2018年07月20日 公開
2023年03月14日 更新
哲学は抽象的で難解なわりに、仕事ではほぼ役に立たない──。そんなイメージを持つビジネスマンは多いだろう。しかし、哲学ほどビジネスで必要な知的体力を養うのに最適なものはない。そう指摘するのは、現代の社会問題を哲学的に考察し、解決策を提示する萱野稔人氏だ。なぜ、現代のビジネスマンが哲学を学ぶべきなのか。その理由、そして哲学的に考えるとはどういうことなのか。お話をうかがった。
この10年で私たちを取り巻く環境は、大きく変わりました。インターネットが普及して必要な情報にいつでもアクセス可能になり、スマートフォンの登場によってSNSが発達して以来、コミュニケーションの在り方は一変しました。世界経済の動きに目を向ければ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の栄光も今は昔。中国のGDPに後塵を拝して久しいものです。さらに、今後はAIの台頭によって、さまざまな人間の活動がAIに代替されると言われています。
こうした変化の激しい時代に身を置くと、「今、何が起こっているのか」を捉え直し、「今をどう生きるのか」を考えるヒントが欲しいという気持ちが芽生えやすいのではないでしょうか。現代の人々が哲学を求める動きは、そうした背景があるように思われます。
では、哲学は具体的にどう役立つのでしょう。それは、問いそのものを定義し、何をもって解決とするかといったゴールを決める力を養う点にあります。
絶対的な正解のないビジネスシーンでは、課題を自ら発見・設定し、答えを出さなければなりません。この作業は、哲学の営みそのもの。哲学は、まだ問題として認識されていない課題を言語化し、言葉を通じて物事の本質を明らかにする学問だからです。これにより、思考の体力のみならず、ロジックを組み立てる力を養うことができます。
すると、ビジネスで必要なさまざまな力が伸びていきます。たとえばプレゼン能力。読者の中には、上司から「何が言いたいのかよくわからない」と指摘されたことがある人もいるでしょう。こうした人は課題の本質、つまりコンセプトの言語化が得意ではありません。
しかし、哲学を通じて「つまり、どういうことだろう」といった具合に漠然とした思考をわかりやすい表現に落とし込む訓練ができるので、自ずと説明が上手くなっていくのです。
更新:11月26日 00:05