学び直しに興味はあっても、そのための準備や時間の確保が難しい、という人も多いだろう。しかし、約800ページの大著『独学大全』で注目を集めた読書猿氏によると、学び始めるのに時間も準備も不要だという。失敗を恐れず、とにかく学びを「始める」ことが先決と語る読書猿氏に、詳しいお話をうかがった。
※本稿は、『THE21』2022年7月号特集「40代・50代で必ずやっておくべき『学び直し』」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「何歳からでも学び直しはできますよ」と言うと、「今さらだ」「必要ない」と答えるミドルの方が結構いるんです。
そういう方は「自分の未来なんてもう変わらない」と思っているのかもしれません。例えば定年までの自分の地位や収入を、心のどこかで予想できてしまう。だから学ぼうという気持ちが起きない。
でも本当にそうでしょうか。未来は誰にもわからない。意地悪な言い方をすれば、このまま「逃げきれる」保証なんてどこにもないのです。
それならいっそ、未来を自分の手で変える道を選んだほうがいい。学び直しに挑戦すれば、何歳からでも未来を変えることができるのです。
これは皆あまり言わないから言いますが、学び出すと本人はもちろん、その周囲も変わります。
ほとんどの動物は、学習はできても、他の個体から教わったり真似したりできない。だからある個体が死んでしまえば、その個体が学んだことは消えてしまう。
ですが、人間は違います。直接教えたり、書き残したりすることで、周囲に影響を与えたり、受け取ったりできるのです。
死ぬと言うと大げさですが、自分が学んだ「影響」は、退社後も組織に末永く残ります。普段は気づかないけれど、組織は誰かが重ねてきた学びの「影響」の上に成立しているんです。でなければ、硬直化して変化もなくなり、組織のほうが死んでしまいます。
では、未来を変えるためには、どんなことを、どのように学び直せばいいのでしょうか。
まず基本的なことですが、行動が結果に直結するもの、例えば「数週間で身につく技術・資格」といったものは、誰でも飛びつくので競争が激しくなりがちです。習得できたとしても、たいてい買いたたかれてしまうでしょう。
むしろ、成果が見えにくいものこそ、「自分だけの強み」にできる可能性が高いものです。
例えば「数学」などは、多くの人が避けて通りがちですが、ITや金融をはじめ、今後多方面で必要とされる知識です。
語学と違い「ネイティブ」がいないこともプラス要素。経済産業省が「数理資本主義」という言葉を提唱しているぐらいですから、まず間違いなく今後、必須の知識になると思います。
また、ミドルの方々なら、自分の経験や関心事からテーマを見つける方法もあります。いわば自分の知の棚卸しですね。その一例として「カルテ・クセジュ」という手法を紹介します。
まず、自分の得意なもの、知っていること、自信がある分野、人に教えられることなどを、思いつく限り何でも紙に書き出します。書き方は単語でも短文でも何でもOKです。
そのあとその紙をじっと眺め、関心があるもの、もっと学びたいもの、率先して人に教えたいものなど、少しでも食指が動くものを四角で囲っていきます。
そして、四角で囲ったものから、大事そうなものや気になるものをもう一度四角で囲い、二重の四角を作るのです。
二重の四角ができたら、そのテーマについて辞書や事典、ネットで簡単に調べ、周りにどんどん書き出していきましょう。
そして最後に、関連する項目を線で結び、全体を眺めます。その中から最も知りたいものを一つ選ぶと、学ぶべきものとその周辺が見えてくるのです。
実利ばかりに囚われず、自分の経験や興味の志向性を取り入れることができるこの方法で、より実りある学びを志してみる、というのもお勧めです。
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更新:12月02日 00:05