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アマゾンだけが「イノベーションのジレンマ」に陥らない理由

2018年04月19日 公開
2023年03月14日 更新

田中道昭(連載「アマゾンの大戦略」に学ぶMBA講座 第1回)

ベゾスがこだわり続ける「3つのバリュー」とは?

ミッションやビジョンが会社の未来の姿を描いたものだとするなら、バリューはそのための行動基準、会社が大切にしている価値観のようなものです。それはまた、ベゾスが「どんな価値観を重視して従業員に働いてほしいのか」を示すものでもあります。

ベゾスの場合、常々3つのバリューを口にしてきました。「顧客第一主義」「超長期思考」「イノベーションへの情熱」です。

また2017年のアニュアルレポートでは「オペレーショナル・エクセレンス」という言葉が追加されました。また、「リーダーシップの14カ条」も後になって追加されたものです。もともとは10カ条程度をバリューとして提示されていたものを、リーダーシップのプリンシパルとして一括りにしたものです。

イノベーションへの情熱は創業以来、あらゆる場面でベゾスが口を酸っぱくして言い続けてきたことであり、これがアマゾンの競争優位性のひとつになっていることは疑いようがありません。

 

「アマゾン・ゴー」「エコー」……次々生まれる革新的製品

イノベーションといえば、あらゆるドットコム企業(インターネットビジネスを手掛けるベンチャー企業)が口にする、いまさら珍しくもないお題目かもしれませんが、多くの企業はイノベーションを手にできず、ましてイノベーションを「生み出し続ける」ことなど叶わないというのが実際です。なぜなら、そこには「イノベーションのジレンマ」があるからです。

イノベーションのジレンマとは、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した概念です。ベゾスが「イノベーションのジレンマ」を意識していることは米国では広く知られています。破壊的にイノベーションを起こし、新しいビジネスを始めた会社が成長する。それはいいのですが、さらなる破壊的なイノベーションを起こそうとすると、既存のビジネスとの間にカニバリゼーションが起きるリスクが生じます。そのため破壊的イノベーションは回避されるようになり、段階的なイノベーションにとどまる。結果、別の破壊的イノベーションをもたらす会社に追いやられる――そんな考え方です。

しかし、アマゾンはイノベーションを生み出し続けています。押すだけで商品が届く「アマゾン・ダッシュ・ボタン」、話しかけるだけで音楽が再生されるのみならず、スターバックスのコーヒーまで注文できてしまう「アマゾン・エコー」、2016年にはレジのない無人コンビニ「アマゾン・ゴー」の試験も開始しました。

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著者紹介

田中道昭(たなか・みちあき)

立教大学ビジネススクール教授

シカゴ大学ビジネススクールMBA。戦略論を専門として、経営を中核に政治・経済・社会・技術の戦略を分析する「戦略分析コンサルタント」でもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長などを歴任。現在、株式会社マージングポイント代表取締役社長。著書に、『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(ともにPHPビジネス新書)など。

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