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「意外と大人は話せる」学生がそう気づくことが、産学連携の一番の効果

2025年07月02日 公開

THE21編集部

大学などの研究機関と企業が連携する「産学連携」は、商品開発を中心に理系分野での連携のイメージが強いが、マーケティングの文系分野でも広く実施されている。愛知大学経営学部の事例を取材すると、学生サイドの「社会人としてやっていく不安の解消」「就職後に会社の上司や先輩に相談する予行演習になる」といった意外なメリットも見えてきた。

 

若者が心理的圧迫感を感じる「マルハラ」

愛知大学経営学部の山田浩喜ゼミの学生研究チーム「JAWS」では、顔文字のキーボードアプリ『Simeji』を提供するバイドゥ株式会社と連携して、世代や立場を問わず使える「もっと円滑なコミュニケーション」の実現に向けた新機能開発プロジェクト(『マルハラをまぁるくプロジェクト』)に取り組んだ。

プロジェクト発足の背景を、担当教員である山田浩喜先生は次のように語る。

「私のゼミではデータ分析によるマーケティング施策の評価と企画提案を中心に活動しており、3年生はその研究成果のプレゼンテーションを行ないます。日常生活のなかで起こる現象に注目し、学生たちが自分たちで課題を設定してデータ分析し、それを企業に提案します」

学生たちは、LINEのメッセージで文末に「。」(句点)がつくことに若者が心理的圧迫感を感じる「マルハラスメント(マルハラ)」や「おじさん構文(LINEやSNSで使われる中年男性特有の言い回し)」に課題意識をもって研究を始めた。

昨今、若い世代はコミュケーションの一字一句に対して過敏で炎上回避傾向が強く、上の世代はそこまで深く考えてメールを打つことがない。そこに世代間の価値観のズレが起こる。「マルハラ」はまさにその象徴といえる。

本プロジェクトは、世代間のコミュニケーションギャップを埋めるための「オンラインコミュニケーションの快適化」について、キーボードアプリ「Simeji」と連携して全国7,965名の共同調査を実施した。

産学連携の共同開発の成果として『Simeji』に『まぁるく変換(予測変換)』と『いろいろ感情(シーン別絵文字セット)』という新機能が搭載された。入力したフレーズに対して文末に“ちょうどいい絵文字”を添えた例文を自動で提案してくれる。文末の「。」が冷たいと感じるときや、微妙な“言い回しのニュアンス”に悩んだときに役立つ。

 

データにこだわりつつ、データにとらわれない

「マーケティング系ゼミの産学連携の場合、学生の議論から導き出したプランを企業へ提案するパターンが多いのですが、私のゼミでは、その裏付けとなる精緻なデータ分析を大切にしています。とくにアンケート調査にはこだわっており、アンケート項目を入念にチェックして依頼するように指導しています」(山田先生)

山田先生がデータ分析にこだわる理由とは何だろうか。

「いまやビッグデータの容量が膨大な時代になり、情報素材がネット上にあふれていますが、すべての企業がそれを活かしきれているかといえばそうではありません。データアナリストのマンパワーもまだまだ足りていません。その意味でも産学連携の提案においてデータ分析の裏づけが説得力を持つと考えています」

しかし山田先生はデータ至上主義かと思いきやそうでもないようだ。データ分析はあくまで分析であって現実に起こっていることは別だという。むしろ現場で見当違いの結果が起こることこそが学生の成長につながると山田先生は考えている。

「どんなに精緻を極めた分析であっても現場の理解がなければプロジェクトは進みません。一般的に統計が重要視される世界では、スマートな結果が求められますが、現場ではその通りにはいかないものです。ややもすればデータ分析に酔ってしまうリスクもあります。それをどうすり合わせいくかが実社会で問われます」(山田先生)

山田先生は、民間企業の間接部門出身ということもあり、本部がつくったプランをなかなか現場に理解してもらえなかった苦い経験があるという。現場と本部の狭間で起きる葛藤ややりとりから新しいものが生み出されていく。それを学生に体験させたいと山田先生は考えている。

 

産学連携が学生のキャリア形成にもつながる理由

学生にとっての産学連携の価値とは何だろうか。産学連携のキャリア効果として学生からみた「社会人イメージの変化」がアンケートの上位に挙がることが多い。学生が未知の社会に対して不安を抱いている証左である。

「産学連携の一番の効果は、企業とのやりとりを通して、担当者と自分の距離が恐れていたほど遠くないと気づくことではないでしょうか。自分たちがきちんと準備して誠心誠意、説明すれば担当者に理解してもらえる。この体験は、就職後に会社の上司や先輩に相談する予行演習のようなものかもしれませんし、意外と大人は話せる、という実感や自信を学生が持てれば就活やその後のキャリア形成に有利に働くと思いますね。その意味では、学生にとって産学連携は、成果よりもプロセスにこそ意味があります」(山田先生)

学生のキャリア形成につながる「産学連携」への期待は今後も高まるに違いない。

 

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