2017年08月31日 公開
2023年03月23日 更新
ここまで文句ばかり述べてきましたので、ここからはどうやって長時間労働を是正していくか、私なりに提案をします。
まず必要なのは、日本の労働者がいったい本当は何時間働いているのか、何にどれだけ時間をかけているのか、実態を正しくつかむことです。ところが、現状ではサービス残業が常態化しているために、各社の人事部でさえも社員の正確な労働時間を把握できていません。
サービス残業は、それ自体が違法であるがゆえに、「みんなやっていることは明白であるのに、やっていないもの」とされてきました。これを行政が強制力を働かせてでも、明るみに出す必要があります。本当の実態がつかめてこそ、「コア業務以外の業務に多くの時間が割かれているから、この部分はアウトソーシングをしよう」「この部署はどう考えても人員不足だから、人員の拡充を図ろう」といったように、適切な打ち手を講じることが可能になるからです。逆に実態がわからないまま対策を講じるのは、病気の治療で言えば、当てずっぽうで投薬や手術をするようなものです。
また今回の働き方改革では、残業時間に上限規制をかけることが議論されました。でも、本当に大切なのは「規制」よりも「助成」です。
私が危惧するのは、残業を減らすための環境や仕組みを整えないまま上限を設けると、社内で時間内に仕事を終えることができず、自宅に仕事を持ち帰る社員が増えるのではないかということです。これだと従来は払われていた残業代がもらえなくなるわけですから、かえって労働強化になってしまいます。
ですから、まずは規制よりも助成です。たとえば、ICT(情報通信技術)の活用によって社員の労働時間を減らす仕組みを構築しようとしている中堅中小企業に、助成金を出すなどとサポートしていくことが大切になります。
もう一つ、私がみなさんに提案したいのは、「取引先に対して、過剰なサービスを求めるのはもうやめませんか」ということです。
厚生労働省の調査によれば、残業が発生する理由を、企業側と労働者側の双方に尋ねたところ、企業側は「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」が1位、労働者側は、1位の「人員が足りないため」に僅差で「予定外の仕事が突発的に発生するため」が2位となりました。日本企業はきめ細かなサービスや迅速な対応を売りとしてきましたが、これが私たちを長時間労働へと向かわせている要因の一つになっているのです。
残業や長時間労働は、働く個人の意識改革や努力や工夫で解決できるほどやわな問題ではありません。国はもっと本腰を入れてコミットメントをしないと、掛け声だけで終わってしまう可能性があるのです。
≪取材・構成:長谷川 敦≫
≪『THE21』2017年8月号より≫
更新:11月22日 00:05