2018年02月24日 公開
写真:Toshio Ando
デンマークで生まれ育った日本人兄弟のファッションブランドが今、世界から注目を集めている。それが「THE INOUE BROTHERS…」。兄・井上聡と弟・清史からなるユニットで、ロンドンとコペンハーゲンを拠点として活動している。とくにそのアルパカのニットは世界最高峰の品質を誇り、日本でも大人気となっている。
初めての書籍となる『僕たちはファッションの力で世界を変える』発刊に合わせ来日した兄・聡氏に、その仕事にかける思いをうかがった。
「デザインを通じて世界を変える」──そんな思いを込めて活動を続ける彼らのメッセージはごくシンプルだ。それは「ビジネスを自然な状態に戻す」こと。
「ビジネスは本来、自分のやりたいこと、作りたいものを作ることから始めるはずですよね。でもそれが、どんどん『お金を出す人』、すなわち投資家たちにコントロールされてしまっているような気がするんです。
最初はもっと飲みやすいコーヒーカップを作りたいと思ってビジネスを始めたのに、いつのまにか、顔も見たことがない海外の投資家の利益を最大化することがビジネスの目的になっている。そういったことが頻繁に起こっています。
今の世の中は『常に上を目指すべき、もっと伸ばすべき』という発想にとらわれていますが、それは一種の病気。自然な状態ではないと感じるのです」
そのことに気づいたきっかけの一つは、知人の誘いで初めてボリビアに出向いたときだった。
「そこで出合ったアルパカウールの品質は素晴らしいものだったのですが、先住民たちの生活は非常に貧しいものでした。これを何とかしたい、と考えたことが今のビジネスの原点です。生産者との共同開発により高品質な製品を生み出すとともに、中間マージンを省く〝ダイレクトトレード〟という方法によって、生産者がより潤うような仕組みを取っています。
ただ一方で、そんな貧しいアルパカ農家の人々はとても明るく、ずっと人間らしい生活を送っている。我々のほうがむしろ、人間らしさを失ってしまっているような気がしています。
エコノミーもエコロジーも同じギリシャ語の『エコ』からきたはずなのに、エコノミーのほうはすっかり不自然になってしまっており、各地でひずみを生み出している。それはやはり『常に上を目指すべき』という発想が原因だと思うのです」
更新:11月26日 00:05