現代は変化が激しく、長年身を置いてきた業界が突如として衰退産業になる可能性もゼロとは言えない。もし自分の仕事に未来を見いだせなくなってしまったら、あなたならどうするか? 書籍『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問』より紹介する。
※本稿は、木村尚敬著『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問』(PHP研究所)より内容を一部抜粋・編集したものです
長年、ネクタイを中心に手がけてきた我が社。昨今の「クールビズ」に、「在宅勤務」が加わって市場の減少は加速する一方だ。しかし経営陣やベテラン社員は「売上はまだしばらくゼロにはならない」と何も手を打とうとしない。
だが、このままでは未来はないし、何より「衰退産業」などと言われ続けては社員の士気も上がらない。
私の知人にもネクタイ業界の人がいるのでよくわかりますが、この業界の方は本当に大変だと思います。「クールビズ」の名の下に国を挙げて市場規模を縮小させただけでなく、昨今のリモートワークや在宅勤務の推奨により、そもそも外を出歩く機会も減ってしまったのですから。ネクタイ市場はなくなることはないと思いますが、今以上に縮小することは確実です。
ならば、「最悪のシナリオ」を元に生存戦略を考えてみるべきです。
自分が社長になったつもりで、もし需要が今の半分になったらどうなるかを考えてみる。そして、社内や取引先とのしがらみにとらわれることなくフラットな意思決定ができるとしたら、将来の生存戦略をどのように描くか。それを考えるのが第一歩です。
おそらく、その結果はかなりドラスティックなものとなるでしょう。例えば、今ある二つの工場のうち一つを閉鎖し、人員も半分くらいにしなくてはならない。しかし、人員削減のために早期退職を募るとしたら、そのための資金が必要となる。果たして、その余力はあるのか......。
こうして自分で立ててみた計画や見込みを、そのまま経営陣にぶつけてみましょう。そして、意見を求めます。
仮に経営陣が「君が作ったのはあくまで最悪を想定した計画だ。実際はそこまで需要は落ち込まないだろうし、この会社はまだまだやっていける」と反応したとします。その根拠を聞いて、あなたが納得できるのならいいのですが、もし、「その見込みは甘い」と思うのなら、あなた自身も進退を考えるべきだと言えるでしょう。
現場よりも経営陣のほうが「甘い見込み」を持っていることは、往々にしてあるものです。しかし、その甘い見込みで会社を走らせるのは極めて危険であり、そのツケを払うのはいつも、現場で働く社員たちなのです。
ただし、これまた少々「ダークサイド」の意見となりますが、もし、あなたがまだ若くてやり直しが利く、あるいはいつでも転職できるスキルを持っている、というのなら、あえて会社に残って「修羅場を経験する」という選択肢もあり得ます。企業の倒産をリアルに体験する機会は、ビジネスパーソンにとって得難い経験になるからです。
一つの会社を終わらせるには、どのような手続きや処理が必要か。最後が迫った時、経営陣や幹部社員たちはどんな行動に出るのか。現場の社員たちはどう反応するのか。こうした極限状態を目のあたりにする機会はめったにありません。
しかも黙って見ているのではなく、自ら進んで面倒ごとを引き受ければ、自分のキャリアにとって確実にプラスになります。
企業が民事再生や破産の手続きを進める過程では、債権債務や取引先との関係、従業員の処遇への対応といった大変な仕事が待っています。債権者との調整や弁護士・税理士など専門家との連携、行政や裁判所への各種申請など、膨大な作業や事務処理も発生します。
だからこそ、法律や財務などの知識が身につき、人の動かし方や人間の本質を見抜く目も養われて、経営人材として格段にレベルアップできるのです。
そして、倒産の修羅場を味わえば、怖いものがなくなり、肝も座ります。そんな人材はどんな企業からも引く手あまたでしょう。
かつて山一證券が自主廃業した時にしんがりを務めた石井茂氏は、その後ソニーに招かれ、ソニー銀行やソニーフィナンシャルホールディングスの社長を歴任しました。私は石井氏と親交がありますが、経営者としても一人の人間としても本当に素晴らしい方で、やはり地獄を見た人間は違うものだと感服しています。
一般に「衰退業種」と言われる業種で働くのは、決して楽しいことではないかもしれません。しかし、心の持ちようによってそれは、得難い体験にもなるのです。
更新:07月26日 00:05