人生の中盤40代になって、人生や仕事の意義がわからなくなったり、無気力感を感じる人は少なくありません。会社でもある程度の役職に就き、脂の乗った年代のはずなのに、どこか満たされないモヤモヤ感を感じるのはなぜなのでしょうか?
経営コンサルティングやキャリア支援事業を行なう4designs株式会社 代表取締役CEOの有山徹氏が解説します。
※本稿は、有山徹著『なぜ働く?誰と働く?いつまで働く? 限られた人生で後悔ない仕事をするための20の心得』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「不惑」といわれる40歳を過ぎて、なんのために働いているのか、これからどう生きていけばいいのか迷ってしまう人はたくさんいます。若い人からすると「なんで?」と思うかもしれませんが、実は不思議なことでもなんでもありません。
心理学者カール・G・ユングは、40代を「人生の正午」といっています。人生を1日の流れにたとえて、40代はちょうど「お昼どき」だというのです(寿命が延びた現代では50代がお昼どきともいえます)。
なんだか明るくて、最高の時間帯なイメージがあります。しかし、ユングの指摘はそんな呑気なものではありません。
これからどんどん陽が落ちていく!つまり、40代こそが人生の折り返しであり、後半生をどのように生きていこうか考えるタイミングだともいえるわけですね。
同じ心理学者のエドガー・H・シャインは、40歳前後は「無気力感にとらわれる時期」であると指摘しています。仕事を始めたばかりの20代や、責任感や成長を感じられる30代を終え、キャリアの行く先が見え始めるのが40代です。
企業に勤めていれば出世競争の大勢も決まりつつあり、おぼろげながらも自分の会社員人生の終着点を意識させられる頃合いです。
ちょっと意地悪な言い方をすると、出世や昇級の限界とか天井が嫌でもわかってしまう、ということです。
このまま会社の敷いたレールを受け入れるのか。自分でハンドルを切って違うルートに踏み出すのか。そもそも40代にもなって違う選択肢があるのか。さあ、どうする?そんな悩みが出てくるのは自然なことでしょう。
40代頃の葛藤や不安は「ミドルエイジクライシス」とも呼ばれるそうですが、パーソル総合研究所が毎年行っている「働く1万人の就業・成長定点調査」でも、この傾向が見てとれます。次の2つの図を見てください。
図1によると、他の年代と比べて40代は、仕事において「成長が重要だ」と考える意識が低い傾向が見られます。
子育てや介護など、ライフに関わる状況の変化で自分より優先すべきことが多かったり、ある程度、スキルも知識も習得済みで、なんとなく自分の能力の上限もわかったりしているからでしょうか。そのうえで、自分の成長よりもこれからの仕事の意義や目的を重視しているように思えます。
さらに、図2からわかるように、会社への愛着や満足度も、40代で落ち込む傾向があります。50代以降にまた上がっているところを見ると、「このままでいいのか?」という40代特有の迷いが感じられます。
「キャリア・プラトー」という言葉があります。「プラトー(Plateau)」とは、「高原」または「台地」という意味で、組織内で昇進や昇格の可能性に行き詰まり、あるいは行き詰まったと本人が感じて、モチベーションが低下したり成長する機会に消極的になったりすることをいいます。言い換えれば、「伸び代をなくした停滞期」「キャリアの踊り場」となるかもしれません。
この踊り場でどう考えるかが、その後の人生を豊かにしていけるかどうかの分岐点です。
やる気を失って伸び代をなくし、生き方にモヤモヤしている...。これは自分の解像度が落ちている証拠ですが、逆に言えば、自分を再発見するチャンスでもあるのです。頭で考えるよりも、自分の欲求を客観的に言語化してみましょう。
たとえば、有名な「マズローの欲求5段階説」を使うと、いいとっかかりになります。
・第1段階「生理的欲求」 食欲や睡眠欲、排泄欲など、人間が生きていくために必要不可欠な欲求
・第2段階「安全欲求」 心身の健康や安全、経済的な安定などが確保された生活を送りたいという欲求
・第3段階「社会的欲求」 家族や友人に受け入れられたい、集団に所属したいといった帰属を求める欲求
・第4段階「承認欲求」 出世欲や他者から認められたいという自分の内面を満たしたいと考える欲求
・第5段階「自己実現欲求」 自分の基準で満足できる自分になりたいと願う欲求
この説のポイントは、欲求が「段階」となっていることです。
図のように、下の層であるほど人間にとって基本的な欲求であり、上に行くほど高度な欲求となっています。下層の欲求が満たされることで、より上位の欲求が発生していくというものです。
「食べたい!寝たい!」という人間の本能的な欲求が満たされない段階では、「自分の理想とする自分になりたい!」という高度な欲求は生まれてきません。お腹いっぱい食べて、しっかり睡眠が取れてこそ、家族と仲良く暮らしたいとか、仕事で認められたいと思えるわけですね。
では、自分の人生がこのままでいいのか迷っているあなたは、どの段階にいるのでしょうか?毎日健康に過ごして、会社員としてちゃんと仕事をして、家族や友人にも恵まれているというなら、少なくとも第3段階まではクリアしているといえるでしょう。
あなたの抱えているモヤモヤは、第4段階なのか第5段階なのか...。ここがポイントです。
第4段階「承認欲求」と第5段階「自己実現欲求」を分けるのは、外からの評価なのか内からの評価なのかという点です。
第4段階は、他者からの評価であり、不足しているものを補おうとするものです。「今の職場ではこれ以上自分が評価されない」と感じているのであれば、第4段階「承認欲求」を求めています。
第5段階は、内なる自分からの評価であり、自分をより高めようとするものです。「今の環境ではこれ以上自分が成長できない」と感じているのであれば、第5段階「自己実現欲求」を求めているわけです。
第1段階から第4段階までは足りないものを充足させることが動機(欠乏動機)になっていますが、第5段階は自分を成長させたいという気持ちが動機(成長動機)になっている点が、大きく違います。
ひょっとすると、あなたは不足しているものがなくなってしまっているから、悩んでいるのかもしれません。第4段階までの欲求がすべて満たされているので、次に求めるものが見つかっていない状態なのかもしれませんね。
伸び代がないと感じるのは、欠乏動機から成長動機への切り替わりのステップ(踊り場)にいるのではないでしょうか。
こうした欲求を一度、言葉にしてみてください。
「自分はまだまだ誰かに必要とされたい!」
「自分の価値を認めてくれる人と働きたい!」
「新しい仕事を覚えたい!」
抽象的で構いません。むしろ抽象的なほうが根本的な欲求に近いといえますし、なんのために働くのか、方向性がわかってくるはずです。
更新:02月22日 00:05