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世紀の大発見が「必然としか言えない」そのワケ

2019年10月07日 公開
2019年10月09日 更新

野口悠紀雄(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授)

 

「いつも考えていた」から発見できた

 重大な発見がなぜ偶然のきっかけで得られたかについて、ニュートンが明確に答えています。彼は、「どのようにして万有引力の法則を発見できたのか?」と尋ねられて、「いつもそのことを考えていたから」と答えたのです。

 つまり、彼は、その問題について思索を続けており、解決の一歩手前まで来ていたのです。そのとき、たまたまりんごが落ちるのを見たのがきっかけとなって、大発見に導かれたのです。りんごが落ちるのを見てから引力の概念を考え始めたのではありません。ですから、きっかけはりんごでなくともよかったのです。ものが棚から落ちるのを見ても、同じ発見に導かれたことでしょう。

 実際、りんごが木から落ちるのを見た人は、人類の歴史において、ニュートン以前に数え切れないほどいました。しかし、彼らのうち誰一人として万有引力の法則に思い至りませんでした。ニュートンだけができたのです。それは、ニュートンだけが発見の近くまで思索を進めていたからです。

 アルキメデスの場合も、同じことです。風呂に入って湯が溢れるのを見た人は、アルキメデス以前にいくらでもいました。しかし、浮力の原理は発見できなかったのです。ポアンカレの場合も、ペンローズの場合も、ケクレの場合も、すべて同じです。重要なのは、きっかけではなく、彼らが「考え続けていたこと」なのです。

「モーツァルトの音楽が発想に役立つ」といった類のことが、よくいわれます。もしそうなら、オーケストラの団員から素晴らしい発明がつぎつぎに出てきそうなものですが、実際にはそういう話も聞きません。

 モーツァルトの音楽そのものが原材料になるのではなく、発想作業が進んでいたときに、モーツァルトの音楽がもたらした環境変化が発想を呼ぶのでしょう。

 

ポイント ある問題について考え続けていたために、偶然からの出来事がきっかけとなって、大発見に導かれる。

 

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著者紹介

野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)

早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問/一橋大学名誉教授

1940年、東京都生まれ。63年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省入省。72年、イェール大学Ph.D(経済学博士号)取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2011年より現職。著書に、『「超」整理法』(中公新書)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)など、ベストセラー多数。

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