2021年06月07日 公開
2021年06月15日 更新
写真撮影:まるやゆういち
プロジェクションマッピングやAR、VRなどを使った空間演出をはじめ、最新技術を使った幅広い事業を手がける1→10(〔株〕ワントゥーテン)。イベント会社やIT会社のようにも思えるが、実際は、どんな会社なのか? 創業社長の澤邊芳明氏に話を聞いた。
――最近、御社が手がけられた大きなプロジェクトの1つに、今年2月の、市川海老蔵さんが主演・総合演出をした『EBIZO THEATER NPO法人設立記念公演「Earth & Human」 by 1→10』の配信があります。
【澤邊】海老蔵さんとは東京オリンピック関連のイベントに登壇した際に意気投合して、歌舞伎座での『源氏物語』の公演で映像演出をご一緒したことがありました。
そのときに海老蔵さんや関係者の方々からお聞きしたのは、歌舞伎を観に来るお客様が高齢化しているという危機感でした。
もちろん、それに対して歌舞伎界は手をこまねいているわけではありません。例えば、初音ミクなど、ポップカルチャーとの融合も行なっています。
ただ、私は、「何かとの組み合わせではなく、歌舞伎そのものをアップデートしたい。歌舞伎の格式をそのままに、正統に進化させることで、若い人にも楽しんでもらえる芸術としての歌舞伎にしたい」と思いました。その1つの挑戦が『Earth & Human』です。
『EBIZO THEATER NPO法人設立記念公演「Earth & Human」 by 1→10』(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)
――昨年9月には、羽田イノベーションシティ内にデジタル体験型商業施設「羽田出島|DEJIMA by 1→10」を開業されています。
【澤邊】羽田出島は、当社が行なっているジャパネスクプロジェクトの一環です。羽田空港を訪れる外国人に、日本の伝統文化に触れてもらって、興味を持っていただける、常設の施設を作りたいと思い、開業しました。正統な日本の文化や伝統工芸を、人間の演劇とプロジェクションマッピングによる映像演出と掛け合わせて、楽しんでいただく場です。
グローバル化の中で、日本に対して自信を失っている方もいますが、日本の各地方には世界に胸を張れる伝統的な文化や工芸がたくさんあります。
羽田出島で行なわれるパフォーマンス「The Heart of ZIPANGU」(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)
ジャパネスクプロジェクトでは、羽田出島の他、群馬県前橋市で「ENNICHI by 1→10」という、最新技術を活用した空間で子供から大人まで日本の伝統文化を楽しく学ぶことができる施設を運営し、旧芝離宮恩賜庭園や名古屋城といった名所旧跡で先端テクノロジーによる演出とその地域の美食を楽しめる「夜会」というイベントを開催しています。
ENNICHI(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)
名古屋城夜会(画像提供:〔株〕ワントゥーテン)
――映像制作もすれば、施設運営もイベントもする。事業内容が幅広いですね。
【澤邊】もともと当社は、1997年に私が個人事業として立ち上げました。当時はインターネットが普及し始めた頃だったのでWEBサイトを作っていましたが、そのうちに様々なデバイスが安く手に入るようになってきたので、プロジェクションマッピングを始めたり、今はAIの領域にも進出しています。よく「何の会社なんですか?」と聞かれるのですが、既存の範疇には収まりません。
当社は、コンテンツとソリューションの間を手がけている会社です。コンテンツパワーを使って課題を解決する、ソリューションとしてコンテンツを機能させるのが、1→10(ワントゥーテン)という会社です。
私がよく言っているのは「それって面白いの?」という言葉です。オフィスにも貼っています。
面白くなければ、いくら蘊蓄を垂れても、人の心は動きません。課題解決には、面白いこと、ワクワクすることが不可欠です。面白いだけでもダメで、課題を解決してこそ、面白い。
社名は、「1」という課題を、我々のアイデアや技術で「10」にアップデートする、という意味です。日本には、例えば、伝統芸能であったり、地方の伝統工芸であったり、あるいは、パラスポーツであったりと、この「1」がたくさんあります。
――売上はどのように上げているのでしょうか?
【澤邊】7割ほどがBtoBで、クライアント企業の課題を解決するために、商品やサービスを開発したり、プロモーションをしたりといった、「コ・クリエーション(Co-Creation)」によるものです。あるときはコンサルティング会社のようであり、あるときは広告会社のようなことをしています。
羽田出島でお客様から入場料をいただいているように、BtoCの事業も増やしているところです。
――特に地方創生に関係する事業を多く手がけていると聞いています。地方のほうが、課題が多いということでしょうか?
【澤邊】私は、会社を立ち上げる前、京都で建築関係の方たちと街づくりのNPOをやっていて、もともと街づくりに関心があるんです。当時も今も地域の課題を解決しているわけで、やっていることは変わりません。
ただ、3年ほど前から、アベノミクスのバブルが終わって、少子高齢化を実感するようになりました。例えば、関東圏のとある観光地でも目に見えて高齢者が多いし、空き家も多い。同じ問題は全国で起きています。これを解決しないと、大都市だけではこの国はもたない、と強く感じるようになりました。
新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートワークが普及したことは、地方の課題を解決するチャンスだと思います。
――課題解決のために、御社はプロジェクションマッピングやAR、VR、またAIなどの技術を使っています。どういう経緯で、こうした技術に着目したのですか?
【澤邊】創業時から興味があって、新しいものが出てくれば使ってみて、実験を繰り返し、技術を磨いてきました。世の中が変化していくのに、自分たちが変化し続けなければ、生き残れませんから。
ただ、VRなどを事業化したのは2010年代に入ってからです。それまでは、Flashを使ったWEBサイトの構築を中心にしていました。
FlashはAbodeの製品だったので、スティーブ・ジョブズがApple製品に採用しませんでした。そこから潮目が一気に変わって、C言語やJavaなど、オープンソースでのアニメーション開発が急激に進んだんです。
それと共に、加速度センサーや測域センサーをはじめとする様々なセンサーが小型化して安価になり、それを使ったVRなどが、次々と世の中に登場しました。その流れの中で、当社も事業をシフトしました。
更新:11月22日 00:05