2022年11月04日 公開
2023年02月02日 更新
定年後のセカンドキャリアなんてまだ遠い先の話――そんなふうに思っていないだろうか。だが、「おじさん」専門のキャリアコンサルティングを手がける金澤美冬氏は、「充実した第2の人生を歩むには、退職する5~10年前からの準備やリサーチが不可欠だ」と指摘する。
※本稿は、『THE21』2022年12月号特集「50歳から必ずやっておくべきこと」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「今回のイタリア旅行、本当はこの人なんかと来たくなかったの。でも、この人には友達がいないから...しょうがなくつきあってあげてるのよ」
これは、私がイタリアで出会ったある奥様の言葉です。旦那さんは大企業で役員まで務めた立派な方。旦那さんにしてみれば、定年後に家族や夫婦で旅行に行こうと言えば、喜んで「行こう、行こう」と言ってくれると思っていたことでしょう。
こうした状況は、何もこのご夫婦に限った話ではありません。定年後に「毎日家でゴロゴロしていないで、どこか行ってきてよ」「私は出かけるから、ご飯は適当に自分で食べて」などと家族に言われてしまう人が、実は非常に多いのです。
退職後の自由な時間を心から楽しみ、充実させられる人は、なんと10人に1人とも言われています。最初のうちこそ「待ちに待った定年だ。やりたいことをやる!」と色々なことを楽しめても、2カ月ほどですっかりやることがなくなり、時間を持て余すようになってしまう。
結果、漫然と家にいる時間が長くなり、家族から先ほどのようなセリフが飛んでくるのです。
そんな生活を数カ月続けて、ようやく「長期にわたってやりたいこと」がないのに気づく人が後を絶ちません。ですが、そこで「一体これから何をやって生きていけば...」と嘆いても、それは後の祭りです。
現役世代の人にこうした話をしても「それは悲惨ですね」と他人事のように笑う方が多くいらっしゃいます。自分も将来そうなるかも、という危機感を持つ人はごく少数なのが現実です。
しかし、おじさんを見続けてきた私に言わせれば、それまでの会社どっぷり人生の「延長」のような感覚で定年後の人生をのほほんと生きようとしている人は、間違いなく「9人」の側になってしまうことでしょう。
ちょっと脅すようなことを述べてしまいましたが、これも少しでも多くの方に危機意識を持ってもらいたいから。実際、定年前の数年間の心がけや行動次第で、定年後の人生が大きく変わることは間違いありません。
現在の50代が大学を卒業した頃は、まだ終身雇用が当たり前でした。一度入社してしまえば、それだけである程度は満足できるキャリアを歩めたのです。しかし今ではもう、そうした時代は過ぎ去ったと考えたほうがいいでしょう。
そんな現代に注目されているのが、ダグラス・ホール博士が1976年に提唱した「プロティアン」という考え方です。
従来のキャリア理論では、主役は「組織」のほうでした。一方、プロティアン理論の主役は「個人」です。組織はあくまで個人が活躍する「舞台」と捉え、一人ひとりが会社に頼らない自律的で変幻自在なキャリアを歩むことを推奨しています。
この考え方は、主に若い人向けのもの、という受け止めがもっぱらです。しかし私は、むしろ「おじさん」こそ知っておくべき理論だと思っています。
というのも、今のベテラン社員の方々は、20~30年もの間、会社にキャリアを預けっぱなしだったはず。ですが、定年後のセカンドキャリアを主体的に築くには、こうした「自律的なキャリア」という現代的な価値観が必須です。むしろ、定年という明確なリミットがあるからこそ、若手よりも急いで慣れておく必要があると言えます。
例えば、損保会社で働いてきたAさんは、定年退職後に転職エージェントと結婚相談ビジネスを始めました。どちらも現在はオンライン態勢で、働く場所は選びません。月に1度は旅行を兼ねたワーケーションという働き方も楽しんでいます。
営業一筋だった現役時代とはまるで違うビジネスながら、長年培ったコミュニケーション力をフルに活かせる仕事です。
また、退職後に趣味だったクラシック音楽などについてのブログ記事を書く「アフィリエイト」を仕事にしたBさんのケースも興味深いもの。ブログだけでは運動不足になり、他人と話す機会もないことから、空き時間に接客のアルバイトを始め、「ブログ」「接客」「年金」の三本柱で生活されています。
アルバイトなら、お客さんはもちろん同僚の若者とも、大変近い距離で話すことができるのです。最近ではバイオリンも習い始めたというBさん。まさに「変幻自在」のハイブリッド型で、定年後の生活を楽しんでいます。
更新:11月12日 00:05