2018年02月22日 公開
『AIで仕事の効率化を』『人間を超えるAI』『AIに仕事が奪われる日』……最近、AIについてのこうしたセンセーショナルな記事を見ない日はない。それほどまでに一般層に浸透したAIというコンセプトだが、実践の場ではどれだけ正しく理解され、活用されているのかというと、少々心許ない。
AI技術で最先端を走るシリコンバレーにて事業を展開する石角友愛氏は、「日本企業のAI導入には数々の問題がある」と指摘する。それはどういったものなのか。ご寄稿いただいた。
2017年、ある記事がアメリカ主要メディアを騒がせました。テキサス大学の癌研究センターが、大手IT企業のAIエンジンを導入し癌の診断を機械学習で行なうという超一大プロジェクトを行なっていたのですが、それが4年間の努力の末頓挫した、と報じられたのです。しかも、当初は約2億円相当の見積もりにて始まったこのプロジェクト、なんと2017年時点で約52億円相当にまで膨れ上がってしまっていたというのですから、世間の驚きや失望は相当なものでした。
そもそも、なぜこのAI技術導入プロジェクトは頓挫してしまったのでしょうか。
報道内容によると、投資判断を下した経営陣が電子カルテ等を管理する現場のITシステムやワークフローを理解していなかったため、何度もムダな実験を繰り返したり、実験の範囲を繰り返し変更したりして、期待された期間内に成果を上げるに至らなかったということです。
ここから言えることはなんでしょうか。『AI投資判断は現場を理解した上で、具体的かつ検証可能な課題を解決するために行なうべきだ』ということです。
たとえば、シリコンバレーを代表するグーグルやアップルでは、数億円〜数百億円くらいの投資判断であれば現場のエンジニアがまず実際に使ってみて、業務効率化などの数値的リターンが見えてきてから、ボトムアップで上にあげて最終的に投資するかどうかの判断に移ります。常に生かされるのは現場の声、リアルなエンドユーザーの声なのです。
一方、AIを導入しようとしている日本企業は数多くありますが、実はこのテキサス大学と同様の問題を抱えていることが多いのです。
私がCEOを務めるパロアルトインサイト社は200人以上におよぶシリコンバレーの最先端のデータサイエンティストネットワークを保有し、クライアント企業へのAI導入に関する戦略立案やビジネスモデル策定、および技術開発と実装を一貫して行なっており、日本企業に対してもこれまで100社以上お会いしアドバイスを行なってきました。そうした中で、いくつもの課題点を感じてきました。
一つは「最初の一歩」が踏み出せないというケースです。
解決すべき問題がたくさんあることはわかっていても、どこから取り組んで良いかがわからない。あるいは投資対効果が具体的に見えてからでないと判断できない。そうこうしているうちに、データ活用、AI活用案件の優先順位が下がってしまうのです。
ここで重要なのは「まずはデータのあるところからやってみよう」「プロトタイプを作ってみよう」という思い切り、割り切りです。まずはプロジェクトを動かしてみることが大事。これはスタートアップと一緒です。
弊社がクライアント企業にアドバイスすることの一つに、プロトタイプの重要性があります。プロトタイプの力は偉大です。機能的にはまだまだ全然揃っていなくても、モックアップ、あるいはスケッチレベルのものでもいいので、まずは具体的にイメージできるものを作ってみる。すると、関係者全員が同じ土壌で議論できるようになり、プロジェクトは一気に進んでいくのです。
弊社では、これをAI診断というサービスとして提供しています。これでAI技術投資に対してのハードルが下がり、一歩ずつ動き出せるようになります。
更新:11月22日 00:05