「爆風スランプ」のボーカルとして80~90年代の音楽シーンを牽引し、現在も歌手として活躍中のサンプラザ中野くん。投資経験が豊富なことでも知られる中野くんは、新NISAがトレンドの今、どのように投資と向き合い、どんな人生後半戦を思い描いているのだろう。『THE21』2024年9月号では、中野くんの「投資観」「人生観」を取材した。
※本稿は、『THE21』2024年9月号特集「老後のお金『これで安心!』講座」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
――「Runner」を代表曲に持ち、長年歌手として活躍されている中野くん。投資経験も豊富で、特に株式投資は20年以上続けておられるそうですね。今も、投資には積極的に取り組まれているのでしょうか。
【中野】確かに、以前は自分が許容できるギリギリまで投資にお金を回し、熱心に取り組んでいました。過去20年、株価を確認しなかった日はなかったと断言できるほどです。
ですが実は、今年からはあえてその「熱心さ」を消して投資をしています。今まではことあるごとに株価を確認しては一喜一憂し、頻繁に売買していましたが、今年は「自分が応援したい会社」の株を買い、ひたすら放置する手法に移行しました。
――かなり大きな転換ですね。何か、投資への考え方が変わるきっかけがあったのですか?
【中野】投資への考え方というよりも、人生観そのものがここ数年で激変したんです。
大きなきっかけは、数年前に渋谷のど真ん中から、地方の山の中に引っ越したことでした。今の家の周りには本当に人がいなくて、流れている空気がとても柔らかいんです。今思うと、平日の渋谷は空気が張りつめすぎですね。土日は多少マシですが、それにしたってまるで基準が違います。
以前は渋谷の雑踏に呑まれていた自分が、すっかり「生き物の一部」になれている感覚です。 そういう場所に長くいると、不思議と僕自身の考え方も、少しずつ緩んでいくんですよ。
――緩むというのは、具体的にはどのように変化したのでしょう。
【中野】自覚はなかったんですが、僕はとにかく負けず嫌いで、上昇志向が強いんです。何かに満足することはまずないし、いつも「もっと良い曲が作れる」とか「もっと売れてやる」と思っていました。
――さすが、とてもストイックですね。自覚がなかったとおっしゃいましたが、そのことに気づかれたのはいつ頃ですか?
【中野】それもここに引っ越してきてからで、しかもかなり最近のことなんですが......去年、任天堂の「スプラトゥーン3」というゲームにハマったんです。絵柄が可愛くて、ゆるい陣取りゲームかと思って始めたのですが、いざやってみたら壮絶なオンラインアクションバトル。そういうゲームの経験があまりなかったこともあって最初はまるで勝てず、50連敗くらいしましたよ。もう、悔しくて手が震えちゃって。
それからしばらくは、頭がスプラトゥーンでいっぱいの状態が続きました。プレイヤーランクを上げては連敗して、そのうちにまた少しずつ上達して。かれこれ1年くらいハマり続けて、ようやく先日「卒業」することができました(笑)。そのくらい、何事にもなかなか妥協できない性格なんです。そういう自分を少しずつ客観視することができたのも、ここに住むようになったおかげだと思います。
――人気のゲームですし、確かにいくら上達してもキリがなさそうです(笑)。先ほどの「もっと売れてやる」も然りですが、本当に信念の塊のようなお人柄ですね。
【中野】こうと決めたら動かない性格で、取材のときにも「座右の銘は?」と聞かれたら「"人にはバカにされておけ"です」と答えていたんですよ。他人にどう言われても、自分の信じた道で成功をつかむんだ、という思いの表れでした。
でもそれが、ここでしばらく暮らすうちに、「心から何かを望んで、固い意志で突き進もうとする人ほど、望む場所にたどり着けないものなのかも」と思うようになったんです。バカにされ続けるのだって苦しいことだし、そもそも意志って、固ければ固いほど、つらくもあるじゃないですか。心がどんどんすり減ってしまうというか......。
有名な北風と太陽の話じゃないですけど、北風に追い立てられるみたいに「まだまだ、もっとやらないと」という中で進むのではなく、太陽に照らされるように、穏やかな心で明るく進むほうが、気持ちも楽だし、結果的に近道になる、と今は思っています。ある意味、何かを手放したような感覚もありますね。
――確かに、おっしゃる通りだと思います。「以前の座右の銘」についてのお話が出ましたが、では今の座右の銘は何でしょうか?
【中野】僕の中では「どうせうまくいくんだから」という言葉が一番しっくりきています。僕が自分で考えたものではなくて、つい数カ月前にTikTokで見つけた言葉ですが、色々波乱はありつつも生き抜いてこられた僕の人生にピッタリだな、と。とはいえ、ただの楽観主義者になったわけじゃないですよ。
今も一日の9割くらいは「北風」というか、悲観的な考え方をしますからね。ただ、最後の最後、煮詰まったときに「まあでも、どうせうまくいくか」と思うようにしただけです。でも僕としては、これだけでもかなり効果がある気がしています。
――以前の「人にはバカにされておけ」のスタイルからすれば、それでも相当な変化ですよね。投資への向き合い方が激変したのも納得です。
【中野】株も、一生懸命やろうとするほど難しいんです。特に僕は、金融系の先生方に「初心者のうちは投資信託で」と言われて、「いや、自分は個別株で稼ぐので!」なんて返したこともあるくらい、大きい成果ばかりを追いかけていたので。
でも、やっぱり精神的な余裕を保っておかないと、なかなかいいことは続きません。結局は、自分の心を穏やかに保つことのほうが大切だなと思います。これは投資に限らず、仕事についても同じですね。
――最近では「老後に○千万貯めないと」などといった情報も見かけますが、それもあまり気にしすぎないほうがいいのでしょうか。
【中野】そうですね、もしそれで心が追い詰められてしまうなら。もちろん、備えることも大事ですけど。
――世間では新NISAが話題ですが、そちらは?
