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なぜ物忘れが酷くなる? 医師が語る「記憶力が低下する」真の原因

2023年11月05日 公開

加藤俊徳(脳内科医/医学博士/加藤プラチナクリニック院長)

記憶力が低下する原因

加齢とともに発想の柔軟性や記憶力の衰えを感じている人が多いだろう。しかし、実は脳の最盛期は40代後半から50代。さらに60代以降も、使い方次第で成長を続けるのが本来の姿だ。一方で、「いつまでも古い考え方や価値観にしがみついていると、脳はどんどん老化していく」と、脳内科医の加藤俊徳氏は指摘する。「老化知らずの脳」を手に入れるコツをうかがった。(取材・構成:塚田有香)

※本稿は、『THE21』2023年12月号特別企画『50歳を過ぎても若々しい人、一気に老け込む人』より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

脳の働きのカギを握る8つの「脳番地」

脳番地

どのような「脳の使い方」が大人の脳を成長させるのか。それを理解するには、脳の仕組みを知ることが必要です。 脳には1000億個を超える神経細胞が存在し、同じような働きをする細胞同士が集団を形成しています。

そしてこの集団は、自分たちの得意分野ごとに脳内に拠点を作っています。私はこれを「脳番地」と名づけました。脳全体では120の脳番地が存在しますが、中でも重要なのが次の8つです。

①思考系脳番地…思考・意欲・想像力などを司り、何かを考えるときに働く
②伝達系脳番地…コミュニケーションを通じて意思疎通を行なう
③感情系脳番地…喜怒哀楽を感じ、表現する
④運動系脳番地…身体を動かすこと全般に関わる
⑤視覚系脳番地…目で見たことを脳に集積させる
⑥理解系脳番地…目や耳から入ってきた情報を理解する。あるいはわからないことを推測して理解しようとする
⑦聴覚系脳番地…耳で聞いたことを脳に集積させる
⑧記憶系脳番地…情報を蓄積させ、使いこなす。海馬の周囲に位置し、ものを覚えたり、思い出したりするときに働く

この8つの脳番地の連携を強化し、使いこなすことで、"脳力"をどんどん高めていけます。例えば「最近もの覚えが悪くなった」と感じた場合、「だったら記憶系脳番地を鍛えればいいのか」と思うかもしれません。

しかし、大人の記憶系脳番地は、単独ではなかなか働きません。思考系や理解系が何かを考えたり、決断しようとしたときに、過去の記憶を取り出して情報提供するのが記憶系の役目です。

だから思考系や理解系がしっかり働き、「考えるために過去の経験と比較検討したいから、必要な記憶を探してきて」と頼まないと、記憶系の出番は減ってどんどん怠け始めます。すると私たちは「記憶力が落ちた」という錯覚に陥るのです。

 

使う脳番地が偏ると頭が固くなってしまう

この例に代表されるように、8つの脳番地はお互いに影響を与え合っています。

思考系はいわば脳番地のリーダーで、各脳番地に指示を出して仕事をさせます。理解系は聴覚系や視覚系、記憶系から入ってくる情報を把握し、思考系と相談して情報を取捨選択し、必要なものを記憶系に渡します。

感情系は思考系と相関関係にあり、感情がたかぶれば思考は目まぐるしくなり、感情を抑えれば冷静な思考ができます。また記憶系とも密接な関係があり、喜怒哀楽の感情が動く出来事があると、海馬はそれを重要な情報だと判断し、長期記憶として保管します。

伝達系はインプット機能を持つ理解系や記憶系、聴覚系と密な連携ルートを形成し、集まった情報をアウトプットする役割を果たします。インプットする情報を集めるには、運動系を働かせて行動しなければいけませんし、行動を起こせば視覚系と聴覚系も働き出します。

そして運動系・視覚系・聴覚系が得た情報は、思考系・理解系・記憶系へ渡され、それをもとにまた考えたり、決断したり、記憶を保存したりするわけです。 こうして神経細胞同士が連携し、チームワークを発揮することで、脳力はどんどんアップします。

よって8つの脳番地がそれぞれの役割を十分に果たせる環境を作ることが、脳を成長させて若々しさを保つための重要なポイント。一部の脳番地だけをオーバーワークさせたり、逆に怠けさせたりすると、連携がうまくいかず本来の脳力を発揮できません。

ところが実際は、社会人経験が長くなるほど使う脳番地が固定されていきます。営業職は伝達系、研究職は理解系、秘書は記憶系といったように、職業ごとに仕事でよく使う脳番地が決まってくるからです。

40代や50代になると、経験を積んでスペシャリストとして評価される反面、自分の仕事と関係ない情報には興味を示さなくなったり、柔軟な発想ができなくなったりします。これは脳番地の働きが偏っている証拠。頭が固くなり、新しいものや自分とは異なる考え方を受け入れなくなったら、それこそが老化の始まりです。

よって50代以降も若々しくいたければ、仕事で使う機会が少ない脳番地を意識的に働かせることが重要です。

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「経験のないこと」が理解系を鍛えてくれる >

著者紹介

加藤俊徳(かとう・としのり)

脳内科医、医学博士、 加藤プラチナクリニック院長

Toshinori Kato (株)「脳の学校」代表。 昭和大学客員教授。MRI脳画像診断・脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや助詞強調音読法の提唱者。91年、脳活動計測「fNIRS法」を発見。95年から2001年まで米国ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI画像の研究に従事。発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、小児から高齢者まで1万人以上を診断・治療。『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など著書多数。

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