これらの「小心エピソード」に、意外の念を持たれる方も多いでしょう。永守氏の風貌は臆病さを微塵も感じさせないものですし、堀場氏も、有名な経営理念「おもしろおかしく」を打ち立てた人とは思えません。
この点について、堀場氏は「おもしろおかしく」働いてほしいのは従業員だ、と語っています。自分自身は細心・慎重に徹し、それにより盤石な経営体質をつくればこそ、従業員が自由に働けるのだ、と。
「従業員のため」という姿勢は、稲盛和夫氏にも共通します。京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」。社会貢献よりも、従業員の幸福を先に持ってきているのが印象的です。
これが単なるお題目でないのは、京セラの利益率を見てもわかります。同社の利益率は、かつては20%や30%台、今でも業界では高い数字を維持しています。
以前にもうけ過ぎではないかと問われた際、稲盛氏の答えは「売上がゼロになっても、3年間は社員の給料を維持できる蓄えが必要だから」。理念への忠実さと、そしてやはり、経営に対する慎重さが垣間見える言葉です。
稲盛氏が従業員への思いを抱くようになったのには、きっかけがありました。
京セラを創業して間もない1961年、若い高卒社員たちから昇給とボーナスを求める要求書を突きつけられた、という出来事です。
決着がつくまで3日間にわたって話し合った稲盛氏は、経営者として、従業員の生活を守り、幸せを目指すことが自分の責務だ、と感じたといいます。
おそらくこの使命感こそが、「細心にして大胆」という矛盾を併せ持つための鍵です。
また、松下幸之助は、気の弱い小心者であるからこそ、正しき事を成すための「ほんとうの勇気」がわいてくると語っています。
「この正しさは絶対譲れない、この正しさは通さないといかんということで出てくる勇気は、気の弱い人をも力強くします。生来気の弱い人でも、錦の御旗を持つということになるんですな。(省略)生来気の強い人がありますね。勇気があるように見えるけれども、それは蛮勇にすぎません。ほんとうの勇気じゃないと思います」(『松下幸之助発言集4』)
気が強い人は蛮勇を振るっているにすぎず、小心な性質の人のほうが「これは正しいからやらねばならない」という使命を感じたときに得る「ほんとうの勇気」を発揮できるのだと、松下は言っているのです。
更新:11月21日 00:05