2019年07月19日 公開
経営者はもちろん、初級マネージャーにとっても必ず知っておくべきといわれる、非常に重要な数字がある。それが「損益分岐点」だ。
名前だけは聞いたことがある、という人が多いと思うが、その本当の意味や計算方法を知っている人は案外少ないのではないだろうか。
経理の本としては異例のシリーズ60万部を発刊した『決算書がおもしろいほどわかる本』の著者として知られ、近著『ざっくりわかる「決算書」分析』にて決算書分析のイロハを解説した公認会計士の石島洋一氏に、必ず知っておきたい「損益分岐点公式」とその応用についてうかがった。
ここに赤字の会社があります。この会社はもう少し売上を増やせば収支トントンになるはずです。
この時、赤字の企業が、いくら売ったら利益がゼロ、つまり収支トントンになるかという売上高のことを「損益分岐点売上高」といいます。これは会社経営、あるいは部門経営をするにあたって必ず知っておかなくてはならない数字です。
この損益分岐点売上高を計算するにはどうしたらよいでしょうか。
損益分岐点売上高を考える時に、避けて通れないのが費用分解です。つまり総費用(売上原価、営業経費、営業外費用)を変動費と固定費に分解する必要があるのです。
変動費とは、売上高に比例して増える費用のことをいいます。
たとえば、小売業の売上原価、製造業の材料費などを思い浮かべてください。これらは、売上高が増大すると比例的に増えていく費用です。こうした費用を変動費というのです。
これに対し固定費は、売上高が増大しても増えない費用です。水道光熱費や減価償却費などがその代表で、給料などの人件費も、売上歩合制にでもなっていない限り固定費です。その他の多くの経費も固定費である場合が多いようです。
変動費は売上の増減に比例する費用ですから、製品1個あたりのコストが一定の費用と言うことができます。
売上がいくら増加しても、1個あたりは変化しないのです。
これに対し、固定費は売上がどうなろうとも総額が一定の費用ですから、売上が増えれば製品1個あたりのコストは低減することになります。たとえば、ある製品を10個のみ販売(生産)した場合と比べ、倍の20個販売した場合には1個あたり固定費は半減することになります。
こうした変動費と固定費の性格は、経営の意思決定にも大きな影響を与えます。
たとえば、人件費です。非常に好況であれば、一定額の固定人件費を投入しても、十分にコストを吸収し、売上が一定のレベル以上になれば大きく収益に貢献します。
しかし、不況の中にあっては固定費の負担は大きく、できれば人件費も変動費化したいという方向へと経営は動きます。
特に、日本のように大胆な人員削減ができないような環境下では、人件費の変動費化を狙い、需要に応じて人員を調整しやすい人材派遣に頼ったり、パート主体の人員構成になったりするのです。
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更新:11月24日 00:05