始めたいと語る。

セルフリアリゼーション・フェローシップというスピリチュアルコミュニティにも所属している彼にとって、自然の中で過ごす時間は、自分がこの世界でどんな貢献ができるのかを内省する時間でもある。

一日1回の瞑想も欠かせない。

瞑想は集中力やエネルギーを高め、忙しい一日に平和をもたらしてくれる。質の高い睡眠を得るのにも役立っているそうだ。

離婚を経験し、愛犬と暮らす彼はいま、ひとりの時間を気兼ねなく持てている。

毎朝欠かさず日記をつけたり、読書、ドキュメンタリー鑑賞、モーターサイクルに乗ったりする時間の中で、仕事の疲れから回復し、さらにエネルギーやインスピレーションを得ている。

 

山奥にひとりで住んでいても寂しくない

都会から山奥に移り住み、人と交わる機会も激減した。それでいいのか、という指摘はもっともだ。

だが、ひとりで暮らしていても、まったく孤独な気持ちにはならない。テクノロジーのおかげで、仕事仲間とはオンラインでつながれる。また、地元のコミュニティでボランティア活動を通して、地域の人たちとの交流も増えた。

なにより、「自分の使命」を果たすために活動していれば、寂しさを感じる余裕はないという。

アンドリューは「世界をより良い場所として、後の世代に残す」というライフミッションに従い、いくつもの仕事を掛け持ちしているので、充実感はあっても、疲れは感じない。そんな彼を見て、「孤独な人」と揶揄する者がどこにいるだろうか。

先述したエンジンの製品化を果たしたら、余生は家族や親しい友人たちとリラックスして、ゆっくり過ごしたいと思っている。

「あと5年はかかるかな」とはにかむアンドリューの表情からは充実感が漂っていた。

 

焚火やラフティングの経験が「動じない心」をつくる

アンドリューのように安定した都会の暮らしを捨てて、地方に移住するビジネスパーソンは決して少なくない。

毎日、同じことを繰り返すのは精神的にはラクだろう。

だが、あえてコンフォート(快適)ゾーンを広げてみよう。焚火でアウトドア・クッキングしたり、ラフティングやクロスカントリーに挑戦するのもいいだろう。

そうすると、どんなに予想外のことが起きても、労働環境が変化しても、戸惑わずに対応できる自信がつく。

続いて紹介する2人はそれを見事に実践した。

30代のブライアンは、2つ以上のフルタイムの仕事をかけ持ちする「オーバーエンプロイメント」だ。リモートワークを活用して3つのフルタイムの仕事をこなすが、雇用主はそのことを知らない。

「先行きが見えない社会で、いつ解雇されるかわからないから」

稼げるだけ稼いで、不動産投資、そしてソーシャルメディアからのパッシブインカム(不労所得)で暮らしていく。それが将来の構想である。

生活習慣ははっきり言って、めちゃくちゃだ。私生活の充実もないし、健康にも良くないし、大切な人との関係も育めていない。

この状態をいつまでも続ける気はないし、できるとも思っていない。「3年続けばいい」そうで、その後は、家族と静かな場所で暮らすつもりだと語っていた。そのために、いまは身を粉にして働き続けているのだ。

アメリカン・ドリームは、ビジネスエリートだけのものではない。問題も多いが、それでも、野心を持って頑張る人には誰にでもチャンスが開かれているのが、アメリカという国の特徴なのだ。

 

ルーティン(毎日の繰り返し)から離れる勇気を持つ

もうひとり、私の知り合いのジョージは、長年、レストランチェーン店に勤めケーキを作っていた。

エルサルバドル出身の彼は「いつかは自分のお店を持ちたい」という夢を抱き続け、仕事で得た資金を元手にして、現在は、私が暮らす山の上で小さなパン屋を経営している。

夢を実現した彼にとって、毎朝4時前に起きてパンを作ることは、まったく苦にならない。楽しくて仕方ないのだ。

お客様の要望に応えて少しずつメニューを増やすこともあれば、雪が積もると、山道を運転できない住民の自宅まで商品を配送する。レストランが片手で数えるほどしかない小さな山の中では、彼のパン屋は住民にとってなくてはならない存在だ。

みんなが彼の焼くパンを楽しみにしている。そして、みんなに喜んでもらっているジョージも、イキガイを感じている。

もちろん、頑張れば頑張るほど、金銭的な報酬は付いて回る。ようやく最近は生活が安定してきたという。

チャンスが巡ってきたときに、ジョージが躊躇せず行動に移せたのは、その日のためにしっかり貯金をしていたことも大きい。将来夢を叶えるために、割り切って、資金作りに励む時期も長い人生において必要なのだ。

毎日のルーティーンから離れる勇気をもつことで、いままで気づかなかった自分の役割が見えてくる。

ひとりの時間と向き合うことで自分の使命に気づき、「イキガイ」を見出せる。

アメリカのビジネスエリートが都会から離れた場所にあえて身を置くのはそんな理由があった。

 

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