一方、本人が「両極端」ではなくとも、傍らに逆の性格の人がいたことで成功を収めたケースもあります。
前出の伊藤雅俊氏と、彼の部下であった鈴木敏文氏――日本における「セブン-イレブン」の生みの親です。
鈴木氏が、米国の「コンビニエンスストア」を日本でも展開しようと提案した際、伊藤氏は難色を示しました。
「日本にそんな雑貨屋のような店、もうたくさんあるじゃないか」などとあれこれ疑問を投げかけ、どう答えても首を縦に振らず――業を煮やした鈴木氏が「失敗したら、私が責任を取ります!」と言うに至り、初めてゴーサインを出したそうです。
ちなみに、出店数が100に満たない頃、心配性の伊藤氏はコンビニの将来にまだ確信が持てず、松下幸之助に相談したというエピソードが残っています。
幸之助の答えは、「伊藤さん、これは1万店になりますな。絶対に成功しますよ」。これで、ようやく安心したのだとか。
そんな伊藤氏ですが、鈴木氏は「伊藤さんの元にいたから大きな仕事ができた」と語っています。
一方的で具体的な指示を出す上司ならおそらくぶつかっていた、任せてくれるうえに、かえって慎重に考えてくれる上司だったから自分も思い切ったことができた、と。
小心なリーダーと大胆な部下の組み合わせは、組織としても健全です。大胆なリーダーと小心者の部下という逆の組み合わせの場合は、パワハラにならないよう細心の注意が必要だからです。
その意味でも、リーダーは稲盛氏の言う通り、小心で「なくてはならない」と言えるでしょう。
小心な人はたいてい、内向的な性格の持ち主でもあります。人に心をなかなか許さない人は、どのようにして部下と関係を築くのでしょうか。
ここで、面白いことを言っている人がいます。
一人こもって考えることが多いというある金融機関のトップの方から聞いた話なのですが、「自分は、気の合う人だけを周りにつけている」のだそうです。
好き嫌いで決めるなど、一般的には好ましくないとされていますが、自分の内向的な性格を考えるとそれがベストなので……とのことでした。
たしかに賛否はあるでしょう。とはいえ、トップの傍らに気が合う人だけがいることによって成果が上がるなら、それも1つの選択です。
何よりも、そうした「完璧ではない」人物に、人がついてくることに意味があります。その求心力となっているものは何か、と考えたとき、ここに登場したリーダーたちの、最大の共通項が見えてきます。
それは、逃げ出さないことです。人より怖さを感じやすいにもかかわらず、彼らは決して事業を投げ出すことはしないのです。使命があるからには、怖がりながらも次の一歩を踏み出す。その姿勢に惹かれた人々が、その人のもとに集うのです。
最後にもう一つ、松下幸之助の言葉を紹介しましょう。
「不安もまたよし」
不安のないビジネスなど、なんのやりがいもない。不安を乗り越えることで成長し、生きがいも生まれてくる――小心なリーダーたちもきっと、この言葉に共鳴することでしょう。
更新:11月21日 00:05