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熟練経営者が「事業がブルーオーシャンだった頃には戻りたくない」と語る理由

庭山一郎(シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役)

庭山一郎 マーケティング

30年以上に渡り、B2B企業のマーケティング支援を行なってきた庭山一郎氏は、日本企業が世界と戦うためには、部署を横断したマーケティングへの理解(マーケティング偏差値)を向上する必要があるという。

本稿では、マーケティング偏差値をあげるために必要な「戦略的思考回路」について、庭山氏の著書『BtoBマーケティング偏差値UP』より一部ご紹介する。

※本稿は庭山一郎著『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

敗戦と共に戦略を捨ててしまった?

マーケティングは経営戦略の根幹を成すものです。戦略という言葉を正しく学ぶには、「戦略」の発祥である戦争を学問的に学ぶ必要があります。戦争には目的があり、戦略があり、戦術があり、戦闘教義があります。それらが連携していないと大きな損耗となり、敗北につながってしまうのです。

「戦略」という言葉は一般名称としてとてもよく使われますが、この言葉が明確に定義されて使われている文脈や会話は多くありません。これは敗戦したことと関係があるのかもしれません。

第2次世界大戦で世界を相手に戦い大敗した日本は、戦争アレルギーの国になりました。その結果、戦略的な思考回路まで一緒に捨ててしまったのかも知れません。

戦争は決してしてはならない最たるものですが、戦略的思考まで嫌う必要はありません。ビジネスは血を流さない戦争です。ならば、そこに戦略的思考回路を持たずに迷い込めば、生き残ることはできません。マーケティング偏差値を上げるために必要なのは「戦略的思考回路」です。

あなたの会社の顧客は常に多くの競合に狙われています。もし上位の顧客を奪われれば会社の規模を縮小しなければならず、奪われ続ければやがては倒産に至るでしょう。大切な社員を解雇し、資産を売却しなければ存続すらできなくなります。

狙われているのは顧客だけではありません。優秀な社員、技術、そして流通チャネルすら競合に狙われています。

 

ブルーオーシャンは一過性の幻

そうした血なまぐさい戦いを忌避するために「ブルーオーシャン戦略」なるものがもてはやされた時代がありましたが、「一過性の幻」だと私は考えています。

そこに本当においしい餌があるなら、一瞬は独占できたとしても、いずれ必ずレッドオーシャン化します。もし競争の無い世界が実在するとしたら、そこは「死海」のように塩分濃度が高く魚が住めない死の世界か、政治を巻き込んだ利権の世界を構築したかのどちらかです。

私の会社は長い間、「死海」に浮かんでいたようなものです。日本にはBtoBマーケティングなどという市場はいまだ存在しなかった1990年に創業したためです。

当時は「BtoBにフォーカスですか? ブルーオーシャン戦略ですね」と何度言われたか分かりません。実際は魚のいない飢餓の世界で、外資系のハイテク企業を顧客として細々と生き延びていました。

2014年にマーケティングオートメーションが日本に上陸した頃から日本にもBtoBマーケティングを専門とするサービス企業がいくつか誕生し、外資系企業も進出してきました。その時は「せっかくブルーオーシャンだったのに競合が増えましたね」と同情されました。

今は毎週のようにBtoBマーケティングをテーマにしたウェビナーやオンラインカンファレンスが開催されています。まさにレッドオーシャンになった訳ですが、私にとっては今の方がはるかに心地よく、もう二度とブルーオーシャンと言われた時代に戻りたくありません。

豊な海は常にレッドオーシャンです。プランクトンが豊富だから小魚が集まり、小魚を求めて大型の魚が、それを求めてサメやカジキが、そして人が集まります。それが本来の魅力的な市場の姿です。ただし、競争が激化すれば、そこで生き残ることは難しくなります。適者生存の原理が働き、弱者は退場を求められます。

生き残るためには企業の「マーケティング偏差値」を上げ、マーケティングの基礎的な用語やフレームを社内で共通言語化し、強い企業にならねばなりません。

 

【庭山一郎(にわやま・いちろう)】
1962年生まれ、中央大学卒。1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。データベースマーケティングのコンサルティング、インターネット事業など数多くのマーケティングプロジェクトを手がける。
1997年よりB2Bにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。
海外のマーケティングオートメーションベンダーやB2Bマーケティングエージェンシーとの交流も深く、長年にわたって世界最先端のマーケティングを日本に紹介している。
年間で150回以上に及ぶセミナー講師や、ノヤン先生として執筆している『マーケティングキャンパス』等、多数のマーケティングメディアの連載をとおして、実践に基づいたマーケティング手法やノウハウを、企業内で奮闘するマーケターに向けて発信している。
ライフワークとして、ブナの植林活動など「森の再生」に取り組む。

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