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結局、天職や好きなことは「やってみないとわからない」

2019年12月20日 公開
2024年12月16日 更新

楠木建(一橋ビジネススクール国際企業戦略教授),伊藤羊一(Yahoo!アカデミア学長)

好きじゃない仕事にはやがて限界が来る

 

 楠木 ところが、アカデミックな世界に入ってみますとやたらと「スポーティ」な面もあるということが、即時判明したんです。

 伊藤 そうなんですか。

 楠木 研究っていうのは、学術雑誌への論文発表がすべてなんですね。ですから、学会で発表して、学術雑誌に自分の論文を投稿しなければなりません。しかも、その論文は学会でアクセプトされるために、「科学の形式」を取らなくてはならない。経営学といっても、自然科学のアナロジーで組み立てられているので、先行研究があって、そこでわかってること、わかってないことを調べ、仮説を立てる。そして、データを取って仮説を検証し、再現可能な因果関係を見つけて議論をするっていうような手順を踏むという科学の規範が強く働きます。

 こうして生産される論文がどれだけあるかで学者としての業績が決まるので、だれも競って論文リストを長くするわけです。「もはやスポーツじゃん」っていう話ですね。

 ただ、「そういうもんだ」ということなんで、やらざるを得ない。「ああ、そうですか」と受け入れるしかない。目の前にある現実なので。それを差し引いても、企業で働いているよりかは、まだだいぶいいかなという感じでやっていました。

 ところが、騙し騙しやっているので7年くらいでちょっと限界が来ました。で、アカデミックのフォーマットに則る研究はもう止めようということになりました。

 最初の数年は、研究開発とか製品開発のマネジメンを対象にまあまあアカデミックな論文を書いていました。それも考えてみると、とりあえずそれを選んでやっていただけなんですけど。学問的使命感はない。考えてみると、「そんなに好きじゃない」っていうことですね。それで、自分が面白いと思うのは、競争の中で「なんであの商売が儲かって、儲からないのかっていう分析をすることだ」と気づき、徐々に競争戦略に移りました。

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成果をあげるほど苦しくなっていった >

著者紹介

楠木建(くすのき・けん)

一橋ビジネススクール PDS寄付講座競争戦略特任教授

1964年、東京都生まれ。89年、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる 仕事を自由にする思考法』(文藝春秋)など。

伊藤羊一(いとう・よういち)

武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 学部長

Musashino Valley 代表、元Yahoo!アカデミア学長、Voicyパーソナリティ

アントレプレナーシップを抱き、世界をより良いものにするために活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。2023年6月にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープン。「次のステップ」に踏み出そうとするすべての人を支援する。また、ウェイウェイ代表として次世代リーダー開発を行う。代表作「1分で話せ」は70万部のベストセラーに。

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