2018年03月14日 公開
2023年03月23日 更新
数字は全社でまとめるのではなく、部門別、事業所別、個人別など、できるだけ細分化して行ないます。それらの中で良い数字が出ている現場があれば、うまくいっている要因を分析して全社に広げていきます。
注意したいのは、評価や目標管理のためだけに数字を押しつけてはいけないということです。営業マン個人に予算を割り振り、その達成度で社員を評価している会社は多いと思います。しかし、上から押しつける目標管理は、現場を疲弊させるだけ。それどころか、目標を達成しようとするあまり数字が独り歩きして、本末転倒なことが起きかねません。
私の失敗談をお話ししましょう。ソフトバンク時代、私はコールセンターを含めたオペレーションの責任者をしていました。コールセンターではお客様からの電話一コールにつき平均八分三十秒の時間がかかっていました。時間が長いとコストがかかるし、お客様の満足度も下がります。そこで孫社長は「一分短縮しよう」と方針を示しました。私は各プロセスの責任者を集めて、「七分三十秒にしろ」と指示。その結果、二カ月後に現場から達成できたと報告がありました。
しかし、これが大失敗。時間は短くなったのに、逆にお客様満足度が下がったのです。驚いて調べてみると、現場のオペレーターは一分短縮するために早口で話すようになり、中には七分三十秒で強引に電話を切ってしまうケースもありました。これではお客様が不満を抱くのもあたりまえです。
このようなことが起きたのは、私や現場責任者などの中間管理職が、現場のオペレーターに目標数字を丸投げしたからでした。上から数字が降ってくると、現場はとにかくその数字を追いかけざるを得ません。そのため本来の目的から外れたやり方で対応してしまったわけです。これは間違った数字の使い方です。
数値化は現場からのボトムアップで効果を発揮します。ただ、現場が自主的に改善策を提案してくると期待するのは無責任です。鍵を握るのは中間管理職。現場の数字を見て、具体的な方法論を導き出すのは中間管理職の役目です。
先ほどのケースなら、中間管理職が自ら現場にヒアリングを行い、対応時間が長くなっている要因を数値化して探り出すべきです。ただ、オペレーター数人に聞いても意味はありません。そのオペレーターが大きな問題だと感じているものがあっても、それは個人的な経験であって全体から見れば小さな問題である可能性があります。
重要な問題を見極めるには、なるべく多くの人からヒアリングして集計・分類することが大切です。分類の結果、Aという問題が30%、Bという問題が10%だったなら、Aから対応していけばいい。
実際には、さらに費用対効果の視点を加えて判断します。もしAのほうが問題でも、その解決に膨大なコストがかかり、効果も限定的だったとしたら、Bを先にやったほうがいいかもしれない。そうやって優先順位を見極めるために数字を使うのです。
実際に私がコールセンターでヒアリングしたところ、回答が多く、コストをかけずにできるのは「お客様の本人確認のための質問を減らすこと」でした。これは法務に問い合わせてOKが出たのですぐ変更しました。
また、「モデムの状況確認に時間がかかる」という声も多かったのですが、これはシステム投資をすることでお客様に聞かなくてもモデムの状況をコールセンター側で把握できるようになります。そこで、上に費用対効果を示してゴーサインをもらいました。このように、数字は上を説得する武器にもなります。膨大な投資が必要な改善策も、「この投資で三億円の経費削減効果があり、2年で投資額を回収できる」と客観的に示せば、稟議が通りやすくなるでしょう。
こうした施策の結果、早口でまくしたてなくても、対応時間を七分三十秒にすることができたのです。
上から降ってきた数字をそのまま下に押しつけるのは、中間管理職として失格です。現場の数字を使って、自然に目標が達成できる仕組みを考える。それが中間管理職に求められる役割です。
更新:11月22日 00:05