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TVer社長・龍宝正峰氏「放送局から自立、ユーザーが1年で2倍に」

2021年07月07日 公開
2021年07月19日 更新

【経営トップに聞く 第50回】龍宝正峰(TVer社長)

TVer

テレビ番組をインターネットで楽しめる民放公式の見逃し配信サービス「TVer」。

運営する〔株〕TVerは、昨年、在京民放5社(日本テレビ放送網〔株〕、〔株〕テレビ朝日、〔株〕東京放送ホールディングス(当時/現・〔株〕TBSホールディングス)、〔株〕テレビ東京、〔株〕フジ・メディア・ホールディングス)からの追加出資を受け、社名もサービス名に合わせて〔株〕プレゼントキャストから変更した。

ユーザーを急速に増やしている理由と今後の施策について、昨年7月に社長に就任した龍宝正峰氏に聞く。《写真撮影:まるやゆういち》

 

コンテンツの増加がユーザー増加の主要因

――「TVer」のユーザーは急速に増えているということですが、どのくらいになっているのでしょうか?(取材は2021年6月に行なった)

【龍宝】この1年間でユーザー数が約2倍になりました。月に1億8000万回再生、UB(ユニークブラウザ数)は1600万~1700万になっています。

 我々はテレビのコンテンツを配信しているわけですが、テレビに次ぐとまでは言わないまでも、かなり大きなメディアになりつつあるという感触を得ています。

――なぜ、それほどユーザーが増えたのでしょうか?

【龍宝】コロナ禍による巣ごもりの影響もありますが、コンテンツの数が増えたことが大きいと思います。今は毎週約350番組を配信しています。他の動画配信サービスと比べると少なく思われるかもしれませんが、TVerのコンテンツはテレビの放送後に毎週入れ替わるので、累計で言うとかなりの数になります。

コンテンツの数が増えた理由の1つは、TVerで配信することのメリットを、コンテンツの権利者が実感するようになったことです。権利の関係で、配信できるものとできないものがあるのですが、配信できるコンテンツが増えてきました。

また、昨年7月の体制変更の影響もあります。追加出資をしていただいた在京民放5社が、インターネット配信に、さらに本気になりました。

体制変更によって、従来は放送局から運営費をいただく形だったのですが、自立することになり、当社がマーケティングやプロモーション、ユーザーに寄り添ったサービス開発などを主導的に行なえるようになったことも、ユーザー数の増加につながっています。

――単純に計算すれば、毎月、日本国民の10人に1人以上がTVerを観ているということになりますね。

【龍宝】そうです。さらに今年の目標は、毎週、日本国民の10%が視聴する規模にしたいと思っています。今のところは、週で言うとUBの最大値が850万くらいなのですが、これを1250万にするのが今年の目標です。

――1.5倍にするということですね。この1年でユーザーを2倍にした実績があるとはいえ、高い目標のように思えますが……。

【龍宝】現状では、TVerのユーザーの6割ほどはドラマを観ていて、3割がバラエティ、残りの1割がドキュメンタリーやスポーツ、アニメなどです。そこで、ドラマやバラエティの強みは残しつつ、その他のジャンルのコンテンツも強化していけば、1.5倍という目標は難しくないのではないかと思っています。

今年の正月に、日本テレビが放送した全国高校サッカー選手権大会を配信したところ、普段はTVerを観ないティーン層に多く観ていただくことができました。こうしたコンテンツを恒常的に配信することによって、視聴者の幅を広げられると思います。

今夏のオリンピックが開催されれば、「gorin.jp」(民放によるオリンピック公式動画サイト)のコンテンツをTVerで配信させていただくこともあり、スポーツ番組を観る層にTVerのユーザーが広がることを期待しています。

――現状では、ユーザーにはどんな人が多いのでしょうか?

【龍宝】ドラマを観る方が多いので、10~40代の女性が多いです。動画配信サービスには男性がユーザーの中心のものが多いので、その点では独自性があると思います。

――インターネットと接続した「コネクテッドテレビ(CTV)」でTVerを観るユーザーも増えているとか。

【龍宝】2019年4月にCTV向けのサービスを始めました。当初はテレビの画面を使うことに放送局からの抵抗がありましたが、NetflixやYouTubeもテレビで観られるようになってきていましたし、ユーザーの利便性を考えると、TVerも進出したほうがいいと考えて始めたのです。今年6月に東芝の「REGZA」にも搭載していただき、ほぼすべての主要メーカーのテレビでTVerが視聴できるようになりました。

現状で、CTVでの視聴が全体の2割ほどになっていて、PCの17~18%を上回っています。残りはスマホやタブレットなどです。これには、巣ごもりによって、テレビでインターネットのコンテンツを観ることが一般化してきたことの影響もあると思います。

――TVerのコンテンツはテレビの放送局から提供を受けているわけですよね。放送局との関係はどうなっているのでしょうか?

【龍宝】在京キー局5社と在阪5社の計10社からコンテンツを提供していただいています。キー局を通じて、ローカル局のコンテンツも提供していただいています。

在京キー局は、それぞれ自社でも動画配信サービスを展開していますが、自社の動画配信サービスにも、TVerにも、コンテンツを提供している形です。

会社としては各放送局から独立していますが、先ほど申し上げたように、昨年、在京キー局5社から追加出資を受けまして、在京キー局5社で当社の株式の約90%を持っています。

――各放送局は、なぜ自社の動画配信サービスがあるのに、TVerにもコンテンツを提供しているのでしょう?

【龍宝】各放送局の動画配信アプリをすべてダウンロードしてくれるユーザーはなかなかいません。また、ユーザーにとって、どの番組がどの放送局のコンテンツかは重要ではなく、意識すらしていないことが多い。ですから、個社で独自に動画配信サービスを広げようとしても限界があると、各放送局とも認識しているのです。

――ビジネスモデルはどうなっているのですか?

【龍宝】TVerは無料のプラットフォームで、広告で収入を得ているのですが、広告のセールスは、コンテンツを提供していただいている各放送局と当社がそれぞれに行なっています。

各放送局は、TVerで配信している自社のコンテンツの広告のセールスを行なって、その一部を、いわば場所代として、当社にいただいています。TVerのユーザーが増えるということは、各放送局にとって、広告を売るための在庫が増えることになるわけです。

例えば、あるタレントが好きなユーザーが、TVerという1つのアプリの中で、そのタレントが出ているA局の番組もB局の番組も観られる状況を作るということは、A局にとってもB局にとっても、広告を売るチャンスが広がることにもなります。

一方、当社がセールスを行なった広告の売上は、一部を各放送局にお支払いしています。

テレビの画面でTVerを観る人が増えているということは、広告のセールスのうえでも可能性を広げることになると思います。

――御社の社員には営業職が多いのですか?

【龍宝】いえ、ほとんどの社員がサービスの運用に携わっています。社員数は80人ほどで、営業職は5~6人ですね。当社の広告のセールスは昨年11月に始めたばかりなので、これからです。

ちなみに、放送局や広告会社からの出向者は30人ほどです。

 

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