【中野】実はそれも、まだ開設していないんです。今はただ、本当に株を持っているだけ。やり方をシフトして4~5カ月経ちますが、株価も見ていないので、どのくらい増えたのか、もしくは減ったのか、それもまったく知らないんです。
――増減も確認されないとは、本当に一貫されていますね。
【中野】それも、妥協できないだけですよ(笑)。あとは、長年休止していた爆風スランプの再始動が決まったのも大きなきっかけでした。久々のライブでファンをがっかりさせるわけにはいきませんから。ライブまでに河合(爆風スランプのギター・パッパラー河合さん)は体重を落とす、僕は投資に時間を使うのをやめる。こういうことです(笑)。
――爆風スランプ再始動の件ですが、26年ぶりとなる新曲のテーマは「IKIGAI」だとか。なぜこのテーマを選ばれたのですか?
【中野】元々、僕は健康にすごく興味があるんです。それでたまたま、Netflixの「100まで生きる:ブルーゾーンと健康長寿の秘訣」というドキュメンタリーを見ていたら、世界有数の長寿地域として「沖縄」が紹介されていまして。それによると沖縄の方々が長寿な理由の一つに、地域の強いつながりのもと、年を取っても豊かな「生きがい」を持てていることがあるんだそうです。
しかも、実はこの「生きがい」という意味の単語は日本語にしかないらしくて、「可愛い」とか「もったいない」とかと同様に、日本語そのままに「IKIGAI」として世界語化しつつあるそうなんです。
現に、この話を爆風のメンバーにしたら、ドラムの末吉(ファンキー末吉)からも「イギリスにも『IKIGAI』という名前のカフェがあった」と言われました。彼によると店主は香港の方で、その人も「沖縄の友人から聞いて、すごくいい言葉だと思って店名にした」のだと。
――驚きのお話です。中野さんご自身は、何を生きがいにしておられるのでしょうか?
【中野】僕の生きがいは、なんといっても「歌うこと」です。できる限り長く生きて、生きている限り歌い続けたいと思っています。健康マニアなのもそれが理由。これからも上達を続けて125歳まで生きて、その歳でステージに立って、そのステージを降りる階段から落ちて死ぬ。これが理想の死に方です(笑)。
――125歳! 目標がとても高いですね。
【中野】僕は本気ですよ。明治の話ですが、かの大隈重信と野口英世博士の間で「人間の寿命は125歳だね」という会話があったそうなんです。といっても、当時あった「人間は25歳になる日の朝まで成長する」という俗説と「あらゆる生物の寿命は成長年限の5倍まで」という俗説を組み合わせた軽い雑談だそうですが、早稲田大学の出身で重度の「大隈ミーハー」を自負する僕としては、この話は見逃せないですね。
それに、ただむやみに高い目標を掲げているわけではありません。例えば、Fさん(注:編集担当兼インタビュアー)は、何歳くらいまで生きるつもりでいますか?
――そうですね......まだ漠然とですが、80歳くらいでしょうか。
【中野】平均的にはそのくらいですよね。でも、80歳で死んでしまうなら、しっかり成長できるのは65歳とか、せいぜい70歳くらいまでだと思いませんか? それを過ぎると、何か壁にぶつかっても「どうせ近々引退して、何年後かには死ぬんだからもういいや。テレビでも観てよ」となってしまうと思うんです。
――確かにその通りですね。
【中野】でも、125歳まで生きると考えれば、80歳になってもまだ45年もあります。すると自然に「まいったな。それじゃ、少しずつでも成長し続けないといけないし、お金も要るし、友達も作らないといけないし......」となって、前向きに生きることができるんです。
だから「125歳まで生きる」というのは、ただ単に大げさな目標を立てているわけではなくて、この先も長く充実した人生を生きるための戦略なんですよ。僕も60歳を過ぎましたが、125歳まで生きようと思っていますから、まだ人生は半分も残っている。そう思うと、まだまだ立ち止まるわけにはいきません。
――確かに......! 目からウロコの考え方です。
【中野】昔、ジャズをしている友達から「ジャズの巨星には、90歳を過ぎてもなお、楽屋で『もっとうまくなりたいよな』と語り合う人たちがいる」と聞いて、それはさすがにスゴすぎる、と思ったことがありました。でも「125歳まで生きる」つもりになったことで、僕もそういう生き方のコツをつかめたんです。
現に、今なお僕は成長できている実感があります。これはあくまで我流ですが、毎朝「般若心経」を唱えることを習慣にしたら、コロナ禍を経て一度は弱った発声機能が、以前以上の水準まで高まったんですよ。
――とても説得力があります。最後に、主要読者であるミドルの方々へ、メッセージをいただけますか。
【中野】繰り返しになりますが、やはり「周りに煽られるまま、上昇志向を持って、ストイックに仕事に打ち込んで」という生活から、「生きがいを持って、心穏やかに人生を楽しむ」という生活にシフトすることの重要性をお伝えしたいですね。かく言う私もまだシフトしたばかりですが、それだけでも見える世界が格段に変わっていますから。
【ライブ情報】
爆風スランプ~IKIGAI~デビュー40 周年日中友好 LIVE
"あなたの IKIGAI ナンデスカ?"
2024年10月31日( 木)~11月17日(日)
愛知・兵庫・東京の3都市で開催!
更新:10月14日 00:05