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哲学は、「今をどう生きるのか」を考えるヒントになる

2018年07月20日 公開
2023年03月14日 更新

萱野稔人(津田塾大学総合政策学部長)

無理して哲学書を読み通す必要はない

 哲学に何となく興味はあるけれど、難しすぎて親しみが湧かない人も多いはず。確かに、学問である哲学は高度に専門化しています。前提知識がないと理解しづらいことが多いものです。しかし、必ずしも難解な哲学書を読破しなくても、哲学的な思考は手に入れることができます。

 1つ目は、先ほどお話したように、漠然とした思考を言語化することで、本質的に考えるクセをつけること。

 2つ目は、ゴールを設定してから、ロジックを組み立てること。「なぜ、そう考えるのか」といった具合に、目的から逆算して根拠を考えることで、自ずと物事の背景を捉える洞察力が身につくはずです。

 そして、3つ目は思考の潔さを意識すること。つまり、無駄な情報を削ぎ落とし、徹底的にシンプルな結論を出すことです。余計な情報を思い切って捨てることで、物事の本質を掴みやすくなります。

 先のプレゼン下手な人を例に言えば、彼らは正確性を重視するあまり余計な情報を加え、かえって重要なメッセージをボカしてしまいがちです。しかし、ときには誤解を恐れずに自分の意見を言い切る度胸のほうが大切なのです。

 実は、17世紀の哲学者であるデカルトも、「森の比喩」という寓話で同じようなことを言っています。「森の中で迷ったら、方向を決めて迷わずに突き進む。たとえ望むところに正確には行きつかなくても、どこかには辿りつくだろうし、森から出られる確率も高まる」。

 これはビジネスにおいても同じではないでしょうか。事業を継続すべきか中断すべきか、転職すべきか今の会社に留まるべきか──。わからないなりに選択を迫られたとき、哲学で培った思考は役に立つはずです。

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著者紹介

萱野稔人(かやの・としひと)

津田塾大学総合政策学部長/哲学者

1970年、愛知県生まれ。早稲田大学文学部を卒業、パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。津田塾大学で教壇に立ちながら、コメンテーターとしてテレビやラジオでも活躍。専門
は政治哲学、公共哲学。『国家とはなにか』(以文社)、『社会のしくみが手に取るようにわかる哲学入門』(サイゾー)など著書多数。

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