「自分の言葉が響かない」「伝えた通りに動いてくれない」......。世代も価値観も異なる部下とのコミュニケーションに悩むミドル世代は数知れない。一方、ドムドムハンバーガーの業績をV字回復させた藤﨑忍社長は、メンバーのやる気と力を引き出す達人だ。その秘訣を取材した。(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2023年11月号特集「話が深い人 vs. 話が浅い人」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
――「思いやり経営」を掲げ、ドムドムハンバーガー復活の立役者となった藤﨑社長。その経営理念は、社員の方々との日々のコミュニケーションにも影響しているでしょうか。
【藤﨑】そうですね。共に働く仲間にも「思いやりある言葉かけ」をしよう、と呼びかけています。それにはまず、相手をよく見ること。私も「おはよう」のひと言を言うときには、相手の顔を必ず見ます。
――社長自らお手本になっておられるんですね! 毎日ですか?
【藤﨑】はい、毎日見ることで変化に気づけますから。でも先日、忙しい朝にうっかり、ある社員と目を合わさず「おはよう」と言ってしまって......あとで彼女が髪を切っていたのに気づいて「さっきはごめんね! 髪型かわいいね」と謝りました。
――とても細やかですね。昨今は「髪型などには言及しないほうがいい」という風潮もありますが。
【藤﨑】皆さん「ハラスメントになるから」と、避けようとされますよね。でも私としては、互いの信頼さえあれば、相手の変化に気づき、伝えることは大事なコミュニケーションだと思うんです。
――そうした「思いやり」は、どのようにして培われたのでしょう。
【藤﨑】遡れば、幼少期の環境かもしれません。父が政治家で、実家にはいつも後援会の方々がいらっしゃって。そんな家庭だったからこそ、「皆さんに感謝が芽生え、快く応援していただけるように何をしよう」と考える習慣がついたんだと思います。
――その後結婚され、専業主婦を経て、39歳でSHIBUYA109のアパレル店に勤務されることに。
【藤﨑】はい。夫が病気をして、39歳で初めて就職しました。これも今につながる大事な経験です。20歳前後の、これまで出会ったことのないタイプの女の子たちと力を合わせて業績を上げるには、彼女たちに「心を尽くす」ことが不可欠でした。
――その結果、見事に業績を倍増されました。世代もカルチャーも違うスタッフの皆さんから、どのようにして信頼を獲得されたのでしょう。
【藤﨑】よく聞かれるのですが「こんな話をした」「このひと言で信頼された」ということはなかったと思います。彼女たちをきちんと知ろう、教えてもらおう、こちらのできることをしよう、という気持ちと行動の蓄積が、信頼を築いたと思います。
例えば、あるスタッフが体調不良になったことがありました。でも彼女、なんと「保険証がないから病院に行けない」と言うのです。お母さんがいつも家にいないからと。彼女は親に守られていなかったのですね。あまりにかわいそうで、ほんとに号泣してしまって。同じ母親としての憤りも感じて......。
その後も、うちで一緒にご飯を食べたり、休日に一緒に出かけたり。スタッフ全員との間にそういった関係性を積み重ねていって、初めて「年末、忙しいけど頑張ろう!」「売上重ねていこう!」という言葉が響くものになるんです。
――まさに「心を尽くす」という言葉の通りですね! その後のキャリアにおいても、同じ姿勢で臨まれたんでしょうか?
【藤﨑】はい。その後の居酒屋経営時代も、個々のお客様に心を尽くしました。そこで、心地良く過ごしていただいて、常連になっていただく、という好循環を経験して。そうした成功体験の蓄積が、今のコミュニケーションスタイルの源です。
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更新:12月10日 00:05