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結局、天職や好きなことは「やってみないとわからない」

2019年12月20日 公開
2023年10月24日 更新

楠木建(一橋ビジネススクール国際企業戦略教授),伊藤羊一(Yahoo!アカデミア学長)

好きじゃない仕事にはやがて限界が来る

 

 楠木 ところが、アカデミックな世界に入ってみますとやたらと「スポーティ」な面もあるということが、即時判明したんです。

 伊藤 そうなんですか。

 楠木 研究っていうのは、学術雑誌への論文発表がすべてなんですね。ですから、学会で発表して、学術雑誌に自分の論文を投稿しなければなりません。しかも、その論文は学会でアクセプトされるために、「科学の形式」を取らなくてはならない。経営学といっても、自然科学のアナロジーで組み立てられているので、先行研究があって、そこでわかってること、わかってないことを調べ、仮説を立てる。そして、データを取って仮説を検証し、再現可能な因果関係を見つけて議論をするっていうような手順を踏むという科学の規範が強く働きます。

 こうして生産される論文がどれだけあるかで学者としての業績が決まるので、だれも競って論文リストを長くするわけです。「もはやスポーツじゃん」っていう話ですね。

 ただ、「そういうもんだ」ということなんで、やらざるを得ない。「ああ、そうですか」と受け入れるしかない。目の前にある現実なので。それを差し引いても、企業で働いているよりかは、まだだいぶいいかなという感じでやっていました。

 ところが、騙し騙しやっているので7年くらいでちょっと限界が来ました。で、アカデミックのフォーマットに則る研究はもう止めようということになりました。

 最初の数年は、研究開発とか製品開発のマネジメンを対象にまあまあアカデミックな論文を書いていました。それも考えてみると、とりあえずそれを選んでやっていただけなんですけど。学問的使命感はない。考えてみると、「そんなに好きじゃない」っていうことですね。それで、自分が面白いと思うのは、競争の中で「なんであの商売が儲かって、儲からないのかっていう分析をすることだ」と気づき、徐々に競争戦略に移りました。

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成果をあげるほど苦しくなっていった >

著者紹介

楠木 建(くすのき・けん)

一橋大学大学院教授

1964年、東京都生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学商学部卒、同大学院商学研究科修士課程修了。専門は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)などがある。

伊藤羊一(いとう・よういち)

ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長

〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。
かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。
2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。
著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。

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