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なぜ物忘れが酷くなる? 医師が語る「記憶力が低下する」真の原因

2023年11月05日 公開

加藤俊徳(脳内科医/医学博士/加藤プラチナクリニック院長)

 

「経験のないこと」が理解系を鍛えてくれる

脳が若返る習慣

中でも老け込みやすいのが、理解系脳番地です。年齢を重ねると、自分の経験の範囲内だけで物事を理解しようとする人が増えます。聴覚系や視覚系から新しい情報がもたらされても理解しようとせず、自ら理解の範囲を狭めてしまうのです。

もし皆さんが、よく考えもせずに「これはこうだ!」と決めつけたり、「社長が言うことなら正しいだろう」と鵜呑みにする傾向があるなら、理解系が老化している可能性大です。

「若い人とコミュニケーションして、新しい情報を教えてもらう」という行為は、理解系を働かせる習慣としても非常に有意義です。 過去の経験や世間の常識といったバイアスを取り払い、新鮮な情報をそのまま受け取ることで、凝り固まった理解系脳番地が解きほぐされます。

新しい情報に触れる方法は他にもあります。行ったことのない場所へ行く、食べたことのないものを食べる、聴いたことのない音楽を聴く。こうして絶えず新しい情報を脳に取り入れることで、理解系が刺激されます。

特に毎日が自宅と会社の往復で、日常生活がルーティン化している人は要注意。いつもとは違う通勤ルートを使う、電車の乗車位置を変える、初めての店でランチを食べるなど、ちょっとしたことでいいので「経験のないことをしよう」と意識することが大切です。

理解系を鍛えるには、デッドラインを決めるのも有効な方法です。「15分間で企画書のタイトルを考える」「外出前の5分間でカバンの中身を整理する」といったように、期限を決めてから物事に取り掛かる習慣をつけると、限られた時間内で「現状」と「これからすべきこと」を瞬時に理解する力が養われます。

 

「ほら、アレ」が増えたら思考系を働かせる習慣を

思考系が老化した場合も、様々なサインが現れます。決断が遅くなったり、新しいアイデアが出なくなったり、複数のことを同時にこなせなくなったりしたら、思考系の働きが弱っている可能性が高いでしょう。

また思考系は記憶系とつながりが深く、思考系がうまく働くと言語に関する知識をスムーズに出し入れできます。人の名前をすぐに思い出せなかったり、「ほら、アレだよアレ」としか言葉が出ない場面が増えたら、加齢が原因ではなく思考系が怠けている証拠です。

思考系を働かせるには、朝起きたら今日の目標を20字以内で表現する習慣をつけるといいでしょう。1日の予定をシミュレーションすることで思考系が活性化し、字数を制限することで端的な表現に適した言葉を引き出す訓練になります。

同僚や部下、家族など、身近な人の長所を3つ挙げるトレーニングも効果的です。その人物を多面的に捉えたり、人となりについて深く考えたりすることで、思考が動き出します。

一方、記憶系を働かせるには、感情系や伝達系と連動させるのがコツです。記憶系の中枢を担う海馬は、感情が大きく動く出来事があるとその情報を長期記憶として保管するため、記憶が定着しやすくなります。特にワクワクするようなポジティブな感情を浴びると、海馬からシータ波と呼ばれる脳波が出て、記憶系はより活発に働きます。

よって仕事や学習で覚えたいことがあれば、楽しく前向きな感情で取り組むことが大事。お気に入りのカフェで大好きなコーヒーを飲みながら資料を読んだり、「この資格試験に合格したら海外を旅行しよう」と自分へのご褒美を用意するなどして、ワクワク感を高めましょう。

またアウトプットするつもりでインプットすると、記憶系の働きはさらに強化されます。脳には、一度取り込んだ情報を思い起こそうとしたときにより強く記憶される「出力強化性」が備わっているためです。

例えば本を読むときも、「誰かに内容を伝えるとしたらどう説明するか」「要点を3つ挙げるとしたら何か」などを考えながらインプットし、実際に人に話したり、ノートにまとめたり、SNSで発信したりするといいでしょう。アウトプットの際に働く伝達系と連動させることが、記憶系を活性化させるカギです。

 

著者紹介

加藤俊徳(かとう・としのり)

脳内科医、医学博士、 加藤プラチナクリニック院長

Toshinori Kato (株)「脳の学校」代表。 昭和大学客員教授。MRI脳画像診断・脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや助詞強調音読法の提唱者。91年、脳活動計測「fNIRS法」を発見。95年から2001年まで米国ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI画像の研究に従事。発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、小児から高齢者まで1万人以上を診断・治療。『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書多数。

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