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投資の「リスク分散」どうする? 運用のプロが教える米ドル債券の仕組み(後編)

世古口俊介(株式会社ウェルス・パートナー代表取締役)

リスク分散

2024年1月に始まった新NISAにより、今まで主にその資産を現預金しか持たなかった多くの日本人が新たな投資家となり、大量の資金が日本株や投資信託に流入しました。しかし、その後のトランプショック等の影響により、株式相場は乱高下を繰り返し、投資リスクが顕在化しています。

本稿では、投資リスクを分散させる資産配分を考えるうえで、有力候補となりうる米ドル債券について、株式会社ウェルス・パートナー代表取締役の世古口俊介さんに、前編・後編の2回にわたり詳しく解説して頂きます。

※本稿は、世古口俊介著『富裕層のための 米ドル債券投資戦略』(総合法令出版)より内容を一部抜粋・編集したものです

前編はこちら:https://the21.php.co.jp/detail/12487

 

④ 残存期間

残存期間は、米ドル債券に投資した元本が現金として返ってくるまでに残された期間を表しています。残存期間が3年なら3年後に、10年なら10年後に投資元本が返ってくるイメージです。残存期間も格付けと同様にさまざまな期間の債券が存在しています。短い債券だと1年、2年、長いと20年、30年、40年の債券もあります。

債券の残存期間は「個人の事情」と「利回りの相場観」で選ぶのがいいと思います。

個人の事情とは、例えば年齢が60歳なので、少なくとも生前に債券の元本が返ってきてほしいと考えるなら、残存期間20年以内の債券だけに投資するわけです。他には、5年後に自宅を購入する予定があるため、まとまった資金が必要なので残存期間5年の債券にしたいなどです。

富裕層でも個人の事情をもっとも優先して残存期間を選ぶのがいいでしょう。

次に、今の利回りの水準が低いと思っているか、高いと思っているか、利回り水準に対する相場観です。

今の利回りが高いと思うなら、残存期間が長い債券に投資したほうが長期間、高い利回りを得られるのでいいでしょう。逆に、今の利回りが低いと思うなら残存期間が短い1年、2年の債券にしてまた元本が戻ってきて高い利回りになっているときに、残存期間が長い債券に投資するほうがいいわけです。

 

⑤ 利率

利率は債券の年間の利息収入の金額を決める基準となるパーセントのことです。

この利率に応じた利息収入が年に2回受け取れる債券が大半です。

例えば、利率4%の債券を10万米ドル分持っていれば、年間で4000米ドルの利息収入になります。2024年現在の為替レートで考えると、米ドル債券1500万円分に対して利率4%だと、毎年60万円の利息収入のイメージです。

利率が高ければ高いほど毎年入ってくる利息収入が大きくなるので、利息をたくさんもらいたい方は利率が高い債券を選びます。

しかし、利率は高ければ高いほど有利かというとそういうわけではありません。

利率が高い債券ほど価格が高くなるからです。毎年の利息収入は大きいが、価格が高いから最後に元本が返ってくるときにマイナスになっていたり、あまり利益が出ないのでトータルの経済効果で考えると利率が低い債券と同じくらいになったりします。

つまり、利率は毎年の利息収入が特に大事な方は重視したほうがいいですが結局、債券価格で調整されるため、過度に意識する必要はないのです。

補足ですが利率が0%のゼロクーポン債という債券も存在しています。

米国債しかゼロクーポン債は発行されていないと思いますが、これは利率ゼロで利息が受け取れない代わりに、債券の価格がすごく低く設定されています。利息なしでも購入価格が50で、償還するときの価格が100なら元本が2倍になって返ってくるので十分に投資メリットがあります。

ゼロクーポン債は利息収入を得たい方が多い個人富裕層が投資することは少ないですが、利息収入が必要ない方は検討されてもいいと思います。

 

⑥ 価格

債券価格の特徴は株とは異なり、価格が100で発行されて100で元本返済されることです。

ですので、すべての債券は発行されたときの価格が100であることを基準に考えます。100で発行されている債券が70になっていれば発行されてから30%値下がりしており、130なら30%値上がりしていることになります。

ここで勘違いしがちなのが、価格が100の債券と70の債券なら70の債券のほうが割安でお買い得と思ってしまう間違いです。債券は利率も含めて考えないとトータルの利益はわからないので、債券の価格だけ安いから有利とは言い切れないということです。

また、債券の価格は毎日変動しますが、株のように株式市場で売り買いされて毎秒時価が更新されるわけではありません。

債券は投資家間の相対取引で行われますので、証券会社では1日に1回価格が更新され、その日の価格で取引するようなイメージです。

売却するときも同じように、証券会社で1日1回更新される価格で売却するイメージです。

 

⑦ 利回り

利回りは、債券を残存期間が終わって元本返済されるまで持っていた場合に、毎年の利息収入と価格の値上がり益(値下がり損)を合わせてトータルで年間の利益率が何%になるかを表しています。

利回りは前述の利率、価格、残存期間の3つの数字を使って計算される総合的な数値なので、債券投資の収益性を判断する上ではもっとも重要な指標になります。

例えば債券Aという利率4%、価格90、残存期間10年の債券があったとします。一方で、債券Bという利率6%、価格105、残存期間13年のAと同じ格付けの債券がありました。

では、債券AとBどちらに投資したほうが経済合理性は高いでしょうか?

実はこの数字だけだとプロの金融マンでもどちらに投資したほうがいいかは即答できない人が多いと思います。
そこで利率、価格、残存期間のすべてを考慮して利回りを計算すると、債券Aは5.5%、債券Bは5.3%という結果になるので、債券投資の総合的な収益性は債券Aのほうが高いという判断ができます。

このように利回りは債券の総合的な収益性を表す指標になるので、債券を選ぶ上では、最初に確認したほうがいい極めて重要な数字になります。

さらに、株式など他の金融資産にはない特徴として、債券の利回りは「確定利回り」だということです。

つまり、米ドル債券の確定利回りとは債券を残存期間が終わるまで持っていれば、米ドルでの年間利益が確定しているという意味です。株式などの配当利回りは配当金額が変動しますし、残存期間がないので確定利回りではないわけです。

例えば、利回り5%の債券を10万米ドル持っていて、残存期間が終わるまで持ちきれば毎年5000米ドルの利益が確定しているということです。

あくまで米ドルベースでの確定利回りなので、投資したときから米ドル安・円高になると受け取る米ドルの円換算の評価は低くなりますが、もちろん逆に米ドル高・円安になると円換算の評価が上がります。

米ドル債券は円高になるリスクはあるものの高水準の確定利回りを得られて安定的に資産運用できる資産として、富裕層に選ばれているわけです。

基本的には、利回りで米ドル債券の収益性を、格付けでリスクを把握して投資する債券を選びます。
この7つが米ドル債券の仕組みや商品性を理解する上で、もっとも重要なポイントになります。

債券は難しい金融資産と思われがちですが、この7つのポイントさえしっかり押さえていれば、債券をマスターしたといっても同然なので、まだ理解が追いついていない方は何度か読み返してみてください。

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