今、世界的に注目を集めている「パーパス経営」。日本でもすでに先進的な企業はパーパスを中心とした経営を進めているという。最終回に当たる今回は、そのために必要な「リーダーの条件」について語ってもらう。
※本稿は、『THE21』2023年3月号より、一部を抜粋・編集したものです。
「パーパス」を浸透させるには、どうしたらいいのか。
まず、あらゆる制約を取り払い、ありたい姿を描く。そして、誰もがワクワクして、その会社ならではのもので、誰もが「できる」と確信が持てるパーパスを導き出していく。それが目指すべき「北極星」となる。
さらに、パーパスを浸透させるのも重要な仕事だ。せっかく立派なパーパスを打ち立てても、社員がそれを「他人事」だと思っていたら、会社は変わらない。それをいかに「自分事」だと思ってもらうか。ミドルリーダーの腕の見せ所となる。
では、このような実践を行うにあたって、リーダー自身はどのような能力を身につけるべきなのか。以下、そのことについて述べたい。
ここでご紹介したい言葉がある。「賢慮のリーダー」だ。
これは2011年に「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載された、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生とハーバード・ビジネススクール教授の竹内弘高先生の共同論文で提唱された言葉で、発表当時、大いに話題となった。
両氏はこの論文を元に英語で書籍を上梓し、日本語にも翻訳されている(『ワイズカンパニー』東洋経済新報社)。
この「賢慮のリーダー」には6つの能力が求められるとされているのだが、その能力は、志本主義時代のリーダーに求められる資質を非常に的確に表している。
具体的には、「『善』を判断できる」「本質を把握できる」「場をつくる」「本質を伝える」「政治力を行使する」「実践知を育む」の6つである。
出典:「賢慮のリーダー」(野中郁次郎、竹内弘高『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年09月号より筆者作成)
詳細は上記の図1に挙げた通りだが、大事なのは「順番」だ。
まず、「何が善であるか」を判断する。つまり、「何が会社と社会にとっての善かを考えた上で、意思決定する」ということだ。そして、現状を把握して、そのためには何をすべきかの本質を把握する。
その後、場を作ってそれを伝える。単に会議で伝えるだけではなく、必要ならばインフォーマルな会合や飲み会を開いたりして、社内に浸透させる。
それでも、話を聞いているふりをして行動に起こさない、面従腹背の人もいるだろう。政治力という言葉はあまり良い意味で使われないが、あらゆる手を使ってそういう人も巻き込んでいく必要がある。
そして、一番重要なのが実践知を育むこと。実践し、その実践から学ぶ。リーダーは自ら範を示し、その支援をしていくことが重要になる。
これは、私がこの連載でご説明してきた、パーパスを会社に根づかせるプロセスとほぼ同じだ。目指すべき方向性を示し、場を作ってそれを共有し、浸透させていく。
これは「仙北谷」の例などでお伝えしてきたことだ。さらに、それが実践知となるような仕組みを作り上げる。これもまた、SOMPOホールディングスや味の素の事例にてお伝えしてきた。
更新:11月21日 00:05